第47話 訓練



「あー...マジで最高」


 至福だ。本当に至福だ。

 これが幸せという物なのだろうか。決着の付いていない負の感情は大きいけれど、それでもこの感覚が不幸に類するものではないと確信する。


 失って初めて分かる、日常の中の幸せとありがたみ。俺は今それを噛み締めていた。

 焼きたてのパンと目玉焼き、そしてベーコン。俺が冤罪を被る以前に毎日口にしていた献立とほぼ同じだ。

 だが、あの時は美味しいとも有難いとも思わなかった。


「美味そうに食うなぁ、普通でしょ」

「何言ってんだよ、普通の如何に素晴らしい事か」


 半目でこちらを見るリアムに言葉を返す。

 普通、それは俺達が望もうとも手に入れる事が叶わない物。血に染まった手、復讐に穢れた心。そんなものとは程遠い存在。

 しかし、もしかしたらそれは得ようとして得るものではなく、ただ気付くことで手に入るものなのかもしれない。


「お前がそれ言うの十回目だぞ」

「まったくだよ、朝っぱらからよく元気出るな」


 寝起き故の不機嫌さが俺へ向かってきた。

 応える義務はないので、俺は沈黙してただ思案する。たしかに、これでメシを食うのは十回目になるだろう。国王への謁見をした翌日から、三食きっかりが三日分だ。

 そしてその間、俺達はかつてない程豊かな生活を送っている。今言ったように毎食食事が出るし、寝床もあるし体も拭ける。敵の奇襲を警戒する必要だって無い。


 無論何もしていない訳ではない。リチャードが寄越した教官の元訓練に励んでいる。だがそれすらも充実の一因である。


「教練だりぃ...」

「ホントになぁ、厳しすぎるってあの野郎」


 一部の隊員にとってはそうでもないみたいだが。

 まぁ、あの教官が厳しいのは同意する。しかし、多くが一般人上がりである俺達を、経ったの数週間で使えるようにしなければならないのだ。無理も無いだろう。

 そしてそれ以上にコイツらの態度にも問題がある。

 よく言えば個性的、悪く言えば協調性が皆無。テンバーを含め復讐一辺倒な連中は特にそうだ。


「しかしな、この国の元で戦う判断をしたのは我々だ。ならば指示に従うのが筋という物であろう」


 相変わらずの固い表情と言葉遣いで正論が吐かれた。

 このレオのように、真面目なヤツも居る。俺だって従順な方だろう。あくまで感覚だが、行動原理にサラへの恩があるヤツほどそう言う傾向がある気がする。


「アンタは真面目過ぎんだよ。まぁ、無意味に突っかかっても馬鹿らしいとは思うがな」


 パンを口に入れながらガルが言う。その言い方と内容は不真面目に思えるが、以外にも彼は普通の一言に尽きるだろう。

 特に意味のない雑談を耳に、俺はパンの上に最後まで残しておいた肉厚なベーコンの欠片を乗せた。口を大きく開けてそれにかぶり付く。

 カリッとした食感、肉の脂と塩気が口いっぱいに広がる。噛み締めればそれを中和する様にパンの柔らかい風味が鼻をつく。

 やがて両者の区別がつかない位に噛んでから呑み込む。

 これで俺の朝飯は終わりだ。


 三日というのは胃腸が本調子に戻るには不十分であるが、さりとて食べれる量は多少増える物である。

 昨日までなら満腹だったが、今の俺の胃袋には余裕があるようだ。まぁ、満腹の状態で体を動かすのはキツいので構わないが。


「...うし、行くか」


 手についたパンくずを腿で払いながら立ち上がる。ここは大きな街なだけあって、時間を告げる鐘が鳴らされるのだ。そして次にそれが鳴らされれば、それは訓練開始の合図である。

 因みに、俺達がメシを食っているこの場所は王城の近くに併設されていた軍の施設、その食堂である。基本的に訓練場に居座る俺達だが、それでも多忙そうに走り回っている兵士達が目につく。

 更に因むと、時間がずらされているのか、彼らと共に食事をする事はない。


 まぁ、あまり踏み入っていい場所じゃないのだろう。

 参謀本部か指揮所か、王城の近くにある軍事施設というのは得てして重要度が高い物なのだから。


 食事を終えた俺達はそそくさと訓練場に向かうのだった。



 〇





「おはよう諸君!!」


 野外、軍事施設から少し離れたただっ広い訓練場に、大きく力の籠った声が響いた。

 アイツが俺達の教官係をしている男ことドレイクである。

 恰幅は良いが六十代、顔に刻まれた皺と刀傷は彼が現役からは退いた男である事を示していた。


「返事はァ!」

「「おはようございます!」」


 慌てて返事をする。

 こう言う所で声が揃わなかったり小さかったりすると面倒くさいのだ。何か気に喰わない事があれば直ぐに走らされるのである。

 だが隊員達もそれは理解しているのだろう、珍しく声の揃った返事だった。


 そうホッとするのも束の間、満足気ながらもドレイクは口を大きく開く。


「よろしい!では教場三周!」


 何処がよろしいんだよ。理由なく朝っぱらから走ららせるなんてどうかしてんだろ絶対。

 そう喉元までせり上がった文句を抑える。言ったら走る距離が追加されるのは目に見えているのだ。少なくとも、軍事にとっては理不尽に耐えるのは義務みたいなもの。


「...了解サー・イェッサ―!」


 胸の内では愚痴を溢しながらも、俺は腹から肯定の言葉を吐いた。

 声の大きさには自棄が多分に含まれているかもしれない。


「他ァ!」

「「了解サー・イェッサ―!!」」


 遅れて隊員達も大きな声で返事を叫ぶ。

 俺はそれを背に既に走り出していた。とは言え隻腕、直ぐに追いついた隊員らが文句を言いながら追走してくる。


「クソッ、だと思ったよ...」

「何もしてねぇだろ今日は!」


 呆れと理不尽への怒りを露わにしながら言うのは何時もの如くテンバー。

 初日は酷かったものだ、文句に次ぐ文句、反抗に次ぐ反抗。そのせいでどれだけ俺達が走らされたことか。最早数えるのも馬鹿らしいとしか言えない。

 彼にとっても、そして俺達にとってもそれは本意ではない。頼むから少しは言う事を聞けとどやされたこともあってか、今日の彼は比較的従順であった。


「駄弁る余裕があるとは結構!!二周追加ァ!」


 ――と、背後から再び大声。

 絶望と共にみやれば、そこには老いを感じさせない走りを見せる教官が居た。

 年齢差があるとはいえこちらは訓練経験どころか基礎体力すらないのだ、追いつかれるのは早かった。


「いいか、既に説明したが私の役割は貴様らを人間にする事である!老いぼれに負ける様な蛆虫は戦場には出さん!」



 あぁクソ、今日も鍛錬はキツくなりそうだ。

 空を仰ぎながらそう心の中で呟く。空は憎々しい程澄んだ青色をしていた。



 〇



「あーーーー...きっつ...」


 土に寝転び、必然的に俺は空を仰ぎ見た。未だ青い昼空。太陽は頂きに達し、そして俺達の疲労もまたピークの最中にあった。

 俺達がやっているのは軍事訓練のはずだが、今の所走り込み以外にこの体を使った試しがない。

 今日は何週走ったのだろうか。終盤ではもはや数える余裕が無かった。先頭で悠々と風を着るあの教官の背を追うのに必死だった。


「しぬ...しぬ...」

「――――...ゥ、フゥウウ...ぅ」


 しかし俺は比較的マシ。ランニングの終わりはコイツらがぶっ倒れた事で訪れたのだ。あの教官は人の限界を把握するのに長けているのか、いつだって健康を取り戻す途中の俺らに支障を来さない範囲で走らされる。


「全く不甲斐ない...今日の教練はこれで終了だ。午後については昨日と同じである。各員昼食を取ってから指定の場所に移動するように」


 そう言葉を残して教官は去っていった。

 ...いや、教官というが。走らせるだけ走らせて去っていくアイツにその呼び方は相応しくないのかもしれない。

 やや恨めし気にその背中を睨みながらそう思うのだった。



 〇



「あらあら、今日も随分とお疲れなのですね」


 昼食を済ませ、作戦用語やら兵士の生存術の座学を終えた頃。午後四時を知らせる鐘が鳴り響き、太陽が傾き始める時間帯。

 今朝と同じく教練場の一角、やや古びた仮標的が並ぶそこで、一人の女性が口に手を当てならそう笑った。


「ともかく、それでは今日も魔術指導を始めます」


 今朝の教官よりは年下、おそらくは四十代の女性。彼女は魔術の教官だった。

 ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら授業を始める女性は、何処か親しみを感じさせる。十代のような艶やかな黒く長い髪が特徴的だった。

 しかしその魔術の腕はかなりのモノだ。

 魔力量はそこまでだが、魔術に関しての知識と愛が非常に深い事が分かる。


「昨日の振り返りですが、皆さんはこと魔術障壁に関しては突出した展開速度がある事が分かりました。なので今回は強度を鍛えていきましょう」


 あのグラスゴー砦での出来事は記憶に新しい。猛攻をしか続けるサラを前に、懲罰部隊はただ只管に魔術障壁を展開し続けたのだ。あれはかなりのの練習になったと言えるだろう。

 だが確かにその強度には不安が残る。何度破られても再度展開すればいいという話ではないのだ。大威力の魔術を前にすれば成す術がない。


「んだよ、攻撃魔術は何時教えてくれんだ」


 あのなぁ...

 相手を見て態度を変えるのは確かに合理的だが、復讐に狂う人間がやる事ではない。狂犬というよりは相手を見て吠える態度の大きい犬である。

 テンバー、お前やってることダサいぞ?


「いえ、攻撃力に関しては貴方達は非常に優れています。ですが一斉詠唱や魔術陣を必要とする大規模魔術は難易度が高いのです。まずは基礎からですよ」


 子供の無礼に腹を立てた様子はなく、変わらずにこやかに彼女はそう答えた。年の功というヤツなのだろうか、随分と余裕が見て取れる。


「なんかねぇの?めっちゃ強い魔術みたいなの」

「ケッ、相手によって強く出るって情けねぇな。小心者か?」


 出た。これはマイルズの悪い癖である。

 アイツは隊員の中で最も口が悪い。

 そして、基本的には誰にでも噛みつくテンバーとは相性が最悪だ。彼は何時もどこか見下した態度を取っているのだから。


「なんつった、テメェ」

「おいおい、授業中だぞ?ガキは黙って先生の言う事聞かねぇとな?」


 そして予想通り突っかかる二人。

 このままでは魔術の事なんてそっちのけに喧嘩を起こしそうだ。というか正直、アイツらの行動は目に余る。


「黙れ二人とも。テンバーは馬鹿にされるような行動はするな、今のお前は只の馬鹿だ。そんでマイルズ、お前はあえて相手の怒りを煽るようなことはするな」

「...チッ」

「へいへい、隊長が言うなら従いますよっと」


 互いに反省の意図は欠片も無かった。まぁいつもの事だ。

 とはいえ面倒くさい。溜息を付きながら思う。

 隊長ってこんなクソったれた事もしなきゃいけねぇの?


「...馬鹿馬鹿しい」

「いやはや、愉快ですねぇ」

「私に同意を求めないで頂きたい」

「ふむ、まぁ年齢と過去を鑑みれば仕方のない事であろう」


 隊員達はその光景に好き勝手に感想を口にした。

 マイルズと俺は同年代だし、テンバーに至っては更に年少。子供と言って差し支えないだろう。にも拘わらずこの尖り具合、正直かなり異常な自覚はある。


「...えぇと、授業を再開しますよ?」


 気まずげに彼女が言った。

 まぁうん、申し訳ない。


「強い魔術、でしたね。今言った通り、強力な魔術というのは得てして難易度が高いです。仮に習得難易度が五倍になっても、魔術の威力そのものは精々が二倍にしか増えません。貴方達ならば同じ魔術を何度も放つ方が良いでしょう」

「...じゃあ強力な魔術ってほぼ無意味じゃねぇか?」


 先程のテンバーの馬鹿馬鹿しいと思える問いに、しかし彼女は真面目に答える。魔術への真摯さ故だろう。

 そんな解説に、今度はガルが純粋な疑問を呈した。


「そうですね、魔力量が多いならそう思うのも無理は無いでしょう。しかし多くの魔術師にとって、戦いというのは如何に魔力を節約できるかがカギとなります」


 学園では魔術は必須科目だった。エルとの鍛錬の経験もある分魔術の知識は多少なりともある。しかし、こうして人の授業を真面目に聞いた事はあまりなかった。

 学生というのは本来こういう物なのだろうか、と少し新鮮な気持ちと共に俺は黙って話を聞く。


「ですが貴方達には莫大な魔力量があります。それを活かすならば、生存率を上げられる魔術障壁の上達が最重要です」


 彼女はそう結論づける。

 理詰めでそう宣言されてしまっては、あまり頭が良い訳では無いテンバーに反論のよりはない。彼はムスッと黙り込んだ。


「...ですが、そうですね。一魔術師として一つ試してみたいものがあります」


 何か名案を思い付いたように、ぽんと手を慣らしながら彼女は言った。


「神話時代より伝わるとある大規模魔術があるのですが、必要とする魔力量の多さ故に誰にも扱えたことがないのです。しかし貴方達ならば或いは発動できるかもしれません」


 その目は爛々と輝いている。

 彼女も言っていたが、きっと純粋に魔術の世界に生きる者としての言葉なのだろう。


 神話時代の魔術、か。一人の男児として浪漫があるとは思う。


「そういうのって難易度が高いんじゃ?」


 しかし疑問はある。彼女は言っていた、高威力な魔術とは即ち高難易度だと。それに乗っとるのならば、その神話の魔術とやらも難易度が高いはずである。


「あぁ、少し説明不足でしたね。魔術名と魔力。実はこれらが魔術に必要な全てなのです。しかし高威力な魔術をそれらだけで扱うと途轍もなく魔力を喰われます。要するに、詠唱や魔術陣はそれを回避するための技術なのです」


 今一要領を得ない。

 いや、今の説明そのものは理解できるのだが、それが何を意味するのかがよく理解できなかった。


「えぇと、その大規模魔術の効果や目的が分かっていなくてですね。その魔術について知っているのは魔術名だけ、よって技術の応用が利かないのです」


 あぁ、なるほど。

 発動に技量が求められないからこそ、俺達のような魔力馬鹿であれば発動できる可能性があるということか。


「...しかし危険なのでは?」


 発動に必要なのは魔術名、そして魔力だけ。それは正しい。しかし、制御や使い方に関しては技量が要求されるのだ。

 もしその神話時代の魔術とやらが大量破壊を目的としたものであれば、技量が低く魔術への理解もない俺達ではこの街を灰燼に帰してしまうかもしれない。


「...そうですね。考えてませんでした」


 なんだそれ......

 学者肌と言えば良く聞こえるが、今の彼女は完全にどこか抜けていた。

 なんか意外だ。


「こんな当たり前の事に気付けなかったなんて...お恥ずかしい限りです」


 顔を赤くしていた。

 本当に恥ずかしいと思ってるのだろう、多分。


「お気になさらず...あぁ、一応名前を教わっても?」


 もし機会があれば使えるかもしれない。

 そんな軽い気持ちで俺はそう尋ねる。



「えぇ、もちろん。確か―――」



 ちなみにこの後は普通に魔術障壁の鍛錬をした。



 〇




 さて、もう時刻は夕刻。空は柔らかい炎の色に染まりだしている。

 今からやるのが今日最後の訓練だ。


 手に握られたそれを見る。

 なじみ深いそれは剣、俺が求めてやまない物である。

 とはいえ訓練用の木剣だが。


 実は、当初の予定では剣の訓練は無かった。基礎体力と座学、そして魔術講座、これだけの予定だったのだ。

 しかし俺は剣を振りたかった。

 例え隻腕であれど、剣に意味が無かろうとも、それでも俺は剣が欲しかった。


 そう素直に伝えた結果がこれだ。

 とはいえ、俺も現時点でかなり疲れている。予定されていない訓練はオーバーワークというもの。よってこの剣の訓練は望む者のみが参加する事になっている。


 長ったらしくなったが、つまりは自主訓練。

 今までのように教官が居る訳では無い。異国の剣術には興味があったが、合衆王国ではあまり剣が一般的ではないようだ。一般兵士向けの近接戦闘術の内のひとつ、精々がそんな認識のようであった。


 そして自主訓練に参加しているメンバーは俺、フランクとクルト、レオ、リアム、そしてもう一人...やべ名前忘れた。存在感薄いんだよなアイツ。


「昨日と同じ感じでやるか。ペア組んで模擬戦、10分毎に休憩と交代」


 自主訓練なんてこんなもんだろう。ただ重要なのは剣という存在に触れる事。そして腕を鈍らせない事である。


 ...片方しかないくせにとは自分でも思うが。


「やるか、レオ」

「了解した」


 しかし、劣等感が生み出した執着であろうとも、剣は俺にとって最も重要な存在。

 それに触れられている事は嬉しくもある。


 だがレオは強い。

 一介の騎士ではない。大貴族の筆頭騎士を務める程の実力者だ。


 無論一方的にボコされる訳では無い。元々使っていた剣が聖剣と同じくショートソードだったのもあって、俺は隻腕であれどある程度は戦える。

 とは言え常に片腕で戦っていた訳では無い。ショートソードの強みはその対応力と拡張性にあるのだ。盾を用いたり、その場に落ちている武器を投擲したり、片方の腕が使える事でそう言った行動がとれる。

 しかし俺にはそれができない。つまり、今の俺の戦い方はロングソードの下位互換に過ぎないのだ。


 剣を振るえば思い知る。

 俺が奪われたものを、かつての努力の無惨な残骸を。


 自主鍛錬は楽しくも虚しく、無力感と怒りを再燃させるものであった。



 ――――――――――――――

 ※2024/11/10 修正

 以降は修正が間に合っておりません。修正前と後では展開含め様々な変更がされているため、唐突な場面の変化や矛盾が発生します。ご容赦下さい




 〇




「疲れたあ...ぁ」


 欠伸をしながら目を擦る。

 この三日間はいつもこんな感じだ。

 日が沈み、月星の明かりが点に灯る頃には必ず疲労困憊になっている。しかし、今はそれが心地良くも思える。

 意味を見出せる。剣の自主鍛錬には負の感情が発生するけれど、それでも俺のやっている事には明確な意味が、意義がある。

 そういう疲労は不快じゃない。

 今日も一日頑張った、自分にそう思わせてくれる。


「良くやるよなぁ、自分から訓練なんてよ」


 それは呆れが多分に含まれた言葉だった。

 見やれば、ガルがぼんやりと火を眺めていた。


 いつも通りの光景、いつも通りの会話。

 常に何かしらしていた一日の癒しの時間とも言える。


「俺は剣が大好きだし」

「...お前も大概だけどよ、他はどうなんだよ。何で剣の練習なんかしてんだ」


 俺の剣への執着っぷりを知っているのだろう。

 諦めに似た言葉に継いで他の隊員達に会話の矛先が向いた。


「私は仕事人間でな。常に何かしていないと落ち着かないのだ」


 その回答はレオのもの。

 ...なんだろう。そうだろうな、みたいな感情しか湧いてこない。

 アイツは真面目の具現化のような男だ。


「リアムは?」

「...習慣、かな。地元は過激な実力主義が蔓延っててさ、強くなる手段があるならそれを取らない選択肢が無かったんだ」


 これまた個性が伺える回答だ。

 ここでも王国でもない、俺達にとって未知の場所から来たという白髪赤眼のリアム。彼の素性や地元については謎に覆われているが、その一端が垣間見れた。


「テンバーはどうなんだよ」

「...うっせ。言わなくても分かんだろ、王国の連中をぶっ殺してぇんだ。そのためにできる事は何だってやってやる」


 こちらも予想通り。

 狂犬やら気の大きい犬やら散々な評価を下したが、彼の復讐心は本物。

 王国の連中をぶっ殺す、根底にあるその思いに揺るぎはない。


「良いね、その意気だ。その調子で言う事ちゃんと聞いてくれよ、馬鹿みたいになんにでも突っかかってちゃ何もできねぇぞ」


 またマイルズが煽る。そして始まった口論に頭痛を感じる。

 ...まぁ、一貫性が無いのは認めよう。正直言ってアイツは非合理的だ。

 目的があるばらば、その為に何をも投げ打つのが本当の狂気。

 ならば自分の感情を無意味に剥き出しにするのは愚かだ。


 とは言え、それは俺が指摘する事じゃない。

 意識をあのバカ二人から逸らして次の隊員に質問を投げかける。


「フランクとクルトは?」

「楽しいじゃん!」

「...俺はコイツに付き合っているだけだ」


 分かり切ってはいた。しかしこうして聞くと面白い。

 この凹凸コンビこと双子は性格が真逆で、それ故なのか非常に相性が良いのだ。

 そして、長い年月を共に過ごして来たのだろう。誇張でもなんでもなく彼らは相手のことを己の半身と思っている。

 そしてその戦闘スタイルもそれを反映している。

 鏡合わせ、そっくりな様に見えて真逆。けれど根底は一緒。

 その連携力には舌を巻くばかりだった。


「あともう一人いたよな...」


 どうにも、頭に霞がかかっているように判然としない。

 居たのか居なかったのか、それすらも思い出せないのだ。


 疲れているのだろうか。

 違和感を覚えながらも俺はそう結論付けた。


 まぁ、今日はもう休むだけだ。いつものように火を囲み、月星の下でぼんやりと。

 眠くなれば部屋に戻ればいいだけである。とにかく今日は休もう。




―――――――――――――――

※2024/11/10 修正



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