第37話邂逅再び

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その光景を見た瞬間、考えていた事全部吹き飛んで、頭が真っ白になった。

誰よりも仲が良かった...親友の...アナの...頭が、飛んでいる。


分かっていた。だから全力で止めた。

なのに彼女は私の静止を聞かずに行ってしまった。


今の内に逃げろ、と理性が訴えて来る。

だが、体が、感情がそれを許さなかった。


「.....お前、よくもッ!よくもやってくれたなああぁぁッ!!」


アナを殺したコイツに対する怒りなのか、アナを失った悲しみなのか、自分の非力さに対する絶望なのか。それともその全てなのか。それすらも分からない。


ただ、心の中にあるこの感情を、ヤケになって吐き出す。


「殺す!!」



「...ハァ、頼むよ。俺にこれ以上同年代の女の子を殺させないでくれ。」



手を挙げ、困ったような、呆れたような表情をする敵兵。



...あぁ分かったよ。今私の心を満たしている感情は“憤怒”だ。



「許さない...!」

「...そうか、残念だよ。」


瞬間、兜に衝撃が走る。


「ぐッ...!?」


(なんだと...アイツは、まだ本気を出していなかったのか!?)


今までとは桁違いな魔術の発動速度。

早すぎて反応すら出来なかった...!?


「バケモノが...!」


衝撃で歪み、使い物にならなくなった兜を脱ぎ捨てて吐き捨てる。







ラウラを拉致ってから急いで砦の向こう側、つまり合衆王国の陣地に急いでいた訳だが――


「クソッ!もっと早く気付いていれば...!」


酷い状況だ。合衆王国軍の方が王国軍より数は多い筈なのに、苦戦どころか壊滅しかけている。


これじゃ俺達の案も潰れちまう...!


「レオ!何で合衆王国兵はこんなに負けてんだ!?」

「聖女だ!おそらく王国に聖女が居る!そいつが王国兵を強化している!」


聖女、という言葉に思わず反応してしまうが、聖女とは役職だ。あのクソビッチ以外にもいる。それに今はそれより優先すべき事がある...!


「どうだ!合衆王国軍の指揮官達は見つかったか!?」


俺達のこの行動の目的。何も王国ブッコロスなんて単純なものではない。

合衆王国軍の指揮官と会えなかったらこの案は全部パァになっちまう。

合衆王国軍が壊滅した後に、「王国から裏切ってきました。これ手土産です」ってラウラ渡しても怪しまれるだけだ。だがこの状況で危機に陥っている合衆王国軍の指揮官を助けたら間違いなく信用してもらえる。だから血眼になって探している訳だが...


「ダメだ!王国軍も合衆王国軍も指揮官が死んでるらしい!」

「...クソがッ!」


どうするどうする...!

焦った気持ちで皆を見渡すと、皆期待と不安が混ざった様な目を――

してる訳ないか。


なんか余裕ぶっこいてる奴もいるし。

焦った俺がバカだった。


とりあえず足を止めて話すことにした。槍で突撃してくる兵士もいるが、片手間で殺す。


(...あ、今の合衆王国兵だったか?いや、もう気にしなくていいか。)


なんとも締まらないが、それが俺達だ。気を取り直して話はじめる。


「ハァ...まあいい。この案はボツだ。今から王国兵狩りまくるぞ。」

「任せろ」

「あ、あと聖女いたら殺しといてくれ。それと全身鎧の奴いたら援護しろ。多分まぁまぁ位の高い騎士だろうからプラスになる筈だ。」


「.......全身鎧見つけた。」


いつも俺の話を聞かずに周りをキョロキョロ見渡している隊員。

その癖のおかげか、早速援護対象を見つけてくれたらしい。


「どれ?」

「ほら、あれ。」


彼の指さす方へ目を向ける。


「結構ピンチやん。」

「うわ...あの首無し死体、いつも全身鎧を回収してた女の子だ。ひっでぇ...」

「助けにいかないとヤバそう」


思い思いの事を口にする懲罰部隊の隊員。

だが、俺は彼らとは違うものへ目を向けていた。



「――ヒロ...だと?」


そこには、かつてのライバル(?)、そして今では憎むべき相手である男がいた。


呆然としてその光景を眺めていると、全身鎧が兜を脱ぎ捨てた。


(...あの全身鎧、女だったのか?)


砦に居た時、しつこいくらい俺らに挑んできた合衆王国の全身鎧。その鎧の中身が少女だった事に驚いていると、隊員たちからも驚愕の声が聞こえた。




「――俺達を助けてくれたあの少女だ...!!」








敵は相変わらず余裕そうな澄まし顔をしている。


「これで終わりだ」

「何を言って...ッ!?」


勝ち誇った様な敵の顔。それが意味するものに、一瞬で気付いた。

(何故気付けなかった...!?)

自分の足が、地面に埋まっている。動かそうとすると少しだけ動くから、水魔術か何かで地面を液状化させたのだろう。


これは...詰みか。

防御魔術も詠唱で気付かれてアウト。攻撃しようにも詠唱でバレて殺される。

...無詠唱って強すぎ。


「もう一度聞く。降参する気はないか?」

「死ね」

「...分かったよ、お前が死ね。」


少し苛立ったような動作で手を私に向ける。


「...アナ、兄さん。私も今すぐそちらに行きます。」


諦めて目を閉じる。

その瞬間、体に物凄い衝撃が走った。先程兜に当たった時とは比べ物にならない程の衝撃だ。


「...クソっ!間に合...かっ...た!!」


遠くから何か声が聞こえたが、同時に体に感じた衝撃に対する違和感に気付く。


敵が使っていた無詠唱の風魔術は2種類。

発動速度は速いが、威力は低い魔術。そして、発動速度は遅い――といっても無詠唱なので、他の魔術よりは圧倒的に早い――が、全てを切り裂くような威力の魔術。

鎧を着た騎士が真っ二つになっていた程の切れ味だ。


だが、私は衝撃を感じた。まるで、頑丈な鎧に剣を叩き込まれる時のような――


意味が分からず目を開けると、私は空にいた。

飛んでいる、という表現が正しいのだろうか。

物凄い音がするし、風も半端じゃない。


「いや...はあ...ぁぁ!?」


意味分かんない、意味分かんない!


そうパニックになっている内に、地上はどんどん近づいている。


(このままじゃ森に墜ちて死ぬ...!どうすれば...そうだ、風魔術!これで減速すればなんとか...タイミングを見極めろ!)


「...今だ!――風の精霊よ、我が声に応じ発現せよ――“ウィンド”おおぉ!!」





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