第30話 戦場

編集はこれが終わったらします...!あ、あと帰国しました。

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目の前には何千何万もの将兵たちが所せましと並んでいる。

味方の砦を囲む敵と戦端を開く前に、正規非正規を問わず全兵がここに集結したのだ。


最後の激励でもやるのだろうか。


そう思って整列した兵士達の前方を見ていると、見覚えのある少女が見えた。

不思議に思って眼を凝らすが、いかんせん俺たち懲罰部隊は最後列だ。あまり良く見えない。



――不意に、鈴のように透き通る声が響く。


(この声はまさか...!)



「この軍の最高指揮官を拝命しました、公爵家のラウラ・S・クラークです!」



――1年前の記憶がフラッシュバックする。

あの裁判の時、色んな奴が俺に心のない言葉を投げかけて来た。「外道」とか「最低」とか。


政略婚約とはいえ、ラウラは「あなたの事をもっと知りたい」と何度も話しかけてくれた。だから、そんな時でも「彼はそんな事をする人じゃない!」と声を上げてくれることを、少しだけ期待してしまった。


そんな俺に、彼女は――


「最低です。あなたはそんな事する人ではないと思っていましたが、どうやら間違っていた様です。もう二度と会う事はないでしょう。さようなら。」


あの時のラウラの、俺の事を軽蔑し、哀れみさえ浮かべた眼。

あの時のラウラの、冷え切った口調。


今でもありのままに思い出せる。



一瞬で腹の底が熱くなり、頭に血が上った。

煮え滾るような憎悪が、俺の胸の中で荒れ狂う。



絶対に、許さない。




いつか、自分の手で、俺が味わったような絶望を味合わせてやる。



いや、待てよ。いつかじゃなく、今すぐアイツに魔術を放てば、殺せる――



「おい」


声と共に、肩に手を置かれた。


「...なんだ?」

「あの公爵令嬢サマに恨みがあるのかは分からんが、ここでお前が暴れたら俺達も巻き込まれる。ここですべてが終わるぞ?」

「...そうだな、悪い。」


バツが悪くなり、思わず顔を逸らす。

昔の事を思い出してイライラするなんて、まるでガキだ。

あの時の事を忘れるとは言わないが、あまり思い出さないでおこう。昔の事を引きずるようじゃ、前に進めない。


そう再び気を引き締め、しかし誤魔化せない憎悪が胸の奥底で燻るのを感じながら、ラウラの激励のような言葉を聞くのだった。









「全軍、突撃イイィ!!」


監視役兼、実質的な指揮官である男の掛け声とともに何万人もの兵士が走り出す。

喚声、鎧の金属音、足音。その全てが合わさって空気を震わせ、自分が滝の中にでもいるかのような錯覚に陥れる。


「ぅるせえぇ!!」

「あぁ!?なんつったぁ!?」


そんな中、俺達懲罰部隊は全力で走っていた。

戦争で最も大事なのは足だとはよく言った物だ。確かにこんな中で転びでもしたら、後ろの連中に踏みつぶされる。戦う前に仲間に踏み殺されでもしたら目も当てられない。


「うおおおお!あ、やべっ...痛!ちょ、止まっ...ガハッ!...ま、まってグフゥッ!」


というかもう既にそうなってる奴がいる。今のは他の懲罰部隊の奴だ。アイツはもう助からないだろうな。あと30秒もすれば血まみれの肉塊に成り果てる筈だ。


もともと、監獄の中で栄養もクソもない飯を与えられ、まともに運動なんてしてこなかった奴らだ。そんな連中と訓練された正規兵が一緒に走ったら、結果なんて子供でも分かる。


俺達もあまり人の事を言えない。結構息が切れている。

皆死にたくないので転ばないよう慎重に走ってるのに、だ。


他のバカ共は興奮して全力疾走してやがる。


「走れ走れェ!野蛮人共を殺せ!!」


そして、興奮を助長させているのがあの監視役の男だ。


周りを見渡す。全員敵がいる方を血走った目で見つめている。

俺達の事を気に留めている奴なんて一人もいない。


...アイツ、さっきからウゼェな。



「――ファイアランス――」


俺の言葉と共に、歩兵が使うランスのような形をした火の塊が、100ほど出現した。矛先は、俺達の

魔術を放つ前に、ありったけの声で叫ぶ。


「敵の罠だあああぁ!気を付けろぉ!」


そう言う割には声に危機感のようなものを感じないが、気付く奴はいないだろう。

俺のその声に、同じ懲罰部隊の仲間が一瞬驚いたような顔をするが、直ぐに俺の意図に気付いて顔に笑み浮かべた。


「お前マジで最高!!」

「どうも!」


短い言葉のやり取りを終えると、浮かべられた炎の槍が、あの男の居る辺りに向かって引き絞られた弓から放たれた矢ような勢いで突き進む。


「な、何だとっ!?クソ、誰か盾にな―――」


瞬間、物凄い爆音が鳴り響く。つい先程まで聞こえていた音なんか比べ様がないくらい大きなその音は、耳というより心臓に響いてくる。


運悪く近くに居た連中の鼓膜は一瞬で破裂した事だろう。


なんかか面白くなってきたので、手を頭に置いて上を向き、思わず大げさでわざとらしい声を張り上げてみる。


「何という事だ!敵の卑劣な罠によって指揮官殿が戦死してしまった!」


100本ものファイアランスを一気に放てる魔術師などいない。王国軍も今の攻撃は敵が事前に準備しておいた罠とでも勘違いしてくれるだろう。



「さて、五月蠅いクソ野郎も爆散したことだし、さっさと砦に入りますか!」

「了解!」





あの男を吹き飛ばしてから10分くらい経っただろうか。

俺達は砦まであと少し、という所で走っていた。

相変わらず他の懲罰部隊共の脱落が激しいが、それでもまだ1000人くらいは一緒に走っていた。


正規兵たちが先行しており、彼らはもう砦に到着している。だがその中に入る素振りはない。砦の中から兵士が出て来ている。その代わりの捨て駒として俺達はあの砦に入るのだろう。レオの予想通りだ。


合衆王国軍も砦と俺達で挟撃されないために退避しており、俺達の前には王国兵しかいない。相変わらず走るのはしんどいが、敵に殺されるリスクが無くなった。


息を切らしながら走り、王国兵とすれ違いざまに砦に入る。


「では諸君!健闘を祈る!」


そう言って王国兵は砦の門を閉めて出て行った。他の懲罰部隊隊員は外敵から身を守ってくれる強固な門が閉じられて安心しているだろうが、この作戦の真意を知っている俺からすれば、牢屋の鉄格子が閉められた様にしか見えない。




――――とは言え、俺達は王国の目がない場所に居るのだ。ここで何をしようが王国にバレる事はない。


そして、それは他の元囚人達にも言える事だ。



「よし!お前ら、まずは食料を探すぞ!」




そう仕切り出したガタイのいい大男は、顔に醜い笑顔を張り付けていた。







「あれがグラスゴー砦か?陥落寸前ではないじゃないか。聞いてた話と違うぞ?」


ライト達が砦に入ってから数分後。

合衆王国第2王女サラステイアは近くの丘から砦を眺めていた。

騎士として戦争に従事する前にその砦を一目見てみようと登ったのだ。


そこで砦周辺の地形、味方の陣形などを眺めていると、先に陣地に行かせていた側近のアリスが息を切らしながら駆け寄って来た。


「サラスティア様!大変です!」

「ハァ...ここではサラと呼べと言っただろう。何があった?」

「王国から砦に増援が送られました!こちらも陥落まであと少しと無茶をしたせいで兵士が疲弊しており、後方部隊に参戦するよう招集がかかりました!」

「...っ!それはつまり!」




「そうです、サラスティア様も戦闘に加わるのです!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ヒロインの名前変えました。

理由は、サラって言う名前が王族っぽくないからです。

変更に次ぐ変更で、本当に申し訳ございません。

ただし、彼女の姉やアベル等の親しい人間は彼女をサラと呼びます。

彼女が今回、騎士として戦場を訪れるにあたって名乗る偽名もサラです。





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