第46話クラウディア





「つまり、王子か王女が一人でも居ればいいんだろ?」



そんな覚悟の元、合衆王国第2王子クラウディア・ブリセーニョは、クラウという名を、人間を捨てた。







兜を付けた懲罰部隊の一員。

その男が発した言葉は、あまりにも不謹慎で、不躾なモノだった。



「貴様、今何と言った?」



微かな怒りを滲ませながらそう言うアレクシアに対して、その男はどこか飄々とした態度で答えた。


「だから、王位継承権がある人間がもう一人いればいいんだろ?」

「王族に対してその態度...いや、そんな事はどうでもいい。貴様、自分の言っている言葉の意味を理解しているのか?」



場の雰囲気は、悪くなる一方だ。

サラスティアも、王も、ライトすらも「意味が分からない」と言いたげな表情をしている。


「...どういうことだ、クラウ。」

「何、我らが恩人...いや、妹の願いを叶えてあげようと思ってな。」


ライトの問いに対し、意味深な言葉を発するクラウ。


周りの反応は様々だ。

サラとアレクシアは怪訝そうな顔を。

なんとなく察していたのか、ライトは少しだけ驚いた顔を。

気まずそうに、そして少し悲しそうに下を向く王。


それらを目に入れながら、クラウは...いや、クラウディアは昔の事を思い出していた。







幼少期は、誇らしかった。

自分が王族であるということが、そして、自分の周りが皆優秀である事が。


アベルとは、特に仲が良かった。

彼と共に、王城の地下に眠ると言われるとあるもの探した事もある。

だが、そのとあるものは迷宮の奥に存在するらしく、一向に見つからなかった。

それでも諦められなくて、必死になって探したのを覚えている。


その頃だったと思う。俺がスキルを手に入れたのは。


その証の効果は“見つけたいものへの道を示す”というものだった。

その力で、宝物を見つけ出すことはできた。


だが、ソレは封印されていた。

固く、強く。ソレが世に出る事を否定するように、厳重に封印されていた。


自分達の努力が否定されたような気持ちになった。

だけど、なによりも“ソレ”が可哀そうに思えて仕方がなかった。


封印の鎖にしばられた“ソレ”は、悲しそうで、だが諦めを漂わせながら佇んでいた。


アベルは、強く悔しがっていた。


―――クラウは強く願って、力を手に入れられた。僕も力を手に入れて見せる。その力で、この子を救い出して見せる―――と。


一説によれば、スキルとは強く願う事によって手に入るモノらしい。

だが、自分が欲しい力を手に入れられたのは、俺が知る限りではアベルだけだ。


アベルは“鍵を開ける”スキルを...いや、魔力を必要としないスキルなど聞いた事がない。彼のアレは、もっと別の、特別な何かだ。


ともかくアベルは自分が欲した、封印を解くことの出来るスキルのような何かによって、願いは叶った。




その後の王城は凄く混乱していたのを覚えている。



俺らが封印から解き放ったソレは、古の時代から封印されていたモノ。

ただその力が強すぎるが故に封印され、地下に隠されていたらしい。


なんやかんやありながらも、俺は罰を受ける事はなかった。

だがその代わりに、俺達が封印を解いた“ソレ”を再び閉じ込めようしようとする動きがあった。


しかし、それは撤回された。

それは、アベルが何人もの部族長を説得し、王たる父にも自分の意見を曲げなかったからだ。


俺は、そんなアベルが、兄が誇らしかった。


特別な兄が、誇らしかった。






だが、時が経つにつれそれは嫉妬へと変わっていった。





王族であるのにも関わらず、クソ程にも使えないスキル持ちの俺。

姉や父と比べ、劣っているのは確実だった。


だが、同じように、いや、俺のなんかよりもずっと実用性のないスキルを持っている筈のアベルは、そんな状況にもめげずに努力していた。


“サラの為に、かっこいい兄さんになってやる”と言って、死に物狂いで努力していた。


その努力は報われ、アベルは優秀な王子として頭角を現し始めた。

そんな兄に影響されたのか、サラスティアも優秀な王女として名を上げるようになった。



俺は、どうすれば良いのか分からなかった。

必死に努力したこともある。だが、“アベル殿下の真似事だ”と否定された。


そして俺は兄に、姉に、父に、そして妹にまで嫉妬するようになった。


そんな俺に転機が訪れたのは、王国との戦いが激化し始めた頃だった。

国の為に何が出来るのか、どうすれば王国を倒せるのか。


戦いに明け暮れるアベルの代わりに、俺はそんな事を考える様になった。


...だが、それは報われなかった。



激戦地、ニューヨークからの撤退を条件に、俺は王国に引き渡される事になった。


つまり、王国に売られたのだ。体のいい、交渉材料として。


俺は虚しくなった。



そして引き渡しの時が来た。


すまない、と言う家族に対する俺の最期の言葉は、恨み言だった。







その後は、正に地獄だった。

最初は、公開処刑ではなく監獄島への移送だった事を喜んだが、それは直ぐに掻き消された。


今までの暮らしとは掛け離れた、地獄みたいな生活。

俺が、“魔力切れ”という手段に手を出すまで、そう時間はかからなかった。






で、なんやあって今に至る。


懲罰部隊の皆と生きるのは、正直言って楽しかった。

出来れば、このまま隊員として一緒に王国と戦いたかった。


だけど、妹が俺と同じこと...懲罰部隊の一員で居たいと望んでいる聞いて、俺は決心した。


“妹と欲しいモノが被ったなら、譲ってやるのが兄ってもんだ。”

アベルだったら、そう言うだろう。


だから、俺は決めたのだ。

懲罰部隊から離れ、唯一の王子として使命を果たす事を。

優秀な兄の代わりになる事を。


強い覚悟と共に、宣言する。




「お久ぶりです、父上。合衆王国第2王子、クラウディア・ブリセーニョ。只今地獄より帰還致しました。



――――今は亡きアベルに代わり、王子としての務めを果たす為に。」


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