第35話 かつての婚約者
昨日だけで2週間分くらいのPVがついたんだけど。
あざっす。
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王国の陣地、その中はにある大きな天幕があった。
頑丈だが、その分高価な筈の布をふんだんに使われており、それらは他の天幕のように弛んでおらず、しっかりと張ってある。所々に装飾が飾っており、場違いな高級感を醸し出している。
天幕の中に目を向けても、その中にある物は高級な物ばかり。ここは戦場だというのに、ティーセットや鏡なんてものもある。
その中に居るのは、この軍の総指揮官。公爵令嬢のラウラ・S・クラークだ。
優雅に茶を飲みながら、前に立つ隻眼の男に目を向けている。
「ラウラ殿、準備が整いました。号令を。」
その男の名はセガノ・シカン。ラウラの副官だ。実戦経験もなく、軍事教育も受けていないラウラに代わり実質的にこの軍を動かす者だ。
「そうですか...では、作戦の実行を許可します。敵を排除しなさい。」
「了解しま―――「ァァァアア゛ア゛!!!」
男の言葉は、突然遮られた。
男は直ぐに気付く。
(何かが叫びながら、物凄い速でこちらに迫ってきている...?)
声の方向は、上――
そう思って顔を上げたその時。
頑丈な筈の天幕を突き破り、物凄い速さで目の前に“ナニカ”が落下し、それは地面と接触したた瞬間破裂したように天幕に赤い液体をまき散らした。
思わずそちらに目を向けると――
「...これは、死体?」
死体が、あった。
頭から落ちてきたためか、頭部は丸ごと潰れていて顔は分からない。落下の衝撃で四肢があらぬ方向へ向いているが、“片手の手首”から先は消えていた。
「...え?こ、これは?どういう事ですか?」
初めて見る死体。それもかなりエグい部類に入るソレを見ながらも、ラウラは吐き気を抑えて男に尋ねる。
「上から落ちてきたという事は、単純に吹き飛ばされたのでしょう。」
「...吹き飛ばされた?砦も敵陣もここから離れていますよ?」
「それだけの術者が敵に居るのでしょう...ですが、安心してください。こちらにも彼がいます。彼はどんな術者にも負けない。」
「そ、それもそうですね。それに聖女もいますしね。」
突然すぎるグロ死体の目撃によって動揺しているのか、発言とは裏腹に彼女は不安そうな表情をしていた。
そんな彼女を見て、男は自信ありげな口調で言った。
「えぇ、何せ彼は、若干16歳にして無詠唱魔術を扱う天才です。」
〇
「よし、王国兵共を皆殺しにするぞ」
「作戦とかないの?」
「正面突破だ。突っ込む、殺す、トップを攫う。以上!」
「えぇ...」
意見を出し合った結果、俺達は王国軍の総司令官、ラウラを攫って合衆王国に攫う事にした。彼女程の大物を捕まえて来たとなれば、合衆王国もある程度は俺達を信用するだろう。
その為に、何千何万もの王国兵からなる陣地を突破しなければいけないのだが...
まぁ、余裕だろう。
「という事で、作戦開始!!目指すは総司令官の首!――“ウィンド”!――」
「首取ったらダメだろ」
ガルにそんな事を言われながらも、俺は砦の門を魔術で吹き飛ばした。
さぁ、反逆だ。
〇
「報告!砦の門が開き...いや、吹き飛ばされました!」
伝令兵と思わしき兵士が声を張り上げる。
血だらけになった天幕に居れる筈もなく、私達は外で戦場を見渡していた。
見渡す限りの王国兵がいるだけで、他のものは何も見えない。そこで報告を聞く。
門が吹き飛ばされというのが意味不明だが、それより内容だ。もう陥落したと思わしき砦の門が開いたという事は、そこから敵がが出てくるのだろう。
「...まずいな。今別動隊を向かわせたばかりだ。戦力は?」
彼の言う通り、今はタイミングが悪い。
もしかして気付かれた?なんて考えていると、伝令兵が言いにくそうに口を開く。
「それが...30人とのことです。」
「...は?」
―――セガノが間の抜けた言葉を放ったその時だった。
前線が、吹き飛んだ。
爆音と共に、大勢の兵士たちが消滅した。
「え?」
意味が分からない。
あんなの、見た事も聞いたこともない。あそこで、何が起こったの?
「...バカな!!どういうことだ!敵にあんな切り札があるなど聞いて――」
だが、それは一発では終わらなった。
何発も連続で放たれ、その度に兵士達が吹き飛ぶ。
前線指揮官たちが必死に陣形を組み立て、兵士たちが何とか生き延びようと必死に盾を構える。だが、そんなモノ無意味だとでも言わんばかりに連続で魔術は放たれた。
(そんな...!あんなの、魔術王くらいじゃないと歯が立たない!)
そしてそれは、段々私達のいる方へ近づいていた。
このままで不味い――そう思ってセガンに目を向けるが、彼はまだ呆然としていた。
「あぁもう!魔術兵は全員障壁展開!なんとしてでも耐えて!!」
「...りょ、了解!聞いたか!?お前ら死ぬ気で魔術障壁を張れぇ!」
言うなり、近くに居た魔術師たちが全員で障壁を張り始めた。
私もそれに参加する。これでも魔術の申し子と呼ばれていたんだ!
少しくらいは耐えて見せる...!
土煙の中に、幾つかの影が見えた。敵は、もうすぐそこだ。
そう身構えていると、声が聞こえた。
「見っけ」
その瞬間、魔術障壁が乾いた音と共に割れる。
――いや、今はそんな事どうでもいい。
(そんな、そんな...なんでなんでなんで!?)
土煙が晴れ、そこに立っていたのは―――
「何故....何故あなたがここにいるのです!ライト・スペンサー!!」
〇
「見っけ」
王国兵をぶちのめしながら全力で走ったおかげか、王国本陣に直ぐに着いた。
魔術障壁らしき物があったが、俺達の前では無意味。
適当な魔術で障壁を割ってから、風魔術で土煙を吹き飛ばし視界を確保する。
そこに居たのは、かつての婚約者。今回の標的だ。
「あの少女以外は殺せ」
「了解」
彼女には指揮官としての才はなかったから、その代わりとなる軍師が近くに居る筈だ。そいつには用はないので、ここで死んで貰う。
俺達が欲しいのは、魔術の天才かつ王族の血を引く公爵令嬢であるラウラ。
合衆王国からすれば、殺せば単純に王国の戦力低下も可能。また、人質にも見せしめにもできる。そんな喉から手が出るほど欲しい存在だ。
だから俺達はコイツを攫う事にしたのだ。
懲罰部隊が合衆王国に寝返るにあたって、こんなおあつらえなお土産はないだろう。
俺からしてもついでに復讐も出来るから万々歳だ。
「こ...こんな事をして許されるとでも思っているのですか!?これ以上罪を重ねるというのですか!?ライト!」
周りの兵士たちがミンチと化しながらも、俺の目を睨みながらそんな事を言うラウラ。少しイラっとするが、この後のコイツの運命は全て俺次第なのだ。
「ハッ。俺が今までに何か罪を犯したとでも?」
「堕ちましたね...!外道!」
「その態度、いつまで続くんだろうな。」
笑いながら、歩いてラウラに近づく。相変わらず目を逸らさずに睨んでくるが、このままだと運びづらい。ちょっと眠って貰おう。
「私は屈しません!」
「ハイハイ」
そう言うとともに、ラウラの顔を死なない程度に殴る。
「...うっわぁ、女の子殴ったよアイツ。さいてー」
こんな時までからかって来るクラウ。だが、今回ばかりは同意見だ。
「そうだな、最低の感覚だ。」
ラウラを殴った手を見ながら、なんとなく罪悪感に駆られる。
俺はコイツに恨みも憤りもある。殴ったら気でも晴れるだろうと思っていたが、実際はそうでもないらしい。
恨みがあるとはいえ、同年代の女の子の顔を殴るのは気が引ける。
一瞬で人を眠りに就かせる魔術でもあればいいんだがな...
「まぁいい。早く行くぞ――」
「ライト、気になることがある。」
俺の声を遮り、元騎士の男が険しい表情で話しかけてきた。
「レオか。なんだ?」
「王国軍の数が少なすぎる。別動隊が居る筈だ、時間がない。」
「...それはつまり――」
「かなり不味い状況だ。合衆王国軍が危ない」
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