第49話神をも喰らった魔術



◇一週間前


「一斉詠唱魔術?」


その日の朝、俺達はいつものように訓練のために集まっていた。


「あぁ、書いて字の通り、一斉に詠唱する集団魔術だ。」

「それは知っているが...俺達が?」


知識としては知っているし、その有用性も理解している。

だが、それはあくまでも普通の魔術師が大勢で扱うモノだ。


今の俺達なら、一人で扱える。


わざわざ全員で詠唱して魔術を放つ必要があるのか?と思った。


「お前たちだからこそ、だ。個人でもあんな魔術を扱えるなら、全員で放ったらとんでもない魔術ができるのではと思ってな。」

「なるほど...」


考えたことすらなかった。

確かに、俺達全員で力を合わせて放つ魔術は、さぞ高威力なモノだろう。


「どんな魔術にするんだ?」

「それも考えてきた。」


教官役のその男は、そこで話を切ると隊員を見渡してから説明を始めた。


「知っての通り、省略詠唱が可能なパターン化された魔術には、込められる魔力に上限がある。」


やけに難しい言葉を使って説明する男。

そういう所だぞと思いながら、言葉の意味を考える。


省略詠唱が可能なパターンかされた魔術というのは、ファイアボールやウォーターボールなど、魔術名のみの詠唱で使用できる魔術のことだろう。


確かに、ファイアボールにいくら魔力を込めても威力はたかが知れている。

それでも俺達の魔術が強かったのは、単純に魔力を込めまくるという効率の悪い力技でゴリ押したからだ。


それを解決するための訓練がほとんどだった。

ファイアランスなどの高位魔術、同時発動や連続発動を組み込んだ魔術などを覚え、魔術効率を爆上げした。


火力は世界一といっても過言ではない。


だから、これ以上高威力の魔術を使ったところで意味はない気がするのだが...


「お前の言いたいことは分かる。だが、この魔術は敵を倒す為ではない。」

「敵を倒すためだはない...?」

「そうだ。敵の戦意を奪い、仲間の士気を上げる。その為の魔術だ。」

「なるほど...どんな魔術だ?」


そう尋ねると、教官は勿体ぶるように少し目をつぶった。

そして再び目を開ける。


その目には、隠しきれていない興奮の色がにじみ出ていた。



「――理を破壊する者システム・クラッシャーという魔術だ。」





その魔術の発動は、神話の時代含めてたったの一度だけ。

いつのモノか分からない石板に記されていたらしい。


その内容は、酷く現実離れしたモノだった。


その中に、こんな記述がある。


“神々の戦いは何度も行われたが、最後の戦いラグナロクは最も苛烈なモノであった。しかし、それは突然終わりを迎える。システム・クラッシャーによって。その魔術は、世の理を破壊するモノだ。神々より更に上位の存在はその魔術を削除しようとしたが、それが実行される頃には神々は皆姿を消していた。――――”


システム・クラッシャー。それは、魔術の名前だ。

しかし、それがどんな魔術か知る者はいない。


理由は単純。発動に掛かる魔力量が多すぎるからだ。

知られているのが魔術名のみであることも、それに拍車をかけている。


...そんな非現実的なモノを俺達が?


「威力も規模も分からないんだ。王都の人々に被害が出たらどうする?」

「直前に解除しろ。」

「えぇ...」


教官の言っている事は間違っていない。

魔術の基本であるキャンセルを使えば、詠唱が完了した魔術でも発動を取り消すことが出来る。


「リスクがくなるって事じゃないんだぞ。分かってるのか?」


ガルが困惑しながらそう言った。


彼の言う通りだ。魔術を取り消したとしても、結局魔術を発動した時と同じ魔力量が消し飛ぶことになる。つまり、俺達全員が魔力切れになる確率だってない訳ではないのだ。


「それでも試す価値はあると思うのか?」

「あぁ」

「ハァ...そこまで言うならやって見るか。」







....................................................

...................................

..........................

...........

.......

....



結論から言おう、俺達は成功した。

発動はしていないので、それがどんな魔術かは分からない。


それでも、その魔術の発動は可能だと証明できた。



―――懲罰部隊全体の魔力量の、およそ8割を使う事で...






そして視点は再び現在に戻り――――


(まさか、こんな早い段階でアレを使う事になるとは。)


そう予想外の展開に驚きながらも、俺は興奮したいた。


俺もアイツの演説にあてられたのか、気分が大分高揚している。

絶対に成功させなければという使命感も、それに拍車をかけているのだろう。


なにより、神話の魔術を俺達の手で再現出来ることが俺達を興奮させていた。


「やるぞ、お前ら!!」

「「了解!」」


珍しく揃っている返事を聞きながら、目を閉じて集中力を高める。


「懲罰部隊、一斉詠唱。魔術種は...“アレ”を使う。詠唱開始まで、3...2...1。」


さぁ、伝説の再演だ...ッ!!



「「理を破壊する者システム・クラッシャー!!」」



瞬間、俺達を襲う脱力感と、何かがごっそり消えた感覚。

そして、それは魔術が発動した事を示している。


自分達が放った魔術がどんなモノなのか、それを確認しようと周りを見渡す。


だが、何もない。


意味が分からず困惑していると―――少しだけ、辺りが暗くなった。


今日は曇が多かったし、太陽が隠れただけだろう。

そう思ったものの、何処を見ればいいのか分からないので塔から身を乗り出して空を見上げる。


所々から青空がのぞく、ごく普通の空...


しかし、何処かで違和感を覚えた。


雲の奥、何かが輝いているように見えたのだ。

太陽かと思ったが、太陽にしては大き過ぎる。


時間の経過が、酷く遅く感じた。


ゆっくり、ゆっくりと晴れていく雲。


そして、雲が晴れるにつれ姿を現していったのは...


「なんて大きさだ...ッ!!」



―――――――――――巨大な、魔法陣だった



見る者全てを圧倒するほどの、巨大な魔法陣が、上空で光を纏っていた。

この景色を作るのは、神以外では不可能だと思わせる、神秘的で非現実的な光景。


これが、理を破壊する者システム・クラッシャーか...ッ!!











...おい。


いや、待てよ。待て待て待て。


「...それだけ?」













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異世界ファンタジーの週間ランキング、85位になりました。

まぁまぁ順調です。

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