第36話アナ


「あぁもう!王国はどれだけ戦力を温存してたの!?」


自棄になって叫びながらも、土魔術で壁をたてる。だが、たてた傍からそれに大きな亀裂が入る。その原因を作ったのは、目の前の澄ました顔をした男。


(意味分かんない魔力量の持ち主の次は無詠唱魔術の使い手ってどういう事!?)


最近、どうも勝ち星が少ない。エイベルに負けたと思えば砦に居る敵にも負けるし、

今度は無詠唱魔術の使い手にも負けそうだ。自信なくなりそうになるが、今は気を強く保っていなければ一瞬でやられる。


周りの兵士達も苦戦している。負傷した筈の王国兵の怪我が、一瞬で治ってしまうからだ。あれは、聖魔術による奇跡。このままでは奇襲してきた押し潰されかねない。


今の私に勝ち目はないし、合衆王国の王女としてここで死ぬ訳には行かない。

私に残された手段は、尻尾を巻いて逃げる事だけ。


とは言え、コイツはそんな事を許してくれそうな相手じゃない。


クソっ。どうする!?何か手はないのか―――

必死に頭を回すが、良い方法は何一つとして浮かんでこない。このままでは...


そう考えていた時、側近のアナがスッと私の横に来る。


「サラ様、私に策があります。」

「そうか、助かる!それはどんな策だ!」


アナは秀才だ。思考力に関して言えば私など遠く及ばない程に。

そんな彼女の案だからこそ、期待を込めて続きを促す。

だが、彼女の口から出てきた言葉は予想外の、しかも策と言うにはお粗末なモノだった。


「私が時間を稼ぎます、その隙に逃げてください。」

「...駄目。こんなところで死んで欲しくない。それにアナにアイツの足止めなん

て―――」


――いや、方法はある。だがそれを使うという事はアナの死を意味する。

だが、その策を提案したという事はアレを使うつもりなのか?


「アナ、絶対に変な事考えないで。」

「...お許しを。先に逝っております。」


だが、私の静止を聞かずにアナは走り出す。

止めようとして手を伸ばすが、それは虚しく空を切った。


「アナ!?止まって!」

「申し訳ございません!あなたに仕えれて光栄でした!!スキル発動、“刹那の守護者”!」

「アナ!!」


(駄目!それは...そのスキルだけは使っちゃ駄目!)


敵である無詠唱魔術の使い手は、敵の無謀な突撃に怪訝な表情を浮かべながらも魔術を放った。


だが、その表情は直ぐに唖然としたモノになる。

彼の魔術が、アナの体に触れた瞬間分解されたからだ。



体の内部から襲ってくる、気が狂いそうな痛みに耐えながら、アナは思案する。


(結局、サラ様は最後まで私を見捨てなかったわね。)


出来損ないの私を救ってくれた彼女の為にも、魔力切れだろうとなんだろうと耐えて見せよう。そんな覚悟はとっくに決めてある。


だが、現実はいつだって非情。もう、魔力が無くなりそうだ。そうなったら、間違いなく敵に殺されるだろう。


(私の人生、ここで終わりかぁ...)



今思えば、幸せな人生だったのかもしれない。


希少なスキルが発現し、家族に祝福されていたのも束の間。好奇心でスキルを発現してから全てが変わってしまった。


私ののスキルは“刹那の守護者”。それはどんな攻撃も無効化する、最強の守護系スキル。だが、その代償が大きすぎたのだ。


だが、発動したのは幼少の頃。その時は体内の魔力回路が成長しきっていない時期だ。そして、そんな時期に大量の魔力を消費するスキルを発動してしまった。

当然、発動の負荷に小さな体が耐えられる訳もなく、私の魔術回路は破壊され、二度と魔力が回復しなくなった。


痛い痛いと泣き叫ぶ私に対して向ける家族の眼は、どんどん冷ややかな物となった。

魔術の名門一家でありながら、自分の愚行によって魔術が使えなくなったごく潰し。そんな評価を付けられ、私は“お前にお似合いだ”と与えられた屋根裏部屋に引き込もるようになる。


そんな私を救ってくれたのがサラ様だ。


サラ様は“友達になろう”と手を差し伸べてくれた。だが、家族に捨てられたばかりの私にそれが信じれる筈もなく、“どうせアナタも見捨てるんでしょ”と何度もその手を振り払った。


そんな事を繰り返していたある日。


その日も“相変わらず埃っぽいな”と言いつつ屋根裏部屋に上がってきた。彼女は何か良い策でも考えて来たのか、自信ありげな表情で話し出した。

「友達というのが信用できないなら、もっとジツリテキ?な関係になろう。部下と上司の関係だ。魔力が使えなくたって、君は十分優秀だ。その力がある限り、私は君を見捨てたりしないとう約束しよう。」

その言葉に、渋々ながらも頷いた。今思えば、アレは子供のが話すような内容ではなかった。まぁ、そんな言葉が必要なくらい当時の自分がひねくれていたのだろう。

ともかく、私はそのようにして彼女の手を取ったのだ。


今でも考える事がある。私の優秀さも意味を成さない時が来れば、彼女は私を見捨てるのだろうか、と。


だが、そうでもないらしい。現に、彼女は最後まで私を止めようとした。彼女に忠義を誓う者として、こんな嬉しいことは無い。



――だが、今はその優しさが命取りになりかねない。サラ様は今も私を助けるためにこちらに走っている。ここで私が殺されれば、彼女は黙って逃げてくれるだろうか?

答えは否だ。きっと、怒り狂って敵に襲い掛かるだろう。それでは、折角作った隙も無駄になってしまう。


なら、私に出来ることは一つだ。



覚悟を決め、祈るような気持ちでスキルした。

それを好機と見たのか、敵が魔術を放ってくる。



こちらに迫ってくる魔術を見ながら、只ひたすらにサラ様が生き延びることを願う。



その瞬間、視界がブラックアウトした。



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投稿頻度も文字数もヤバイ...


あと、受験お疲れ様。for J.I

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