第28話 父

今見たら前話の誤字が酷かった...やっぱ疲れてる時に小説なんて書くものじゃないな


書くけど。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「ライト」

「...」

「ライト」

「...」

「無視すんなよ。殺すぞ。」

「...何だ?」

「あの艦隊の数、多すぎだろ。異常だってあれは。...まぁ、それは置いといて。あの旗って剣聖のだよな。あれか?お父さんが迎えに来ましたよー、って奴?」


監獄島にある要塞、その屋上から、俺達は海を見下ろしていた。

そこには、数えるのに嫌気が差すほどの巨大な艦隊が佇んでいた。恐らく、数百隻はくだらないだろう。


そして、そんな海と接する海岸。

そこに見えるのは、丸の中に剣が一本書いてあるだけの、大きな旗。

あれは、剣聖がその部隊に居る時だけ掲げることを許される旗だ。


つまり、あそこに父が――いや、剣聖が居るという事だ。


「黙れ。戦闘になったら俺が真っ先に殺すからな。」

「...おぉ、怖い怖い。親子仲が悪いこった。」


思い出すのはあの日、俺が冤罪で裁判に掛けらている時。

婚約者のラウラやかつては弟のような存在だったウィリアム達から“そんな人とは思わなかった”とか“失望した”とか言われてた中。

あの人は俺に声に掛けるどころか、俺の前に現れすらしなかった。きっと、剣聖としての仕事でもしていたのだろう。


剣聖としては優秀な人なのだろう。だが、父としては最低だった。俺はそんな奴に憧れていたのだ。



稽古はつけてくれた。嫌そうな顔をしながらも。

会話もした。月に一度くらい。

頑張っている俺に声を掛けてくれた。「期待していない」と。


もう、アイツを父として見ない。



―――ただの“敵”だ。






「要塞内に居る敵に告げる!!門を開き、今すぐ投降しろ!繰り返す!門を開いて今すぐ投降しろ!」



さぁ、ここからが正念場だ。気合い入れてくぞ。






「――何という事だ...」


剣聖と呼ばれている男、エイトール・スペンサーは頭を抱えていた。何とも言い難い表情をしている。



彼がこのような状態になったのには、勿論理由がある。



まず、監獄島がとっくに陥落していた事。そもそも、この艦隊の第一目的は監獄島で行われているであろう戦いに参戦し、王国戦力への応援。そして敵戦力を削る事だ。


監獄島で戦いが行われているという前提の上で成り立つものなのだ。監獄島には相応の通常戦力を配置してあるし、かつての将軍、“魔術師殺し”エイベルもいる。そう一瞬で陥落する筈がないのだ。


そう高を括って来てみれば、もうとっくに監獄島は陥落。その時点でかなり頭が痛くなったが、“要塞内に敵戦力なし”という報告で止めを刺された。



完全に空振りだ。まさか、敵があのエイベルを上回る戦力を用意してくるとは思わなかった。

こうなってしまったからには、もう剣聖としてやれる事などない。

を済ませてしまおう。





...が、剣聖としてではなく、父としてやるべき事が残っている。

覚悟は決まっていない。だが、やらなければ。


そう思い、顔を上げた。



「―――ライトを、呼んでくれ。」



剣聖エイトールは戦場では決して見せない様な、不安そうな顔で側近の男にそう告げるのだった。









「ライト」

「...」

「...ライト。」

「......」

「...話すのも、嫌か。」


艦隊の旗艦、その一室で二人が話していた。親子での会話...いや、面会ではあるのだが、親子水入らず、という雰囲気ではまるでない。


片方は虚ろな、しかしその底には冷たい敵意を秘めた目で。片方は悲しそうな、そしてやるせなさが滲み出る目で互いの事を見つめていた。


(ライトはこんな眼をする子ではなかった。自分が、そうさせてしまったのか...)


――今のこの子の眼は、壊れてしまった人間のそれだ。


悲壮な思いでそんな事を考えていると、不意に話しかけれた。



「―――俺達をどうするつもりだ。」


俺達、というのはライト含む監獄島の囚人の事を指しているのだろうか。


...機密扱いされているが、いずれ彼らは知る事になるのだ。今教えてもいいだろう。

――仮に教えていけなかったとしても、一人の父として、息子のこれからの事くらい、教えてあげなければ。


まぁ、ライトが自分の事を父親だと思っているとは考えられんがな。

そう自嘲的に心の中で呟きながら、口を開く。


「王国では最近、反戦ムードが漂っている。」

「...」


ライトは無言。反応すらしない。

虚しくなりながらも言葉を続ける。


「そのせいで兵士の士気も低いし、志願兵が居なくなってしまったので戦力も足りない。そんな中、目を付けられたのが...犯罪者や奴隷だ。」


そして、これが王宮からの勅令だ。この艦隊には、既に多数の奴隷、犯罪者が詰め込まれている。このまま、異大陸まで――主に囮として――輸送されるのだ。

あまり褒められたものではない。軍隊の規律を破る奴も出てくるだろうし、練度も下がる。こんなモノ、侵略されて追い詰められた国がする事だ。


「ライトは、犯罪者として懲罰部隊の一員となり征伐戦争に加わることになる。」


――ライトの冷めきった目が、更に冷たく、鋭くなる。

そして、微かに怒気を孕ませた口調でこう言った。


「つまり、アンタは息子を監獄送りにした挙句、強制的に戦場に送るつもりか?」

「...そうなる...最低な事をしている自覚は、ある。」


この言葉は本心だ。本当に、最低な父だと思う。


「...じゃあ、せめて監獄島の囚人と同じ部隊に配置しろ。」


...剣聖として、指揮官としてこの言葉に頷く必要はない。というか、頷いてはいけないのだろう。ライトは、十中八九部隊の仲間と共に何しらの行動を起すつもりなのだろう。それを見過ごすわけにはいかない。


...だが、自分に断る事なんてできない。


「――分かった。そうなるよう手筈を整えておく。」

「当たり前だ。じゃ、もう一生会う事はないだろうから。次会った時は、互いに殺し合う時だ。俺は迷わず殺す。」


ライトはそう、父に向けるた言葉――自分の事を父だとは思ってないだろうが――とは思えない様な冷めた言葉を言葉を部屋に残して、乱暴に扉を開けると外に出ていくのだった。





「という事で。素晴らしい親子愛によって俺達は離れ離れにならずに済んだのさ!」

「すげぇなお前。奴隷商人もビックリなガメつさだよ。尊敬するわ。」


あの野郎のハエの糞程もない情けによる物なのか、俺達監獄島の囚人達には大きめの部屋が宛がわれていた。部屋、と言っても本来なら荷物を入れるカビ臭い船底のスペースだが。


とは言え、奴隷船のように詰め込まれるよりは幾分マシだろう。



「そう言えば、俺達だけで部隊が結成されるって言ったじゃん?」

「あぁ、そうだな。確か“懲罰部隊”だったっか?」

「そうそう。それで何だけど、隊長誰にする?」

「......わかり切った事を。まぁ一応聞いてみるか。」


ガルはそう言葉を切ると、全員に聞こえるような声でこう言った。


「この中で、隊長やりたいって奴いるかぁ!?」


船底に波がぶつった音がよく聞こえる。さっきより良く聞こえている気がする。


「だってよ。って事で、おめでとう。君は懲罰部隊隊長だ。励みたまえ。」

「よし、じゃあ早速。軍隊は上からの命令が絶対なのでね。」


何にも興味がないコイツらに言い聞かさなければ。


「てめぇらぁ!会議だ会議!!今度こそちゃんと参加しろぉ!!」



これからの、征伐戦争での行動を話し合わなければ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

眼下には水色がかった雲と、空に浮かぶ島のような突き出た山の頂上。

目を上に向ければ、深海のような深い青。

安物ヘッドフォンから聴こえてくる、透明感のある爽快な音楽。

地球と宇宙の狭間で、音楽じゃ誤魔化せないくらいうるさいエンジン音と共に。

手元には中古のパソコン。清々しい気持ちで打ち込むキーボード。



夢が一つ叶いました(笑)



そういえば、懲罰部隊って実在したらしいですよ。

追い詰められたナチス・ドイツで。

第999懲罰部隊って名前らしいです。かっこいいですよね。



それをイギリスをモチーフにした国が使うって...

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