第51話復讐の始まりと、一つ目の罪。



あまりの光景に、思わず息を呑む。


(ムリだ...絶対に勝てない!)


凍った川を渡ってこちらに近づいてくる敵を見て、本能的に悟ってしまった。

死ぬ、と。


「サム、魔術で穴を掘れ!隠れるんだッ!」


俺の判断は早かった。

戦っても死ぬし、逃げても死ぬ。


なら隠れるしかないと思い至った。


サムは鍛冶師だから、ある程度は土魔術が使える。

だったらそれで地面に穴を掘ってやり過ごすのがベストだ。


命令もなく敵から隠れる。本来なら厳罰モノだが、今はそんな事に構っている訳にはいかない...!


「...クソッ!何でこんな事になんだよ!」

「文句言うな、急げ!」

「分かったよ!――土の精霊よ、我が声に応じてその御身を動かしたまえ!――サンド・ホール!”」


少しヤケになったのか、叫びながら詠唱するサム。

しかし、土の精霊はその声に応えてくれたらしい。


地面に、ちょうど二人くらい入れそうな穴が出来た。


先に入ってるぞと言って穴に飛び込むサムを見て、俺も飛び込む準備をする。


そして、飛び込む寸前。


最後に敵の位置を確認しようと、川の方へ顔を向ける。



―――瞬間、顔に熱気を感じる。何だ、思う間もなく。走馬灯を見る暇もなく、俺の意識は途絶えた。









目の前を、巨大な炎が通り過ぎた。


親友が、それに飲み込まれた。


無意識に、彼へと手を伸ばす。


腕が燃え、激痛が走る。それでも腕を伸ばして、親友を掴もうとする。


その時、何か硬いモノを掴んだ気がした。

だが、それが何かを確認する前に、猛烈な風が俺を襲う。


たまらず穴の底へ落ちてしまい、背中に衝撃が走った。

そこで、俺の意識は途絶えた。









「うぅ...いってぇ...」


体の節々が痛む。

目を開けるが、視界はハッキリしない。


どうやら煙が充満しているようだ。


状況が掴めないので、最後の記憶を思い出そうとする。


(確か、アイツと話してたら...川が凍って...それでアイツが穴を掘れって...)


「そうだ!デイビット!!」


最後の光景を思い出す。親友が、炎に呑まれる光景を。


「いやだ、いやだいやだ...!なんでこんな事に!俺は絶対に認めない...!」


醜く喚きながら、何とか穴から這い出る。

そのおかげか、いくらか視界が晴れた。


――だが、そこに広がっていたのは、地獄だった。


陣地は消滅し、ただ灰色の世界が広がるのみ。

ところどころに、仲間のモノと思わしき死体が燃えていた。


「そんな...」


あまりの光景に、膝から崩れ落ちた。


呆然として、その光景をただ眺める。


その時。


ふと左腕手に違和感を覚えた。


「ヒッ」


焼け爛れ、醜くなった腕。

それが、自分のモノだと信じられなかった。


見た目に反して、痛みはそこまで酷くはなかった。

きっと、痛覚神経ごと燃えてしまったのだろう。


指が溶けていて、隣の指とくっついている。


それをなんとか剥がし、左手を開けた。


そこから、何かが零れ落ちた。


何だ、と思ってそれに目を向ける。



その瞬間、止めどなく涙が溢れてきた。


「ぅあぁぁぁぁ...バカ野郎おぉ...ま、マリーと幸せ...幸せになって...俺に...俺に見せつけるんじゃなかったのかよおおおぉ...何で先に死んじゃうんだよおぉ!!」



茶色のペンダントを胸に抱き、その男は慟哭する。



「絶対に...仇をとってやるッ!!」


その目に、復讐の火を灯して。



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