第45話謁見


「お前ら、気合いいれてくぞー」


まず自分の気合いをいれてから言え。そう口に出したくなるような気の抜けた掛け声をする、俺達の隊長。


そんな隊長の先には、王城が見える。


(あそこに入るの、一年ぶりだなぁ...)


兜の奥から覗く光景に、感慨深くなる。

監獄島に送られた時は、故郷に帰ってくる事はもう出来ないと思っていた。


それがどうだ。


運命の皮肉というべきなのか、俺は再びここに帰って来た。

それに、これから起きる――いや、俺が起こす事を考えるとニヤけが止まらない。











「さて、この謁見は先日も説明したが非公開のモノだ。よって、謁見の場には諸君らと私、そして王と数名の護衛のみとなる。」


扉一枚を隔てたら、その先は謁見の場、という所で第一王女であるアレクシアは立ち止まり、俺達を振り返って話を始めた。


「諸君らの望みは、“普通の扱いが欲しい”と“王国と戦わせて欲しい”の二つで間違いないな?」

「はい。」


王都へ移動している途中、俺達は何度か話し合った。

その結論として出たのが、今アレクシアが言ったモノだ。


「...あと、サラは懲罰部隊の一員になり、たいだったか。」


...思わず、目頭を押さえて溜息を漏らす。

俺だって反対したのだ。アベルには大きな借りがあるから、その妹であるサラを戦場に連れていくなんて真似はしたくない。


それに、一国の王女であるサラが“懲罰部隊”なんていう犯罪者集団の部隊に入るのはどうかしてる。


いや、戦力的には全く問題ないのだ。というか入ってくれたら助かる。

俺以外の隊員は莫大な魔力こそあるものの、魔術が単純にヘタクソ。魔力量でのゴリ押ししか出来ない。だからこそ、サラみたいに器用な魔術師が隊員になってくれると、滅茶苦茶助かるのだ。


だが、だからと言って首を縦に振る事は出来ない。



...出来ないのだが。

彼女のしつこすぎるお願いに、結局折れてしまった。


彼女の姉である第一王女も“危険な目にあったばかりなんだ。やめとけ”と言っていたが、サラは頑としてその言葉を拒否し、第一王女も結局折れたのだ。



そして、そんな俺達の最後の砦はこの先に居るであろう王様なのだ。王様がダメと言えば流石に引き下がってくれるはず...という思いの元、俺はもう少しばかり気を引き締め直す。


その時、アレクシアが再び口を開いた。


「おい、そこの隊員...たしかクラウだったか?その兜を外してくれないか?王に対して顔を隠したままといいのは、流石に失礼だぞ。」


そう。このクラウ、何故か最近兜を外したがらないのだ。

俺達も何度か理由を尋ねたが、“面白いことするから待ってろ”という返事しか返ってこなかった。


「......」


だんまりを決め込むクラウ。

第一王女は呆れながらも、何か事情があるのだろうと諦めた。


「では...開けろ。」


門番の近衛兵らしき者にそう告げると、近衛兵は無言で扉を開けた。

扉が完全に開き切ると、アレクシアとサラが同時に膝をつく。


俺達も見習ってそれっぽく膝をついた。


「第一王女、アレクシア・ブリセーニョ、無事帰還致しました!」

「第二王女、サラスティア・ブリセーニョ、ただいま帰りました。」


微妙に言っていることが違うが、それはアレクシアが生粋の軍人であり、サラはそうではないという違いによる物だろう。


「ご苦労...そう畏まらないでくれ。この場は非公式のモノだ。今は一人の父親として、娘をこの目に映すことが出来た事を喜ぼう。」


王者の貫禄、とでも言うべきなのだろうか。

その男の纏う雰囲気は常人のそれではなかった。


鋭く、だがそれでいて器の大きさを感じさせる雰囲気。

それに、父...いや、かつて父だったあの男が何度か見せた事のある、戦士の風格も持ち合わせていた。アレクシア、サラ、アベルとこの国の王族は何人も見てきたが、それら全員が高い戦闘力を持ち合わせていた。


合衆王国には、他にクラウディアという王子もいたらしい。

だが、彼はその無能さゆえに王国に人質として引き渡されたと聞いた事がある。


優秀な兄弟と親に囲まれたその王子に、少し親近感を覚えた。



...そう脱線しかけた思考を止め、目の前の男に集中する。



「...諸君らが、我が娘の恩人か。」


そう言い放った王の風格が、膨れ上がったのに気付いた。


(ッ!?...重い...!)


体にかかる重力が、何倍にもなった気がする。それくらい、体に圧が掛かった。

これは、雰囲気がどうとか風格がどうとかそういうレベルの話ではない。




――これは、明らかにスキルの力だ。




...いや、どうしろと?

攻撃するわけにはいかないし、ウザいんじゃボケェ!と言って止めさせる訳にも行かない。



だが、流石にウザすぎるので、少しだけ殺意を込めて王を睨みつけた。



少しばかりの沈黙の後、王は肩をすくめてから口を開いた。


「なに、このスキルの効果として、嘘をつかせないというのがあってな。花愛の時は重宝しているのだ。少しばかり息苦しいだろうが、かつては敵兵だったものにに対して、護衛もつけずに謁見しているのだ。それくらいは我慢しろ。」

「...了解いたしました。」


この威圧感の中で話などしたくないが、俺達の信用の為だ。少しばかり我慢してやろうじゃないか。


「では、最初の質問をしよう。貴殿らは、本当に王国に恨みがあるのだな?」

「はい。なんなら、王国を焦土ど化したいくらいです。」

「次に、私の娘を助けたのは打算ではない、というのは本当か?」

「その通りです。サラスティア様を助けたのは、彼女に恩があったからです。」


そう受け答えをしながら、俺は王のスキルの効果に舌を巻いていた。


何故なら、俺は彼の問いに対して即答しているが、それは俺の意志によるモノではなかったからだ。


嘘偽りなく、言葉を濁すことなく、ただ真実のみを伝えなければ。

彼のスキルは、俺にそう思わせる程の効果があった。


冷や汗をかきながら、次の言葉を待つ。


「そうか...ならば、感謝しよう。クラウディア、アベルに続き、サラまで失う羽目になりそうだと思った時、どれ程心が痛んだことか。貴殿らは娘の命の恩人だ。今ばかりは王としてではなく、一人の父親として感謝しよう。」


そう言い、頭を下げる王。

俺だってアベルにも借りがあるので心苦しいばかりだが、そうも言ってられない。


「では、貴殿らの要求を聞こう。」


そう言うと、彼は下げた頭を再び上げ、真っすぐ俺達を見据えた。


「はい。我々懲罰部隊の要求は二つあります。」

「言ってみろ。」

「は...まず、私達が正式に合衆王国軍に所属すること。ただ、部隊の立場はあくまでも独立遊軍としていただきたい。」


俺達は、他の部隊と連携して戦うより単独で敵と戦った方が良い。

隊員のほとんどは魔術がヘタクソな訳で、そんな連中が味方と一緒に戦いでもしたら友軍を誤射しかねない。


それに、合衆王国兵もかつての敵国兵と一緒になんか戦いたくないだろう。


「二つ目は、仮に王国本土上陸作戦などをする際は、私達懲罰部隊にも参戦させいただきたい。というものです。」

「...それは、何故?」

「王国のクソ共が、他の誰でもなく、俺達の手によって死ぬのをこの目で見たいからです...まぁ、要するに復讐ですね。隊員の多くは、家族を王国貴族に殺されたり、冤罪をかけられたりと酷い目にあっていまして。」


少し饒舌になりながらそう言う俺を見て、王の目に警戒の色が浮かんだ。


「...復讐は目を曇らせるぞ。」

「御心配には及びません。あくまでも“出来ればそうして欲しい”という話。そこまで強い復讐心を持っている訳ではありませんよ。」

「そうか...まぁ、それ位の要求なら何の問題もない。」

「ありがとうござ――――」




「ライト?何か忘れてない?」





...クソ、このまま行けると思ったのに。


頭を抱えたくなる気持ちになりながらも、何とか言葉を絞り出す。


「...最後に、もう一つだけ要求があります。」

「構わないぞ。何せサラの恩人なのだ、どんな要求も許可して見せよう。」


言い辛ぇ...


「――サラ王女様を、我が部隊に迎え入れたいのです。」

「許さん。」


...少しも迷わずに即答されちゃった。

という事は...俺達の勝ち!


「すまないサラ様!貴方の要求が通らなくて、俺も残念です!」


サラに向け、煽るように言った。


サラは悔しそうにしながらも、このまま引き下がれるかと王に対して質問した。


「理由を聞いても?」

「まず、王族がお前とアレクシアの二名のみであるという事だ。アレクシアは生粋の軍人なのだから、いざという時があるかもしれない。その時の為に、一人は王城に残って貰わなければならないのだ。そもそもこの前砦に行かせたのも妥協してやったのだ。それに懲罰部隊は合衆王国の正式な部隊ではない。だから許さん。というか、お前の部隊が壊滅したと聞いて心配でならなかったのだ。父さんもうそんな思いしたくないもん。なんでそんな戦争に参加したがるの?そんな子に育てた覚えはない。もう少し内政とか勉強しないと。アベルも逝ってしまったし、アレクシアは軍人に留まるのは確定。つまり次の王はほぼ間違いなくサラなんだぞ。だから許さん。」



気持ち悪いくらい早口で捲し立てる王。なによりキモイのが、最初から最後まで真顔で言い切った事だ。


なんてドン引きしてると。


同じくドン引きしてる表情のサラが再び口を開いた。


「...もう一度聞かせてください。あ、でも父さんの主観はいらないです。あくまでも客観的なデメリットだけを言ってください。」

「不足の事態の為だ。アレクシアに何かあった時の為、若しくは私に何かあった時の為に、常時王城に一人は王位継承権を持つ者がいる必要があるのだ。」


俺は、思わず拍手したくなった。

彼が言っている事は、間違いなく正論。サラにはもう勝ち目などない――



そう思った時、今まで沈黙していたクラウが声を出した。



「つまり、王子か王女が一人でも居ればいいんだろ?」





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