第46話 謁見と処遇

加筆修正により長くなってます


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 古都、そんな表現が適切だろうか。

 古代の物と思われる遺跡が散見される。地面に伏す巨大な一本の柱、石像の神殿のような建造物。そんな中でも、しかし今を生きる人々の色がそこにはあった。


 ここは戦場に近い。アレクシア王女は北方戦線へ戻れただろうが、だからと言ってそれが敵を押し返す事を示す訳ではないのだ。多数の戦力を保持する王国軍を相手にすれば、如何に彼女と言えど広大な戦線の全てを守る事などできないだろう。


 そのことを知っているのだろうか。いや、そうでなくとも肌で感じる事はできるだろう。子供が駆け老人がベンチに腰掛ける公園、露店や道行く人々の中には成人男性の姿はないのだから。

 けれど、そこに悲壮感はなかった。


 この街の名はドミニオンクレスト。合衆王国にとっての聖地であり、政治的中心地であり、古の時代の首都だ。

 あの農村から出発してはや四日、問題なく移動を終えた俺達の前には、神話が息づく街が広がっている。


 王国ではあまり感じる事のできない雰囲気だ。

 キョロキョロと辺りを見渡す。それは初めて都会に足を踏み入れた田舎者のようであったが、強ち間違いでもない。俺は王都育ちだが、さりとて一年以上クソみたいな場所に居た。俺達は平和な暮らしとは無縁だったのだ。


 そうして歩く。

 道案内はアレクシア王女が残した数人の兵士が担当していた。


 やがて比較的新しい建物が目に入る。

 大きさや警備の厳重さからして、おそらくはあれが政庁。予想に違わず俺達はそこに向かって歩き続ける。


 王族が居るという事はここは定義上王都なのだろうし、あれは王城という事になるのだろう。しかし王国のそれと比べると随分と落ち着いた...というかショボかった。

 四階建ての煉瓦造り。スタンドガラスが散りばめられているし、塗装も一応はされている。

 しかしショボい。どこぞの貴族の豪邸の方が大きく洗練されている。

 ...まぁ、建国数十年という歴史を、というか建国以来ずっと王国と戦っている事を考えれば妥当かもしれないが。


 そんな建物をぐるっと囲む城壁、手前には水堀があった。跳ね橋は下ろされている。

 その真ん中を迷いなく進む。橋の向こうで槍を持つ門番たちに警戒した様子はなかった。


「ご無事で何よりです、姫。どうぞお入りください」


 その門番が笑みを浮かべながら言う。王族への態度にしては随分と親し気だった。

 少なくとも、俺の母国でやれば首が飛ぶであろう言動だ。


「ありがとう、お勤めご苦労様です」


 サラもまた笑みを浮かべながら言う。

 明確で冷たい上下関係の色は無かった。顔見知りなのだろうか。そうでなければ説明のつかない親しさだ。


「我々はこれにて失礼いたします。王城内の案内は近衛兵が担当します」


 開かれた門を潜る事なく、ずっと案内をしてくれたアレクシア王女の兵士達の内一人がそう言う。

 きっと主の元へ戻るのだろう。


「分かりました。頑張ってくださいね」


 サラは変わらず笑顔で返した。

 彼らには世話になった。活力という活力を失い、死の寸前にあった俺を看てくれたのもそうだ。これまでの案内やその他諸々も。ならば俺も感謝を告げねば。


「数日とは言え世話になった。機会があればまた会おう」


 言葉と共に片方しかない手を差し出す。

 自分なりの感謝の示し方だった。


「いえいえ。貴方は姫を救った恩人、当たり前の事をしたまでです」


 謙遜しながらも握手は交わされる。

 その会話を最後に、彼は橋を戻っていった。


 その背を目で追う事無く、王城へと足を踏み入れる。

 今度は案内役を申し出た近衛兵らしき男に連れられて城壁の中を進む。練兵場やら厩舎がある中庭を越えてから建物内部へと入った。


 やはし見た目と違わず大した大きさではない。数分もしない内に、俺達は建物内では最も豪奢な扉の前に居た。


「この先は謁見の間です。武器は一度預かります」


 近衛兵が固く言う。俺は自分の剣を無くしたが、レオや双子などはまだ武器を持っていた。こんな内部まで持ち込みが許されていたのが無警戒に思えるが、まぁそれだけ信用されているという事だろう。

 身だしなみを整えたり形式を覚えたりと、サラとクラウの父...つまり国王への謁見はもっと手段を踏んでからだとばかり思っていた。しかし、どうもそう言う無駄は省かれるようである。

 堅っ苦しいのが嫌いな自分にとってはありがたい。


 近衛兵よりは下級であろう、恐らくここの常駐兵が武器を受け取ってから直ぐに引き下がる。それを確認した近衛兵は息を整えた。


「第二王女サラスティア・ブリセーニョ様、ご入来!」


 大きな声、扉の向こうにいる人間に向けた言葉だった。

 目前の重厚なダブルドアが開かれる。その向こうにはやはり、広々とした空間があった。ここが謁見の場、最奥には椅子に腰かける男性が居る。あれがこの国の二代目の国王にしてサラ達の父親だ。


 近衛兵の役割はそれで終わりだった。

 彼は恭しく一礼してその場に傅く。


 サラは彼へと目線を配らせた後、堂々とその謁見の場を歩き出した。俺達も慌ててその背を追う。


 国王への謁見、その当事者になった事は無論ない。

 だが父親はそうではない。アイツは剣聖だ。その剣技と遺物を以て数多の敵を屠り、王国へと貢献したあの男は国王への謁対した事がある。

 あそこには大勢の人間が居た。大貴族や王立騎士団ロイヤルナイツの団長までもが見守っていた。あそこはここよりも遥かに広く、豪奢で、煌びやかで、荘厳な謁見の場だった。

 計算され尽くした美しいスタンドグラスから陽光が国王と父親に降り注ぐ。その中で、あの男は剣を掲げる。

 神聖さをも纏う伝説の武器を手に、アイツは国へと忠誠を誓った。

 あれは、あの光景は、まごう事なく英雄だった。


 あの姿に焦がれた。まだ幼いながらも、俺の将来が決定した瞬間だった。

 しかし、それはもう叶わないと諦めていた。腕を失い、冤罪で尊厳を奪われた俺に、あのような光景を再現できる訳が無いと。


 だがどうだ。

 周囲に居るのは近衛兵と数人の文官、軍人だけ。そもそも王国じゃない上に建物もショボいけれど、それでも俺は王と謁見をしているのだ。


 柄にもなく少し感動する。


 ...だがまぁ、この謁見の主人公は俺ではない。俺達は王国からの離反者。彼女を救ったという成果ではまだ足りない。感謝を告げられ処遇を伝えられる、これはそういう場だろう。


 サラが立ち止まって傅く。

 俺達も彼女に倣って膝を着いて下を向いた。


「先ずは娘の生還を喜ぼう。良く帰った、サラスティアよ」


 重みのある言葉が謁見の場に流れる。

 クラウは彼の事を『国益と言う名の天秤を前に全ての感情を排除できる男』と評していたが、今の声には喜びが滲んでいた。

 言葉の通りに一父親として娘の無事を喜んでいるように思える。


「...はい、只今帰りました。心配させてごめんなさい」


 若干の申し訳なさと罪悪感を感じさせる口調だった。


「報告は既に受けている。奇襲されたのならば仕方あるまい、責任を問われるべきは許可を出した私だ」


 王らしくない。自分の非を認めるというそれは、権力の象徴らしからぬ発言だった。やはり根本的に王国とは違う。

 この国の政治体制は議会連邦制とクラウは言っていたが、それが関係しているのだろうか。或いは単に彼の性格か。


「あぁ、顔を上げると良い。形式ばった事は今は必要ない」


 言われるがままに顔を上げる。

 そしてそう言った男の姿をこの目に収めた。やや恰幅が良く髭を生やした中年男性、疲労をありありと浮かべながらも、威厳という二文字がそこにはあった。


「諸君らには心の底から感謝しよう。ライトと言ったな、特に君の働きによって娘は救助されたらしいじゃないか」


 死の危機から生還した娘との会話は取り合えずは終わったらしい。

 この場に居る殆どの人間の意識が俺へと向いた。


「は。此方こそ、罪人にも拘わらずこの様な待遇。感謝します」


 流石に王からの感謝を拒否する訳にもいくまい。

 俺はそう頭を再び下げて感謝を告げた。


「...気になりはするが、諸君らは娘の恩人。その出自については問うまい」


 国王は目を細めながら言葉を一度切る。

 思案するように己の顎を撫でてから再び口を開いた


「逼迫した戦況故大したことはできないが、要求を言うと良い」


 ――来た。これは試されている。

 この答え次第で俺達の処遇は決定するとみても良いだろう。

 そも、罪人だけで構成された強力な部隊をそう簡単に受け入れるとは思っていない。

 国王一人による強権的な政治体制であれば、サラを救ってくれたという理由で受け入れてくれたかもしれない。しかしこの様子を見るに、また議会と名のつく政治体制である以上、自分一人で全てを決める事はできないであろう。


 ならば、受け入れられるとしても何らかの条件が付く筈。


 その上俺達の処遇に関する情報を飛ばしてのこの質問。

 彼にとって、俺達が信頼に足るかという確認もあるだろう。


 そして答えは決まっていた。

 三日もあれば十分。隊員達とは話は済ませてある。


「我々懲罰部隊の行動原理は二つ。我らを救ってくれたサラスティア様への恩義、そして王国への怒りです」

「ほう、それで?」

「よって願いは一つ。王国軍との戦争に加わらせて頂きたい」


 俺達の力は戦力になる。それは既に分かっている事だ。ならばそれを生かさぬ手はないし、そもそも隊員の中には王国軍を殺したくて堪らない奴だっている。俺だって復讐心があるのだ。

 故に、全ての理由からこの戦争への参加は必須。

 俺達は王国へ打撃を与えられて、戦果を重ねれば重ねる程信頼もまた付随するのだから。


「...良いだろう。既に手はずは整えている」


 満足気に頷きながら、国王はそう言った。

 どうやら試験には合格したらしい。


 そして手筈は整えているという事は、このやり取りは最初から想定されていた物なのだろう。こちらとしても予想していた展開だった。


「本来なら私の口から説明するべきなのだがな、どうも仕事が多くて敵わん。所属や指揮系統のなどの詳細は彼に任せる」


 そう言って近くに立っている軍人らしき男に目配せをする国王。それを受け取った男は一歩前に出て笑みを浮かべた。


「中央守護軍の総指揮官をしているリチャード・サンダースってんだ。気軽にリックと呼ぶと良い」


 やはり王国とは何もかもが違う。

 いくら格式張っていない場と言えども王の前だ。そこでこんな態度を取るというのは中々のカルチャーショックである。


「時間も押してるし場所を変えよう。姫様は残りますよね?」

「うん、色々とやる事があるから」


「じゃあ陛下、自分席外します。ほら付いて来い」


 ...なんかこう、良いのか?

 いやまぁ国王が良いなら良いんだろうけど。


 凄まじく陽気でフレンドリーなヤツである。しかし、その理由には全く見当もつかないが、その姿が腑に落ちる自分も居た。不思議である。


「了解っと...よし、行くぞ」


 一応国王に礼をしてから振り返る。

 礼を失しないよう気にしていた自分が馬鹿みたいだ。


 ともかく、これで俺がやるべき事は済んだ。


「後悔だけはすんなよ」


 なれば、次はクラウがやるべき事をやる番である。

 その肩を叩きながらそう告げた。彼は静かに頷く。そのヘルムの奥にはどんな表情があるのだろうか。

 緊張か、恐れか、はたまた覚悟に満ちた物だろうか。


 それを確認する事なく、俺はクラウに背を向ける。


「...何か用でもあるのか」


 背後で困惑の声がする。それもそうだろう、他の隊員達が皆出ていく中、一人不動のヘルム野郎が居るのだから。


「?来ないのかクラ――」

「黙って付いて来いフランク」


 不思議だと言わんばかりの表情の隊員を黙らせる。他の隊員達も困惑していたが、クラウが何か隠し事をしているのは周知の事実だ。複雑な何かがあるのだろうと察してただ歩いていた。


「あぁ、話したい事がある」

「おいおい、そりゃあないんじゃねぇ――」


 クラウが言葉を口にする。

 リチャードを以てしても注意せざるを得ない。

 不敬も不敬、広い許容範囲を大きく外れる無礼な言葉。


「いや良い。お前はそのまま外に出ろ」


 しかし国王が彼を制止する。

 それで何かを察したのだろう、リチャードは黙って再び歩き出した。


「人払いをしてくれ」


 揺るぎのない声が響いた謁見の場を背にする。

 それが最後に聞こえた言葉だった。


 きっと様々な話がされるであろう。

 だが、俺達は俺達のやるべき事をするまでである。



 〇


 真上から太陽の光が差す。

 眩しいくらいの晴天だった。少し熱い。


 ここは城壁と王城の狭間にあった中庭の一部、練兵場と思わしき開けた場所。

 クラウとサラを残して、リチャードの背を追い辿り着いた場所である。


「さて、早速隊員が一人欠けているが...まぁ説明を始めよう」


 軍服のボタンを外しながら言う。熱いのは分かるがどうにも恰好がつかない。

 もはや親近感を持たせるのが狙いとまで思えて来た。


「懲罰部隊は既存の指揮系統から外れた部隊として運用される。お前らは如何なる合衆王国の兵士への命令権を持たないが、同様にお前らに対し命令を下せる軍人も限られている」


 まぁ、そう言う運用しかないだろう。

 戦力と信頼度や経歴が噛み合って無さ過ぎるのだ。妥当の一言に尽きる。


「どうでも良んだけど、お前たち懲罰部隊って名前で良い?」

「...今更だろ。変えたいってヤツいるか?」


 呆れながらも隊員達に聞いてみる。

 いや本当この隊の呼称なんてにどうでも良い。

 確かに犯罪者たちの集まりというのは聞こえが悪いのは同意するが、さりとて俺達の手は血で汚れているのだ。


「じゃあこのままで」


 やはりと言うべきか、口を挟む隊員は一人も居なかった。

 それを確認したリチャードは再び会話を始める。


「命令を下せるのは上から順に陛下、アレクシア王女、姫様、俺、その他大将。こんなもんだ

 ...まぁ、場合によっては姫様麾下という形で運用されるかもしれん。彼女への忠誠心もあるようだし」


 今の話しぶりからするに、明確なのは運用方法と指揮系統だけのようだ。

 所属がどこになるのか、という点は未だ疑問である。


「処遇については以上。何か質問は?」


 一度言葉を切ったリチャードが隊員達を見渡す。

 数秒経ち、問題ないと判断した彼は説明を再開した。


「次に今後の行動についてだ。幾つかの戦闘用語の指導と能力確認が完了次第最前線にぶち込むつもり...だったのだが。ちょっと見る限りでは無理だな」


 溜息が吐き出される。呆れと面倒さが混じったような表情だった。


「なんでだ」


 隊員の一人がやや不満げにそう言った。

 彼の名はデンバー。最も過激な復讐心を抱く年少の隊員。あのグラスゴー砦での虐殺の時、嬉々としていたのをよく覚えている。


「...何歳だ、お前」


 しかし、棘の含まれた言葉にリチャードが反応する事はなかった。

 その言葉を放った少年に驚いた様子だ。


「関係ねぇだろ」


 デンバーは変わらず棘を放つ。

 俺よりも深い憎悪と狭い視野を持つ彼の事だ、今の質問の意図を把握しようともしていないのだろう。


「答えろ、これは命令だ」


 唐突とも思えるタイミングだった。

 口調が、雰囲気が変わる。何処か不真面目で気楽そうな彼は、今や部下を叱責する軍人その物のようであった。

 口の利き方に苛立ったと言う訳では無いだろうが、どうもその理由が分からない。


「...12くらいじゃねぇの。覚えてねぇよ」


 一瞬の沈黙の後に少年がぶっきらぼうに言う。

 その沈黙の意味は痛い程分かった。もう思い出せないのだろう、あの地獄の中で、時間感覚を失ったのだろう。


マジかよJesus...んなガキを戦争に参加させる訳ねぇだろ」

「...は?」

「法律で決まってんだよ。未成年は戦争行為に関与してはならないとな」


 あぁ、そう言えばクラウが言ってたな、ここは倫理観が発展した国だと。法律レベルまで落とし込まれているとは驚きである。

 しかし、今回ばかりは都合が悪いかもしれない。


 嫌な予感がひしひしと感じる中、俺は恐る恐る口を開く。


「...未成年の定義って?」

「十六だ。いやはや、王国はクソだと思っていたが、まさかこうも倫理観が無いとは...待て、お前は何歳だ」

「...ッスゥー」


 何歳だろうか。

 確か、冤罪に掛かる前は十四歳だった。あれから一年ちょっと。俺の誕生日は十月辺りで、となると今は十五歳と少し。

 つまり俺は未成年扱い。戦争に参加できない。いや、こう戦闘狂か復讐鬼のように我武者羅に戦いたい訳では無いのだが、隊長である俺が参戦できないなど論外。あと、剣聖が居るであろう戦場を遠くから眺めたくはなかった。

 そして、俺の年齢詐称を証明する手段はない。ならばここは嘘を吐く場面である。


「十――...六だな。うん、俺は十六歳だ」

「クソ、お前まで未成年かよ」


 うんまぁ、ですよね...

 流石に思案が長すぎた。もう誰でも勘付くレベルである。


「リチャード殿、その法律は合衆王国民にのみ適応されるのでは?」

「あー...まぁそうか。今の所無国籍だもんな、お前ら」


 だが何とかなりそうだ。

 レオの冷静な疑問のお陰で命拾いした。


「となれば問題は無いか...いや問題だらけだけどな。法律的には可能だ」


 そう言って再び溜息を付くリチャード。

 彼個人としても、俺やテンバーなどの子供が戦争に加担するのは看過しがたいのだろう。しかし、戦力や意志のせいでそうもいかない。


「...脱線したな。ともかく、お前らをその状態戦場に送る訳にはいかない」

「だから何でなんだよって聞いてんだろ」

「自分の体見てから言え。俺にはお前より年下の子供が居る。女の子だ。だがお前の方が軽いし体力も無いだろうな」


 耳の痛い話である。

 栄養失調一歩手前の俺達は致命的に体力や筋力、持久力に欠ける。砦の時のように動かずに魔術を放ち続ければ良い訳では無いのだ。

 女の子一人担いで真面に歩く事すらできない程。成る程、確かにこの状態で戦場に送る訳にはいかないだろう。


「良いじゃねぇか、魔術使えるしよ」

「馬鹿が、もし撤退でもしたら置いてかれるぞ?俺はゴメンだね」


 言い寄るテンバーに、今度はガルが答えた。

 流石にそれ以上文句は言えなかったようで、顔を不満げに歪ませながらも彼は引き下がった。


「その通りだ。今のお前らに作戦遂行能力はない。最低で二週間はここに残らせる」


 それは再び命令の風を纏っていた。

 文句を言う事は許されないのだろう。軍属というのはそう言う事だ。


「別に筋肉を付けろと言っている訳じゃねえ。消化器官を慣らせ。まともに食い物を食えて、その栄養を吸収できるようになりゃ良いんだよ。戦場でもメシは出るしな」


 彼の言っている事は理に適っていた。

 思い出されるのは、この大陸に上陸した日に口にした暖かい食事。たったのパンとシチュー。それは育ち盛りの、それも暫くまともにメシを食べてない俺にとっては少ないはずである食事だった。


 しかし俺は満腹だったし、あれ以上食べれる気がしなかった。

 胃腸が慣れてないのだ。これでは体力以前にエネルギーを体に補給する事ができない。それさえできれば、多少なりとも戦場で生きていけるのだろう。


「最低限の運動と作戦用語の座学、あと食事と睡眠!これがお前たちのやるべき事だ。分かったか...返事!」

「了解」

「承った」

「チッ」

「はーい!」


 あまりに軍隊らしくない返事だ。主に悪い意味で。俺やレオ、テンバーとフランク、タイプが余りにも違うのもあるだろう。しかし、まともな軍事教育を受けてないのだその原因である。


「...追加で教官を付けてやろう。扱かれて来い」


 額に血管を浮き出させながらリチャードが言った。また忙しくなりそうだ、と諦めに近い感情を抱くばかりである。



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※2024/11/11 修正

以降は修正が間に合っておりません。修正前と後では展開含め様々な変更がされているため、唐突な場面の変化や矛盾が発生します。ご容赦下さい

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