第39話絶望から

しまった。いつの間にかラウラが消えてた。今から修正します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「クソッ!逃がした!」

「いや、首に矢が刺さった上、鎧を着た状況で川に落ちたんだ。生きてる筈ない」


(...チッ。悔しいが、コイツたの言っている事は正しい。)


森から谷を見下ろしている王国兵。そいつらの後ろで、身を隠しなが思案する。

彼女の生存確率は絶望的だ。


だからと言って捜索を諦める訳には行かない。


俺はまだ彼女が死んだところを見ていない。

彼女が生きている可能性が少しでもあるなら、諦めずに探し出すべきだ。

それに、彼女がこの周辺に居る事は分かった。

それだけで大きな足掛かりになる。


取り合えず、全員ここに集まって貰おう。


「“ファイアランス”」


今更ながらに思ったんだが、派手な魔術をぶっ放した位じゃそいつの位置はわからない。ならどうしろという話だが、一つ思いついた事がある。


分かりやすく線のようなのを上に延ばせばいい。


ファイアランスは書いて字の通り、炎の槍だ。

それは真っすぐ飛んでいくので、真上に向かって飛ばし続ければ一本の線が地上から空に向かって伸びてる様に見える筈だ。


ちなみに、ファイアランスの出発地点は王国兵達が居た所。

王国兵達は悲鳴すらあげられずに丸焦げになっていた。


(さて、合図も送った訳だし、捜索再開しますか。)


そう気合いを入れ、俺も彼女の後を追って谷に飛び込むのだった。



















「オラオラァ!どうした野蛮人!抵抗してみろよ!」

「俺達には聖女様が付いてるんだ!テメェみたいなゴミが勝てる訳ねぇもんなあ!」


興奮し、叫び散らしながら私を蹴り続ける王国兵。

それに対し、私は亀のように丸まって耐えるしかなかった。


――溺死は何とか避けられたものの、川から顔を出した瞬間王国兵に見つかってしまった。さっきまで私を追っていたのとは別の王国兵に、だ。自分の運の悪さを呪わずにはいられない。


魔力も尽き、体力もなくなった私に抵抗等出来る筈もなく、強引に引き上げられた。


陸に引き上げられ、身を守る鎧も脱ぎ捨ててしまった私に対し、王国兵は戦争で溜まった鬱憤を晴らすように暴力をふるう。


聞くに堪えない暴言を吐かれ、そこら辺のチンピラにリンチされているみたいに暴力を振るわれる。



――あぁ、惨めだ。



川に落ちた時に体温が奪われたのか、物凄い寒気がする。

首の傷も、今すぐ処置が必要な物だ。


敵は興奮した4人の男。それに対するのは、体力も魔力も尽き、抵抗する気概も既に失った女が一人。



今度こそ、詰んだ。



朦朧とする頭でそんな事を考えていると、腹に衝撃が走った。

どうやら全力の蹴りを喰らってしまった様だ。


吐き気を抑えていると、髪を掴まれて上を向かされる。



「...おいおい!よく見ればコイツ良い女じゃねぇか!」

「やめとけ!汚れた野蛮人だぞ!ギャハハハハ!」


顔を醜く歪ませながら笑う王国兵達。


それを見た瞬間、覚悟が決まった。


――死ぬか。


どうせなら兄さんのように誇り高く死にたがったが、それも無理そうだ。


出来れば痛みを感じない死に方が良かったが、舌を噛み切る以外の自決を選べる状況じゃない。


(今度こそ、そっちに行きます...兄さん。)




舌を突き出し、最後の力を振り絞って噛み切る――その寸前。














川から、どこか見覚えのある少年が出てきた。





(監獄島の時の、あの少年?)


兄さんを助けるために攻め込んだ監獄島。そこで危機に陥った時に、圧倒的な魔力で強大な敵を吹き飛ばした少年。


頭にかかった靄が、一瞬で晴れる。


監獄島に居た、圧倒的な魔力を持った少年。

あの砦に居た、圧倒的な魔力を持った王国兵。


両者とも、身長や体格、隻腕である事、圧倒的な魔力という点で共通している。

そして、こちらに危害を一切加えなかったという点でも共通していた。


そこから導き出される答えは一つ。



(まさか、同一人物...?)



「誰だテメェ!?」

「“ウィンド”」


王国兵の問いを無視し、短く詠唱するその少年。

それだけで、王国兵の体はバラバラになる。


だが、その事になんの反応も示さず、水を滴らせながらこちらに歩いてくる。


「...これ、なんて言えば良いんだ?...あー、懲罰部隊隊長、ライト・スペンサーだ。貴方を助けに来た。」


思わず、“何で”と声に出そうとする。

だが、その前に私の意識は途絶えてしまった。










「ハァ...これどうするよ?」


俺の腕の中で苦しそうに眠っている少女。隊員の話じゃ、この子が俺達の恩人らしい。なんとか助ける事は出来たものの、状況は最悪だ。


首の怪我は致命傷ではないが、放置したら化膿するし、かといって矢を引き抜いたら動脈が傷ついて失血しかねない。それに、熱もある。おそらく川に落ちたせいで風でも引いたのだろう。普段なら問題ないが、負傷で体力が消耗している状況では不味い。このまま衰弱死しかねない。


どうすべきか頭を悩ませていると、森の方から声が聞こえた。


「おーい!どこだー!?返事しろー!」


この声は...クラウか。この少女を見つけてから放った合図が伝わったのだろう。

自分の位置を示す為、俺も全力で叫ぶ。


「こっちだ!!!」











全員並んで火を囲む懲罰部隊の面々。

これだけならいつもと変わらないが、皆険しい顔をしていた。


「...という状況だ。今すぐにでも治療しないと不味い。」


俺がこの少女を見つけてからの事を報告し終えると、皆の顔が一層険しい物になる。


「治療と言っても、具体的にどうすればいい?」

「...さぁ。」

「チッ」


舌打ちされても困る。俺だってそんなモノあるなら知りたいのだ。


「聖女を誘拐して治療させる。ってのはどうだ?」

「重症負ってる奴背負って敵陣に突っ込むのか?逃げられたら終わりだ。却下。」


隣に寝転がっているラウラに目を向ける。いざとなったらコイツを人質に出来るが、普通に見殺しにされる可能性もある。


もう手はないのか...!?


――なんて思った時、クラウが口を開いた。



「一つだけ、助かる可能性があるかもしれない。」

「聞こう。」

「――あぁ。合衆王国が国として成立する遥か昔、この大陸には王国で言う聖女のような存在が居た。ただ、聖女と違い、ソイツが男で、尚且つ自分で直接治療は出来なかった。」

「...どういうことだ?」

「まぁ聞け。彼はスキル持ちで、そのスキルの効果は“飲ませたらどんな傷も再生できるポーションを生成する”というものだったらしい。その効果は凄まじく、四肢の欠損も不治の病も直せたと、文献にあった。」

「そうか、ならそれで...!!」


レオが嬉しそうに声を上げる。そういえば、コイツ異常なくらいこの少女に執着するよな。確か新しい主君に定めたんだっけ?一方的に。


まぁ、それはともかく。クラウのいう事が正しければ、彼女は回復するのだろう。

だが、クラウの顔はそれ程明るいモノではない。


「最期まで聞け。問題なのが、そのポーション、エリクサーは今は数本しかなく、その全てが王族が所持しているんだ。」

「...クソッ。そう上手くは行かないか...」

「あぁ。だから、王族の居る所に突撃して、ソイツを人質にしてエリクサーを要求するしかない。」

「さっきライトが言ったみたいに、王族が逃げたら終わりじゃないか?」


“さっき俺が言った”というのは、重傷者を背負っての突撃では王国軍に逃げられる、って話か。


「いや、それなら問題ないと思う。王国は俺達の脅威を知っているから逃げる可能性はあるが、まだソレを知らない合衆王国の、しかも王族がたかが30人の部隊相手に尻尾巻いて逃げるなんてことはないだろう。」


そんな事したら王族の権威がガタ落ちだしな。


「...っていうか、そもそも王族の位置が分からないんじゃ意味がないだろ。」

「...確かに。」


盲点だった。この案は最初から破綻している。


絶望し掛けた時、クラウが再び口を開く。



「その点は問題ない。俺のスキルを使う。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る