第38話救え


「クソッ!!間に合わなかった!」


懲罰部隊の隊員にとって、最も恩がある大切な少女。

彼女を救うために走り出したが、彼女の援護に間に合わなかった。

魔術でヒロの野郎をぶっ殺してもよかったが、それだとあの少女にも被害が出かねない。そのせいで彼女は文字通り吹き飛ばされてしまった訳だが...


彼女に意識があるなら、魔術でなんとか出来るかもしれない。

ただ、問題は残党狩りを始めた王国兵だ。


事実上崩壊した合衆王国軍の兵士達は森に逃げ込み、それを逃がさんとする王国兵によって残党狩りが始まっている。何度も戦ったから分かるが、彼女は俺達よりは違い魔力量が少ない。何度かは撃退できるかもしれないが、いずれ王国兵にやられてしまうだろう。


...迷っている暇はない。


「お前ら、恩人を助ける時だ!!散会して森に入り、彼女を見つけろ!見つけたら派手な魔術を上空にぶっ放せ!行け行け!」


全力で叫んで支持を出す。ここからは時間の問題だ...!


「待て!行かせるか!」


...あぁ、そういえばコイツ居たわ。


なんて思ってしまう程存在をすっかり忘れていた。

ぶっ殺したいのは山々だが、今はそんな事をしている暇はない。このクソ野郎はいつでも殺せる。


そう思って心を落ち着かせ、俺も森に入った仲間に続こうとする。


「...ッ!?貴様ァ!今すぐラウラを放せ!」

「チッ」


どうやら肩に担いであるラウラが目に入ったようだ。

このまま言われっぱなしなのは流石に腹が立つので、少しだけ言い返す。


「ハッ!随分な心配しようだなァ!クソビッチ聖女の次は人の婚約者に手ぇ出すのかクソ野郎が!」

「...お前、ライトか!?何故ここに...いや、今はいい。ラウラを放さないと殺す!」

「やってみろやァ!“ウィンド”」


魔術に込められるだけ魔力を込め、全力でヒロに放つ。


「な...ッ!?」


無詠唱魔術で対応しようとしたらしいが、無駄だね!

俺が1年全部使って鍛えた魔力量だ!


「...ぐぅッ!!」

「はい狙い通り。そんじゃまた。」


さて、俺が風魔術を使った理由は2つある。一つは、ヒロ自身が得意としている風魔術でヒロを圧倒したらヒロが悔しがるっていうのと、このクソ野郎が俺にやった事をそのままやり返せるからだ。


「あ、ああああぁ...ッ!うでが、うでがぁ!」

「ハッ!虚言癖のビッチ彼女にでも治して貰うんだな!」


そう吐き捨て、俺も皆の後を追って森に入るのだった。














「さて、ここまでは予定通りかな。」


ライト達が居た戦場、その少し離れた所で。

怪しげな仮面をつけた男が、虚ろな目を歪ませて笑っていた。


「いやぁ~滑稽だなぁ全く!ま、君にはこのまま進んで貰おうか!」


手を額に乗せ、体をのけ反らせながら笑い続ける仮面の男。

だが、その男は突然笑いを止めると、ライトが入った森を見つめた。


「その先に待っているのは、監獄なんか比にならない地獄だ。せいぜい苦しめ。」


どこか壊れたような、虚ろな目で。















◇サラスティア視点


「ハァ...ハァ...ハァ...」


風魔術でなんとか生き延びたは良いものの、敵の無詠唱魔術師との戦いで消耗したせいもあって魔力が底をつきかけている。


(私に、あの砦にいた連中みたいな魔力量があれば...)


叶わぬことだと分かっているが、それでも思わずにはいられない。


自分にも力があれば、アナも助けられたのだろうか、と。

彼女は分かっていたのだろう。自分が殺されれば、サラ様は我を忘れて仇討ちをしようとする、と。だから自分が時間を稼いで逃げて貰う為ではなく、私が戦っても生き延びられるようスキルを使ったのだ。


なんとも情けない話だ。臣下のいう事を聞かずに冷静さを失って敵と戦った挙句敗北した。だが、彼女はそこまで見越していたのだろう。


そんな彼女も、もうこの世にいない。


兄さんを失った今、彼女は私の唯一の――――


「ハァ...駄目だ。落ち込むのは止めよう。」


最近、どうも思考が暗くなっている気がする。今は生死を争う時だ。落ち込んでいる暇はない!



「こっちだ!こっちで音がした!」

「逃がすなよ!野蛮人は皆殺しだァ!」


そう覚悟を新たにした瞬間、最悪な言葉が耳に入った。


(不味い...逃げないと...!)






「絶対に逃すな!!敵は疲弊しているぞ!」


後ろから迫ってくる、王国兵共の声。

彼らの言う通り、私にはもう余裕がない。


(鎧が重すぎる...!)


身分を隠すために身に着けた全身鎧。

全方位から身を守れる優れものだが、敵から逃げる今はこの上なく邪魔な存在だ。


そして何よりも問題なのが、自分の魔力がもう尽き掛けている事だ。


さっき、少し開けた所に出てしまった。そこで遂に敵の視界に入ってしまい、止むを得ず戦う事になったのだ。


直ぐに森には入れたのだが、魔力は開けた所での戦闘でもう使い切ってしまった。


昨日までの砦との戦いでは文字通り底をつくまで魔力を使えたが、それは私が魔力切れ一歩手前の症状で気絶した後、アナが助けてくれるからだ。


この状況で気絶でもしたら、その瞬間終わり。敵に追いつかれてそのまま殺される。


剣術も人よりは出来るが、それでもこの数は相手出来ない。


心身疲れ果て、倒れ込んだところを敵に殺されるくらいなら今すぐ敵に玉砕した方がマシ。そう思ったのも一度や二度じゃない。


だが、アナが命を投げ捨ててでも繋いでくれたこの命だ。もうそんな事は出来ない。


「見えたぞ!敵の速度も落ちてきている!弓兵、撃ち殺せぇ!」

「...ッ!?」




不味い、と思い身構えたが、もう手遅れだった。



敵の声が聞こえた直後、首の付け根に衝撃が走る。



その衝撃が何なのかを確認する前に、激痛が私を襲った。



「あ...ッつ!あ...うぐぅぅッ!!」


――熱い、熱い熱い熱い熱い!痛い、痛い痛い痛い痛い!!


――だめだ!落ち着け落ち着け!大丈夫、動脈には当たってない!


――どうするどうするどうする!?死ぬ?こんな所で?折角アナが助けてくれたのに...ッ!!――



混乱する頭。何も考えずに、只足だけを動かした。





―――そのせいだろう。自分の目の前に、大きな谷がある事に気付けなかったのは。


止まろうとするが、時すでに遅し。


一瞬の浮遊感の後、私は暗闇に吸い込まれて行くのだった。




..............................................

................................

......................

..........

.....






――冷たい





――いや、熱い



―――でも、寒い




――ここは、水の中?



――なんでこんな所に...



焦点が合わない目。ハッキリしない思考。だが、その思考も段々ハッキリしてくる。



――さっき、逃げてたら、首に矢が刺さって...谷に落ちた。


――でも、自分は生きてる。


――谷の底が、川になってたのか...!



そう分かった瞬間、様々な感覚が押し寄せて来る。


首にある燃えるような熱。痛み。水の冷たさ。息苦しさ。



必死に水面に出ようとするが、どんどん底に落ちてゆく。


(そうだ、鎧!鎧を脱がないと...!!)


そう思い至り、なんとか鎧を脱ぎ捨てる。血を失ったせいなのか、酸素が無いからなのかは分からないが、ハッキリしたばかりの意識ももう失いそうだ。


もがいて、もがいて、もがいた。


それでも水面には出れず、もう駄目だ、と思った瞬間。



「――――ッハアアァ!!...ゲホッ!...ゲホッ!」


顔が水面から出た。


体が酸素を求め、今までにないくらい荒い呼吸を繰り返す。


肺と心臓が引きちぎれそうなほど痛い。



だが、何とか逃げ切った事には変わりはない。





















「オイ!あれ見ろよ!野蛮人が川に流されてるぞ!」

「まじか!しかも女じゃねぇか!」

「殺すな!捕まえろォ!」



.......いや、どうやらそうでもなかったらしい。









◇ライト視点




「誰だ貴様、懲罰部隊の者か!?」

「死ね」

「なっ...グハッ!?」


眼に入った王国兵を殺しながら森を走っているが、彼女は一向に見つからなかった。

彼女の落下地点はこのあたりの筈だが...


そう焦りながら走っていると、少し開けた所に出た。


そこを見渡すと、数か所に血痕が残っている事が分かった。

王国兵の死体もあるし、ここで戦闘があったのは間違いない。

足跡は森の更に深い所に向かっている。


(ここは彼女の落下地点に近い。他の隊員に伝えるべきか...?)


そう思案し、何か派手な魔術を上に放とうとするが―――


寸前の所で思い留まる。


これが他の合衆王国兵の物である可能性も捨てきれない。今ここに皆を集めてしまうのはリスクが高すぎる。


そう考え直し、俺も森の深部へと入って行くのだった。


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................................

......................

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....



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

相変わらず視点がコロコロ変わってる...分かりづらくてすいません。

誤字とかもあとで確認します。今はもう眠い。それじゃ。

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