第44話いざ王都



ずっと蓋をして抑えていた感情が、一気に溢れ出て来る。


不味い、と思った時には、もう涙が止めどなく零れていた。



――泣きたくなんかなかった。

弱い自分を見せてしまっているようで、そんな弱い自分じゃ、兄さんは安心出来ないって思ったから。


何とか抑えようと、必死に目を擦る。

その時だった。


(だから、見守ってるって言ったろ。)


そんな声が、聞こえた気がした。



「...兄さん。貴方が安心できるよう、強くなって見せます。」



震えていて、弱々しい声で。

だが力強く、覚悟を見せつける様に。


サラは、誰もいない筈の虚空に向かって言い放つのだった。









「ハァ...」


月を見上げながら、思わず溜息を溢す。


「新規臭えぞライト!」

「その溜息、何回目だよ!しつこいぞ!」

「うっせぇ」


突っかかってくる隊員達に適当な返事をしながら思案する。


――遺言をサラに伝えたは良かったものの、アベルが俺のせいで死んでしまったという事を伝えられなかった。


完全に言い訳だが、あの時はそんな事を言い出せる雰囲気ではなかったのだ。


どうしても、やり切れない気持ちになる。



「あんま気にしすぎんなよ。取り合えず酒でも呑もう。色々上手くいったってんで、みんな良い気分なんだ。今飲まなくていつ飲む?」

「...そうだな。」


今の俺達の立場は、色々と曖昧だ。

何せ、俺達は合衆王国に寝返った最初の部隊。

それだけならいくらでも対処しようがあったのだが、手土産に王国の公爵令嬢と合衆王国の王女を持って来たんだ。


礼を欠かす様な真似は出来ないが、合衆王国兵の王国に抱く恨みは相当な物だ。

王族が公式で俺達に感謝すれば、“王国は悪だ”というイメージが崩れてしまう。

士気にも関わるので、俺達の存在を明かす事はまだ出来ない。


俺達の今後の扱い方については、王都で決定すると第一王女が言っていた。


...まぁ、簡単に言ってしまえば「扱いがムズイからパパ(王)に聞いてみるね」という事だ。



それまで、俺達に出来る事などない。


そう結論付け、俺はいつもの宴会に混ざるのだった。










◇???視点



「あ~...殺したい。見ててムカつくなぁマジで。」


その男は楽しそうに宴会してる集団の中に居る、一人の少年を見つめながらそう呟いた。


何やら楽し気なその少年に対して異常な殺気を発する、仮面をつけた男。



「あぁ、クソっ...まだまだだ。俺はいつになったら役目を終えられるんだよッ!」



その虚ろな目に、危険な光を宿しながらそう叫ぶ男。


その男は突然後ろを振り返ると、今度は怯えるように後ずさる。


「分かってる!分かってるから!俺だって望んでこんな事をしてるんじゃないんだ!......やめろ、来るなぁ!亡霊が、何故僕に纏わりつく!」


焦点の合わない目で、虚空に向かって魔術を放つ男。


しばらくすると、疲れたように座り込んだ男は再び呟いた。




「絶対に、殺してやるから...」










グラスコー砦の後方。そこでは、負傷兵の治療が行われていた。


「あーもー...なんでこうなった」


苛立ちを押さえながら文句をいう少年に、治療をしている聖女が声を掛ける。


「ヒロ...落ち着いて。そんな目をしてもライトはやって来ないわ。」


そう言うのは、王国の聖女。少年の手を魔術で結合しながら、心配そうな目で彼を見つめる。


「あの野郎、俺の事ばかりか君の事まで侮辱したんだ。」

「彼は何と?」

「...君が、虚言癖だって。」


はぐらかすように目を逸らす少年。彼がその様にしたのは、ライトの聖女に対する侮辱がもっと酷いモノであったが、その全てを言わなかったので聖女に対し嘘をついた気がしたから。


だが、聖女の受け取り方は違っていた。


(もしかして...疑われている?)


彼女は、暴行された時の記憶が曖昧だ。

混乱している中ヒロに助けを求め、ライトを一方的に断罪した。


しかし、よく考えればおかしなことばかりなのだ。

まず、何故ライトは私を見逃したのか。彼が本当に加害者なら、私を逃したりしない筈だ。彼がスラムに居た理由を言わなかったのは、本当に別の理由があったのかもしれない。


その上、後から分かった事もある。


それは、加害者が複数いた事、そして、自分の服に自分のモノではない血が付いていたことだ。


もしかしたら、ライトは被害にあっている私を助ける為に、加害者を斬り捨てたのかもしれない。そして、その血が私についた。


つまり、ライトは私を助けてくれた可能性があるのだ。


そう考えてから、私は不安でしょうがなかった。


私が混乱したまま変な事を言ってしまったせいで、恩人が腕を切り取られ、監獄に送られた。


それに、被害はライトだけに留まらない。


私の妄言のせいで、ライトに強く恨まれたヒロ。

私の妄言のせいで、ライトに殺された何人もの王国兵。


急遽野戦病院となった、グラスコー砦を見渡す。


お母さん、お母さんと呟く、目から光を失ってしまった少年兵。

戦友の亡骸をその手に抱き、涙を流しながら恨み言を叫ぶ兵士。

合衆王国軍に向けて言われたそれは、しかし私を非難する声に聞こえた。


(全部、私のせいだ...)


ごめんなさい、ごめんなさいと心の中で呟きながら、私は治療を続けるのだった。











という事で、やって来ました!合衆王国の王都ブリセーニュ!


「諸君はそのまま王城に来てくれ。」


馬に乗ったままそう指示をだす第一王女。


「いろいろ見て回りたかったのになぁ...」


王女の言葉を聞き、残念そうにつぶやいた元王国の記者。

その職業故か、彼は様々な物を見て回るのが好きだった。


ここに来るまでの道中も、王国との文化の違いや景色などで大興奮していたのだ。

そんな彼にとって、異国の首都を見て回れないというのは苦痛だろう。


まぁ、後で見ればいい話なんだけどさ。


閑話休題。ともかく、俺達は今から大事な局面に突入するのだ。

これからお世話になるであろう国のトップ。彼の機嫌を損ねてしまえば、俺達に行き場はない。


気を締めよう。


「お前ら、気合い入れてくぞー」

「「へーい」」



俺達流のやり方で。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

文章確認はあとでします。

とりあえず毎日投降しなければ...!

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