第50話反抗作戦開始


作戦開始前の演説を終えた俺達は、合衆王国軍の部隊と共に歩いていた。


目的地は戦争の激戦地、南部戦線。


国王直々の激励によってか、兵士たちの士気は最高潮に達している。



...だが、俺達はそうでもなかった。

理を破壊する者システム・クラッシャーを派手にぶっ放そうとした俺達のテンションはヤバかったのだ。全力で、真剣に魔術に取り込んだし、発動も成功した。


それは喜ばしいことなのだろう。


...だが、その効果は今だ不明。

謎の巨大魔法陣を空中に出現させるだけのモノだった。


もっと凄いナニカを期待していた俺達からすれば、拍子抜けもいいところだ。


まぁ、俺達以外から見れば充分神業に見えたのが唯一の救いだろう。

眼下の兵たちは“神の御業だ!俺達は勝てるぞ!”とか言って盛り上がっていた。


俺達は不満だったけどな。



「マジで魔力の無駄やんあれ...」

「それな...」


そう愚痴りながらも、俺達は着実に戦線へ進むのだった。









一週間後、俺達は戦場に到着した。

俺達が担当する戦線は南部戦線の東部。


激戦地と称される南部戦線の中でも比較的停滞している場所だ。

ここを強く攻めれない理由は、目の前に広がる川だろう。

これがあるせいか、王国もここに配置している人員は少ない。


そんな場所に貴重な戦力である俺達を派遣したって事は...


「絶対私の心配してるからでしょ...」


呆れながらそう言うサラ。


そう、アイツこんなところでも親バカ加減を見せつけてきやがった。

娘を激戦地なんかに送り出すモノか!という固い意志を感じる。


「ってことで、その思いを全力で破壊しよう。」


川が邪魔で攻勢を掛けにくい?

なら、川をなくせばいい話じゃないか。






◇王国兵視点


「なぁ、俺達いつ帰れると思う?」


眠そうな顔をしている親友のサムに向けて...いや、誰にむけるでもなくそう呟く。

きっと、サムだってその答えを知りたいだろうから。


「さぁな...ま、剣聖も来るらしいし、直に終わるだろうさ。」


サムだって、分かっているのだろう。

王国がずっと温存していた戦力をこのタイミングで送ってくるという事は、それだけ追い詰められているという事に。


実際、俺達は追い込まれているのだろう。この前の砦奪還作戦では聖女や学園最強の少年も参加していたらしいが、結果は辛勝。

俺達が居る東部はまだましだが、中央や西部はもう喰い破られたという話も聞く。


ここも時間の問題なのだろうか...


そう暗くなった俺を見たからか、サムはわざとらしく明るい声を出す。


「いいよなぁお前は。可愛い女の子がお前の帰りを待っているんだから。」


その明るさに少し救われた気持ちになりながら、俺は思い出す。


サムの言う通り、俺には婚約者がいるのだ。

名前はマリー。俺の自慢の婚約者だ。可愛くて、少し天然、そして不器用。でも不器用なりに頑張ってくれているのが何よりもかわいい。


俺もサムを揶揄うような事を言ってみる。


「ハハッ。おだててもお前にはあげないからな?マリーはお前じゃなくて俺を選んだのさ!」

「ウゼェ...ま、末永くお幸せに...ハァ、何回目だよこのやり取り?」


そう、実は俺とコイツはかつては恋敵だったのだ。

野郎二人と可憐な少女一人。野郎同士の争いは何とも醜いものだったことだろう。

だが、勝ったのは俺だ!俺達が幸せになるのを特等席で見せてやるよ!


...彼女に選ばれた俺は、そうやってサムを煽っていた。

サムは悔しそうだが、少し晴れやかな顔で俺達を祝福していた。


俺達は結ばれ、サムは死んだ父の職だった鍛冶師になれた。

あの時が、最も幸福な時間だったと断言できる。



それだけに、徴兵令を突き出された時の絶望感は中々のモノだった。

俺とマリーが婚約したばかりで、これから幸せな生活が始まると思っていたから尚更だ。


彼女も、物凄く心配していた。


――彼女の為に、俺は何としてでも生きて帰らなければ。


そう決意を新たにしながらも、そんな重い雰囲気は欠片も出さないで再びサムに話しかける。


「お前にも帰りを待つ女の子がいるじゃないか?。

「どうだか...アイツ、心の中では“戦死してくれないかなー”とか思ってんじゃね?」

「んな訳ねぇだろ。」


サムには妹がいる。名前はエマ。

貧民街でも、よく一緒に遊んでいたのを覚えているくらい仲が良い。


エマは兄であるサムに対していつも悪口を言っているし、態度は最悪だ。

だが、俺はそれを彼女なりの照れ隠しだと思っている。


召集令状が突き付けられたその日から毎日、彼女は兄に隠れるようにして泣いていたのを知っている。


それだけ兄の事が心配なのだろう。


...彼女は、今も泣いているのだろうか。


首に掛かってあるペンダントを手慰みにいじりながら溜息をつく。


「触りすぎて無くさないようにしろよ。大事な物なんだから。」

「分かってるよ。」


これは、俺達の思い出。

貧民街でゴミを漁って暮らしていた時のモノだ。


貴族街の近くでは、偶にガラスや陶器などの欠片が捨てられる。

その中から、特にきれいだと思ったモノを集め、形を整えてペンダントにした。


俺は茶色、マリーは金、サムは赤、エマはピンク。

それぞれの髪の色をもとに作ったソレは、俺達の何よりの宝物だ。


「...なぁ、デイビット。もし俺が死んだら、このペンダントを」


「黙れサム。お前だって知ってる筈だ。“もし自分が死んだら”を話した奴は大体すぐ死ぬ。不安で、未練があって、心配事があるのは俺だって同じだ。けど、それが無くなったやつから死んでいく。」


俺の脳裏を...いや、俺達の脳裏をよぎる多くの戦友たち。

その中には、晴れやかな顔をして死んでいた者もた。


だが、仮に俺達がこの戦場で死んだとしたら。

その死顔は、無念と悔しさで満ちていなければいけない。


「...すまない、悪かった。」

「気にすんなって!そもそも、攻勢が穏やかな東部で死ぬ事なんてないさ!」





―――その時、見張りの兵が叫んだ。




「敵部隊に動きあり!こちらに突撃しているぞ!少数だ!」


...最近多いんだよなぁ、少数部隊でちょっかい掛けに来るの。

本格的に攻めて来る訳ではなく、あくまでも敵の士気を下げさせるのが目的だろう。


でなきゃあんな少数で――――



ふと、寒気を感じた。


「何だ?」


そう呟き、川の方..俺達を攻勢から守ってくれている、大きな川の方へ目を向けた。




―――瞬間、俺の楽観的な考えは吹き飛んだ。



「川が...川が凍っているッ!?」






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