第34話 使者

「門を開け!王国軍の者だ!」


早朝、絶賛二日酔い中の俺の耳に、そんな声が聞こえた。

幻聴だと思いたい。そもそも、これっぽっちも被害は出ていないものの合衆王国軍により苛烈な攻撃は続けられている。そんな中に王国軍の人間が来るとは考えられ...


(...いや、ありえるか。)


残念な事に、考えれば考えるほど自分の望みとは真逆の結論に至ってしまう。

合衆王国軍は砦の西側に位置し、王国軍はその逆の東側。最初は合衆王国軍が砦の全方位から包囲していたのだが、王国軍の突破作戦を受け、砦の東を担当していた合衆王国軍の部隊は東のと砦に残存する部隊による挟撃を避けるために撤退した。

だから、王国軍が砦に辿り着く事くらい簡単だ。


どう対応すればいい...?


「とりあえず、門を開けては?」


そんな風に頭を捻っていると、レオが話しかけてきた。


「いいのか?」

「えぇ。何か不味い事があれば、この前のようにお掃除すればいいだけです。」


お掃除て...ま、まぁ、彼がいう事は正しい。使者の要件を聞かなければ。




「...どういう事だ?何故こんなにも人員が少ない!?」


砦に入って来た使者らしき王国軍の兵士達、そしてその隊長と思われる初老の男。その男は、俺達を見るなりそんな事を喚き散らした。この時点でかなり殺気の籠った目を向けられているのだが、その男それに気付いていない様子だ。


喚き声に、殺意を隠しながら声を絞り出す。


「...合衆国王国軍の攻撃により全滅しました。」

「チッ、無能共が。まぁいい。元から貴様らには死んで貰う予定だったのだからな」


レオが言っていた、作戦の本当の目的の事だろう。というか、何しに来た?

そんな風に疑っていると、その男が明らかにこちらを軽蔑したような口調で尚も口を開く。


「貴様ら、今から敵陣に突撃しろ。」

「...は?」

「ハァ...犯罪者共は言葉も解せないか。もう一度言ってやろう。敵陣に突撃しろ」


コイツは何を言っている?それでは死ねと言ってるような物じゃないか。


いや、そういう事なのか?

この人数だともう使い道はない。処刑してもいいが、だったら敵陣に突撃させた方がマシ、せいぜい敵魔術師の魔力でも減らせとけってか?


あまりの物言いに、流石に腹が立ってきた。


「...いい加減にしろ、カスが。」

「あ?貴様、今何と言った!?犯罪者を生かしてやっているのにそれは何だ!?」

「ハァ...もういい。おい、今回はお前らがやっていいぞ。」

「良いね、待ってました!」

「好きに散らかせ。」


俺がそう言うのと同時に、男の手首が吹き飛ぶ。

一瞬骨が見えるくらい綺麗な断面が見えたが、すぐに大量の血が噴水のように噴き出した。そこでやっと男が腕を切り落とされた事に気付き、情けなく泣き叫んだ。


「あああああァぁぁ!?いたいィィィィ!?」

「...ッ!?な、なにをする貴様ら!?」


状況が理解できず固まってた兵士たちが今更のように槍を俺達に向けてくるが、無駄だ。


「わりいな、二日酔いで隊長がイライラしてる時に来た自分達を恨め。」

「オイ」


まぁ、茶番はともかく。

今まで合衆王国軍相手に30人で戦い、手加減しまくっても怪我人一人出さずに生き残ってる連中だ。ただの兵士如きに苦戦する筈もなく、10秒も経たずに汚い肉塊に成り下がる。残りは、腕を切られて叫んでる隊長らしき男。


「ウッ、グ...グウウウウゥ!」

「いい加減黙れよゴミ。お前の喘ぎ声なんて誰も聞きたくねぇよ。」

「エロい女の子の喘ぎ声だったら聞きたいのか?」

「さっきから何なんだよお前。煽ってんのか?」

「いや、隊長ふつか酔いでイライラしてるからさ。ジョークで楽にしてやろうって思った訳さ。」

「ハァ...ハァ...フグゥ...!貴様ら、何をしたのか分かってるのかぁ!?」

「余計ストレス溜まるわ。」

「っていうか結局聞きたいの?あ、もしかして君ソッチだったの?」

「おいクラウ。お前そんな事いうキャラじゃなかっただろ。何があったし。」


「いい加減にしろ貴様らぁぁぁあ!!」

「あぁ、まだ生きてたんだ。そんなに怒ると頭に血が上って死んじゃうよ?あ、上がる血もないか。手、スパってしたもんね。感謝しないと。」

「ハッ、煽りすぎだろ。やっぱイライラしてんじゃん。」

「貴様らぁぁぁぁ!」

「うるさい、もう飽きたわ。死ね。“ウィンド”」


俺の魔術で、その男は上空まで飛ばされていった。


「うわぁ...飽きたってだけで人を殺すなんて。母さんが泣くぞ?」

「母は俺を生んでからすぐ死んだ。顔を見た事すらない。」

「...悪い。」

「いや、お前急に重い話ぶっこんで来んなよ。何なん?」

「黙れ。それより、これで王国に喧嘩売った事になる。って事で、早速だが第4回目の会議だ。おそらく、これからの行動が俺達の未来を決定すると思う。気張ってくぞ。」

「りょーかい」




「まず、レオに確認したい事がある。お前は何で急に突撃を命じられたと思う?」

「そうだな...普通に前言った内容と変わっていない気がする。」

「というと?」

「あぁ、敵からの増援が確認されたとか、食料が無いとかの理由は考えられるが、王国は何か焦っている様に感じる。」

「なるほど。だからこんな急に命じられた訳だな。この後の王国軍の動きは?」

「砦に派遣した使者が殺された以上、何らか動きはあると思う。ただ、王国は私達捨て駒が合衆王国の攻撃を耐えるとは思わない。もうとっくに陥落したか、合衆国王国が自分達の策に感づいて警戒してる、とも考える筈。」

「...分からん。具体的に言ってくれ。」

「王国は直ぐに砦を奪還、そして別動隊で背後から奇襲する。っといった感じだろう。あくまでも憶測の域を出ないが、それ以外に考えられない。」

「...という事は」

「王国による、砦攻略作戦の開始だ。」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

短くてすいません。

そういえば、明日は中学生の公立入試の日ですね。

頑張れ、俺以外の中学生。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る