第52話罠
「にしても、一瞬で突破できたな!」
その日、俺達は川沿いに張られている王国の防衛線を燃やし尽くした。
川も凍らせたし、しばらくは簡単に行き来が出来る。
合衆王国軍もすぐに進軍を再開できるだろう。
酒は流石に飲まないが、それ以外はいつも通り。
俺達は火を囲んで談笑していた。
「明日はどうするんだ?今日と同じ感じで行くのか?」
「あぁ、なんならこのまま俺達だけで王国軍を潰そうぜ!」
俺達懲罰部隊は結成されてから一度も負けた事がない。
というか苦戦したことすらない。
もう、俺達を止めれれるものなどいない気がしていた。
――しかし、そんな俺の胸の内を察したのか、レオが強い口調でこう告げる。
「ライト、最近の君は慢心し過ぎだ。俺達は最強だが、所詮は部隊。孤立して食料が付きて、夜も攻められたらずれ疲弊して全滅する。ある程度は合衆王国軍と足並みを揃えて進軍した方が良い。」
「うぐっ」
確かに、今のは慢心だな。敵が弱すぎるからって調子に乗っていた。
「...そうだな、少し調子に乗りすぎた。じゃあ、明日はこの周辺で待機。友軍の到着を待とう。」
俺はそう考えを改めるのだった。
〇
◇異大陸征伐軍総司令部にて。
「南部戦線東部の防衛線が突破されました!当地域にて防衛作戦従事していた全部隊が壊滅...いや、全滅です!」
窓の外に広がる海を見ながらワインを飲んでいると、伝令兵が慌てた様子でそう報告をして来た。
以前なら虚偽を疑うような内容の報告。
しかし、俺様はそれを信じることが出来た。
それは、部隊を全滅させた敵に心当たりがあるからだ。
「遂に出てきたか...準備は出来ているな?スペンサー。」
椅子に座って目を瞑っている男へ、そう声を掛ける。
「あぁ。」
「ハッ。今から息子を殺すってのに、その余裕ぶり。そんなんだから愛想つかされるんだよ。」
「...」
「チッ、だんまりかよ。」
完全に無表情。相変わらず感情を表に出さないヤツだ。
...だが、長年の付き合いだから分かる。アイツの心の中は焦りと悲壮感で溢れかえっている事だろう。
正直な話、コイツが息子を殺せるとは思っていない。
だが、それでも貴重な戦力。息子と戦うのは酷だろうが、置いて行く事は出来ない。
「...貴様の師匠は来るのか?」
「あのジジィなら来ねぇよ。弟子も寄越さないってさ。」
「そうか...あの方が戦争に来れば、その時点で勝ちが確定したのだがな。」
悔しいが、コイツの言う通りだ。
魔術王とかいう立派な称号を持っておきながら、アイツは戦争に参加した事がない。
あのジジィが来ないから、戦争はこんなにも長引いたのだ。
全く、腹立たしい。
「戦力は?」
「通常戦力は全残存部隊、計10万。それと俺様、お前、聖女、あと無詠唱の使い手だ。」
俺と王国軍はまだいい。
だが、問題はコイツ達だ。
息子を殺したくない剣聖。
若いし昔の記憶もないという信用出来ない魔術師。
何か精神的にダメージを負ってるらしい聖女。
...何度考えても酷い手札だ。これで戦いになるのか?
とは思うものの、出来ることはすべてしたのだ。
賽は投げられた、というヤツだ。もうどうしようもない。
「ま、がんばりますか。」
この戦いは、王国の今後を決める重要な戦だ。
どんな手を使ってでも、勝利を得てみせる。
敵の進軍速度を考えると、決戦は明後日。
「全軍に伝えろ、作戦開始だとな。」
さぁ、運命の時だ。
いくら魔術が強かろうと、お前らじゃ俺様の策には勝てない。
調子に乗ったクソ餓鬼に、現実ってのを見せてやる。
〇
防衛線突破から二日経った。
俺達は昨日、予定通り友軍と合流した。しかし、合流した時には既に日が落ちかけていたので進行再開は翌朝に変更。
そして夜は明け、俺達は敵基地へと進み始めたのだった。
そして今に至る。
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.....
にしても、敵が少なすぎる。
罠を疑う程...いや、確実に罠だ。
先程から偵察らしき兵がこちらを観察しているのが分かる。
「レオ、明らかに罠なんだが...このまま進んでいいと思うか?」
我らが参謀にそう尋ねると、レオは少し悩む素振りをみせる。
しかしその悩みを振り払うようにして頭を横に振って口を開いた。
「罠だとは思う。だが、それが俺達のために張られたモノだとは考えられない。恐らく対合衆王国軍用の罠だろう。彼らのためにも罠はここで潰すべきだ。」
レオの言葉を聞き、俺は思案する。
まず、今回の作戦はこうだ。
俺達の先行して敵を発見、そのまま敵に魔術をぶち込みながら友軍の居る方へ敵を引き付ける。そこで友軍とスイッチして後は友軍として戦場を駆け回る。
敵が俺達を追いかけてこなかったらそのまま合衆王国へ報告し、それが終わったら再び先行して魔術をブチ込むの繰り返し。
つまり、俺達は先行部隊兼偵察部隊なのだ。
となると、とるべき行動は一つ。
レオの言うと通り、罠だとしたら先に潰しておくべきだ。
「このまま進もう。たとえ罠があったとしても、俺達なら乗り越えられる。」
目指すは、目の前に見える山の頂上。
あそこなら敵の位置も、掛けられた罠がどんなモノかも一目でわかる。
そうして、俺達は山を登り始めるのだった。
〇
「そういえば、最近二日酔いがなくなって来たよな、お前。」
山を登っていると、ガルにそう話しかけられた。
「そうだなぁ...寝起きは酷いんだけど、治れって念じたらだいたい何とかなるようになった。」
「なんじゃそりゃ。聖魔術か?」
「んな訳ねぇだろ。」
王国の貴族は小さい頃に聖教会から検査を受ける事が義務付けられている。
俺もその例に漏れず、検査を受けた。
その結果は“適正なし”だ。
聖魔術とは先天的なモノだ。今になって発現することなどありえない。
「じゃあ
「いや、単純に気持ちの問題だろ。二日酔が治るいくらいで大げさだぞ。」
しかし、
実は俺達の中で持ってる奴、一人もいないんだよね。
まぁ魔術でゴリ押しできるからいいけど。
と、その時。先頭を歩くリアムがそう声を出す。
「もうすぐ山頂だぞー」
「やっとか」
ここ周辺の山、木が多すぎて外の景色が見れないんだよなー。
多分頂上も木で覆われているだろうけど、魔術で吹き飛ばせば視界も晴れるだろう。
〇
「予想通りですね、司令。」
「ハハッ。やっぱり魔術力しか取り柄のない部隊だな。ちょれ~!」
そう言い放ち、バカにしたような笑みを浮かべるエイベル。
しかし次の瞬間にはその笑みを消し、真剣な顔をしてこう言うのだった。
「全軍に伝えろ。敵主目標の行動、全て予想通り。合図を待て。」
〇
――そうして歩くこと5分。俺達は山頂に到着した。
「やっぱり何も見えねぇ...吹っ飛ばしていい?」
「どうぞー」
鬱陶しそうに木を睨みつけるガルの確認に、適当に返事をした。
「了解。“ロック・バレット”」
ガルがそう一言呟くだけで、空中に大きな岩塊が幾つか出現した。
そして、それは猛スピードで周辺にあったいくつもの木が吹き飛ばしていく。
これで敵に位置がバレるだろうが、俺達も敵を視認できる。
ここからはスピード勝負だ。
そう思って、俺達は山の頂上から下を見下ろす。
「―――は?」
俺達の目に映る、大量の王国兵。
それによって、自分たちの居る山が完全に敵に囲包囲されていた。
あまりの光景に呆然としていると、王国軍から花火の様なモノ打ち上げられる。
それを機に、大量の火が山を襲う。
それは瞬く間に燃え広がっていった。
「―――嵌められた...ッ!」
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