第33話 友情?
「う、うぷっ...う...ウエエェェェ」
「言わんこっちゃない」
翌朝、俺は皆に呆れながら吐きまくってた。
完全に二日酔いだ。
吐いた分少しマシになったが、それでも気持ち悪さは残る。それに頭も滅茶苦茶痛い。魔力切れの100分の1くらいの苦痛だ。結構ヤバい。
口元を腕で拭う。
「くそ、飲み過ぎた。」
酒を飲み始めてからの記憶はあまりない。ただ、物凄い楽しかったのは覚えている。
ここ1年楽しいことなんてこれっぽっちもなかった。そのせいでついつい飲み過ぎてしまったのだ。だからその代償と思えば、二日酔いなんて大したことない...
「...オゲエェェ」
無理だ、気持ち悪すぎる。
「...ハァ、ハァ.....今日は、お前らが、合衆王国...の相手...しろ。」
「まあ、そんな状態じゃ一兵卒にも殺されそうだもんな。」
〇
砦から少し離れた合衆王国軍の天幕。
その中でも、気持ち悪くなっている人間が一人居た。
「うぷっ...」
「はぁ...今のあなたを見た国民はどんな事を思うのでしょうね。」
合衆王国第二王女、サラステイアだ。
彼女は昨日、魔力切れ寸前まで魔術をぶっ放してたのだ。
「普通気付きますよね?魔力切れになりそうだってことくらい。」
「......しょうがないだろ。敵と戦ってたんだぞ。」
「なら尚更です。サラステイア様、私が止めに入ってなければ魔力切れになっていましたよ?そうなれば死も同然です。」
昨日の事はよく思い出せない。最後の方なんて、ほぼ気力だけで立っていたのだ。
よくそんな状態でよく敵に殺されなかったと思う。
「敵と戦って死ぬなら本望だ。それに、王女として敵に背を向ける訳には...」
「今のあなたは一概の騎士です。いいですか、これからは絶対にあんな事しないでください。」
「でも」
「でもじゃありません。いいですね?」
「...ハイ」
王女に対して物怖じせずに発現するその少女は、サラスティアの側近兼侍女。彼女は幼少のころからサラステイアの侍女であり、彼女の肉親以外なら誰よりもサラスティアに親しい。サラスティアにとっての幼馴染、そして親友でもある。
そんなサラスティアだからこそ、彼女の言葉が自分のためであるものだと理解し、その言葉に従うのだろう。
「今日は最初から参戦しないこと。午後になって魔力が回復するまではここで待ちましょう。」
〇
「ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス」
「ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール」
「ロックソード、ロックソード、ロックソード、ロックソード、ロックソード」
その日の戦いは異常であった。まぁ、昨日も異常ではあったのだが。ライトは圧倒的な魔力を持っていながらも、エルによって魔術自体の扱いがかなり上達していた。
敵にとって、ライトは圧倒的な魔力を持つ凄腕の魔術師、という認識だった。
それに比べて、ライト以外の懲罰部隊の戦い方は、敵にとってあまりにも悲惨だった。彼らのほとんどが魔術など使ったことがない。故に、彼らが取った戦法は単純。
魔術で弾幕を張ったのだ。
ライトがそうしなかっのは、自分たちに敵意が無いことを証明するため。そのために彼は生身で戦場に出ながらも、一人も殺さずに自分を守るだけだった。
そんな事を露も知らずに、懲罰部隊は弾幕を張った。
弾幕、というよりむしろ壁に近いだろう。炎の壁、水の壁、土の壁。この世の物とは思えない光景に、思わず合衆王国の兵士たちが呟く。
「...これ、どうしようもないだろ。」
「さぁ...とりあえず魔術でも放って見たら?」
「どう考えても無駄なんだが...」
その弾幕の壁は正午まで続いた。
と言っても、彼らが自分の意志で弾幕を止めた訳ではないが。
「正午になった!行っていいだろ!?」
「そうですね、行ってらっしゃいませ。御武運を。というか、あの弾幕を超えられるのですか?」
「あぁ、突撃あるのみだ!」
〇
「ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス」
「ウォーターイージス、ウォーターイージス、ウォーターイージス...飽きた。」
「俺も。それになんか喉痛くなってきたし。アースウォール、アースウォール」
脳死で魔術弾幕を張っていた懲罰部隊の面々。単純作業過ぎて半分寝てながら詠唱を呟いてる奴もいる。
そこに、詠唱以外の言葉が混じった。
「勝負だ王国兵いぃ!」
突如、弾幕に穴が開く。そして、その穴に全身鎧の騎士が飛び込んで来た。
それを見た懲罰部隊の男達の顔はあまり明るくない。
「なんか突撃してきたヤツいるんですけど。こわっ」
「あぁ、あれ昨日ライトとやり合ってた奴だな。」
「まじかよ。めっちゃしつこいんでしょ?めんどくせぇ...」
「まぁ、昨日は隊長に任せちまった訳だし、今日は俺達で適当にあしらうぞー」
「へーい」
「りょーかい」
そんな会話が敵の間でされているとは知らずに、王女は全力で敵に挑むのだった。
...............................
......................
...............
.........
...
その日も全身鎧が少女に連れていかれて戦いが終結した。
ライト達懲罰部隊が砦に来て、およそ二週間が経過した。
全身鎧に挑まれ、それを撃退し、酒を呑み、しょーもない話で盛り上がり、二日酔いのライトをバカにする。それの繰り返しだったが、懲罰部隊はそんな生活に結構満足していた。
先の見通しも何はないが、彼らは結局、今の生活が楽しければそれでいいのだ。
彼らは今日も火を囲みながら酒を呑んでいた。
「にしても、最近全身鎧強くなってね?たまにヒヤッとするんだけど」
ガルが話を切り出す。ライトがそれに答えた。
「毎日魔力切れになりそうなくらい全力で強敵に挑んでんだ、そりゃ強くなるだろ」
「確かにな。それに俺らに危害を加えられる事もないから怪我の心配もない。」
ガルが言った通り、サラスティアは今までにない程成長していた。彼らは魔術師殺しエイベルに敗北したばかりか、ここに来てからは一人の王国兵を倒せてすらいないのだ。そのせいか、彼女は鬼気迫る想いで戦っていた。
「俺、なんかアイツに親近感じゃないけどさ、友情っぽいのが芽生えた気がする。」
「あ~、分かるわ。まぁ、ここ2週間毎日やりあってるもんな。」
「それより、それそろ先の事考えねーとなぁ...」
「あぁ、このまんまじゃ復讐もあの少女に恩返しもできないしな。」
「そういえば、今日は誰の番だっけ。ほら、監獄に送られる前の事話すの。」
「確かライト...だったがコイツの話は大体聞いたしな、というか今話せるような状態じゃないだろこれ」
「なにいってんだよ、いつでも...ヒック、話せるぜぇ~」
「こりゃ明日は二日酔い確定だな」
戦場とは思えない明るさ。
彼らが気に入ったこの生活は、しかし直ぐに終わりを告げる事になる。
〇
次の日の早朝、俺はいつものように気持ち悪さで起きた。
天気は晴れ、気持ちの良い青空だ。
気分は最悪、気持ち悪いし頭痛い。
ちょくちょく吐きながらも身支度をしていると、不意に声が聞こえた。
「――門を開け!王国軍の者だ!」
...マジかよおい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます