第48話反撃せよ
「手伝って欲しいこと...?」
「あぁ、演説中、私が合図を出す。そのタイミングで出来るだけ派手な魔術を空中にぶっ放してくれ。」
「それはどういう...」
王の言っている言葉の意味が分からず、思わず聞き返そうとする。
だが、王はそれを遮ってこう言った。
「まぁ見ておけ。」
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今日で、建国から30年が経つ。
あの日の事は、まだ覚えている。
多くの部族が滅ぼされ、多くの人が故郷を捨てて逃げた。
今でも、逃げ伸びた人達のことを思い出す。
妻を、子を殺され、絶望に打ちひしがれる男。
恋人を目の前で犯された挙句殺され、復讐の火を目に灯した若者。
家を、畑を燃やされ、これからどう生きていけばと嘆いていた老夫婦。
それらを見たあの時の私は、それらを齎した王国という存在に恐怖し、逃げ出したくなった。
多くの部族が点在するだけの我が大陸に、王国と対抗できる戦力などなかった。
だから、まだ10にも満たない私はあの時、父親に「逃げよう」と言った。
―――その時の父親の目は、今でも脳に焼き付いて離れない。
私が王となる事を決意する切っ掛けとなった、あの目...
その日から、父は変わった。
家族を深く愛す、ごく普通の父...だが、自分にとって唯一無二の父だった彼は、変わった。
各部族を纏めあげ、同盟を組み、その同盟の長となった。
そして、忙しくなるにつれ家族との時間は短くなっていった。
優しかった彼は、投降してきた王国兵を皆殺しにし、同盟に加盟する事を躊躇った部族へ王国軍を誘導し何人もの人間を見殺しにした。そして、王国は残虐だ、生き延びたければ我らの同盟に加盟しろと脅し、その勢力を拡大した。
もう止めて、と嘆く母を無視し、父はさらに指揮者として活躍した。
彼の指揮する同盟はどんどん大きくなり、やがて国となった。
その時、母が疫病で死んだ。
そして、その葬儀に出ずに王国と戦い続ける父を見て、彼はもう父ではなくこの国の指導者なんだな。と思った。
だが、彼は王国が大陸から撤退するのをその目で見る事なく、母と同じ病になった。
彼の体は日に日にやせ細り、彼の咳には血が混じるようになった。
それでも、彼は指導者として指示を出し続けた。
やっぱり、彼はもう父でなく指導者なんだな。そう思ったある時、父が遂に倒れたと聞いた。
もう最後かもしれないと思って、彼が眠る部屋に飛び込んだ。
そんな私を見て、彼はごめんなと言った。
それが何に対する謝罪なのか、当時の私には分からなかった。
彼の目は...ずっと昔、まだ王国との戦いが始まっていない頃の目だった。
そして、最後に愛してるとだけ呟き、彼は母が待つ天国へと旅立った。
自分も親となり、また、人を率いる立場となった今なら分かる。
あの時の...「逃げようと」父に縋りついたあの時の自分を見た、あの目の意味が。
あの目は、滅びゆく
理不尽を振りまく敵に、自分達の意地を、魂を見せつけてやるという闘志を宿した目であり。
強大な敵に恐れをなす息子を見て、そんな思いはもうさせんとする、慈愛の籠った目であったということが。
つまり、あの謝罪の意味は――
「息子に、平和な世界を見せられなくてごめんな...か。」
「...陛下?」
「いや、なんでもない...少し、物思いに耽っておってな。」
心配するような視線を向けて来る部下にそう答え、自分もまた決意を固める。
(無念に散った、父に、もう死んでしまった
「さぁ、演説だ。」
合衆王国第二代国王、アレクサンドリア・ブリセーニョはそう呟き、彼の演説を待ち望む兵士達に演説始めるのだった。
彼が憧れる、父の姿を思い出しながら。
〇
「私が、この国、合衆王国の国王、アレクサンドリアだ!!まずは、我が求めに応じ、ここに馳せ参じた南と北の勇者達に感謝の意を捧げよう!!」
声に応じ、大きな喚声を上げる兵士達。
それを見ながら、彼は言葉を続ける。
「諸君、今日という日は、記念すべき日だッ!!我らの大陸に攻め込み、我がもの顔で占領し続ける侵略者共は、今日、この時を持って我らが滅ぼす事を宣言しよう!!」
思い出すのは、故郷を捨てて逃げ延びてきた人々の顔。
「思い出せ!!今までの雪辱を、屈辱を、悲しみを、絶望を、怒りをッ!!
思い出せ!!故郷を燃やし、友を、恋人を、家族を殺し、その尊厳すら奪った王国の、悪魔の如き所業をッ!!」
我が子が侵略者に怯える事のない世界を作るという父の夢は、私が引き継ぐ。
この演説は、その決意表明だ。
「今こそ、復讐の時だ!逆襲の時だ!反撃の時だッ!!!」
この宣言によって、我が国は更に戦争の泥沼に足を踏み入れる事になるだろう。
「王国は悪魔だ!我が国に悪逆を押し付けるだけでなく、自国民にも理不尽を押し付けている!!」
それでも、夢の為に。
「その証拠だ!!この者達は、王国に尊厳を、名誉を、誇りを、家族を奪われた!その者達の恨みに、復讐心、義憤に!!神は応えた!!!」
どんな手段だろうと、どんな人間だろうと、使って見せる。
そんな思いを込め、懲罰部隊の隊長、ライトという少年に目を向けこう言った。
「今だ、やれ。」
〇
(凄い)
彼の事は、優秀だが親バカな王だと思っていた。
だが、その認識はどうやら間違っていたようだ。
彼は、覚悟と決意を持ち、子を愛し、そのために優秀な王を演じる父だ。
その男の魂の籠った演説は、凄いの一言だ。
それに、答えないわけにはいかない。
「やるぞ、お前ら。」
「「了解」」
まさか、こんなタイミングで“アレ”を使う事になるとは―――
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