第25話 圧倒的な力

明日定期テストだぁ......(白目)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


目が覚めてから、直ぐに気づいたことがある。

それは、自分の魔力が多くなったことだ。それも、前とは比にならない程に。

魔力とは、使えば使うほどに増えていくというのは知っていたが、それだけでこんなに変わる事はないだろう。


おそらく、魔力切れを故意に起こし続けた事が関わっていると思う。魔力が枯渇した後、体がそれを補充するために大気中の魔力を吸収し始める。本来ならその吸収速度に魔力回路が耐えられずに死ぬ筈だが、体に吸収されるはずの魔力が腕輪に吸収されたことでそれを避けられたのだろう。


(あれだけ力を欲しても得られなかったのに、全てを諦めたら、それを得られた。)


皮肉だな、とライトは呟くのだった。



しばらく監獄内を歩くいていると、戦闘音に近づいているのが分かった。


途中で会った看守や兵士は居たが、今のライトに敵うはずもなく、声すら出せずにやられていた。


(戦闘音、という事は敵国が攻めて来たのか。)


ここは合衆王国と王国の中継地だ。

そんな場所が攻められているという事は、王国の戦況がそれほど逼迫しているのだろうか。


...合衆王国、か。アベルには亡命を提案されたが、もうアベルは死んだ。

今さら合衆王国に行ったところで、俺みたいな犯罪者を受け入れてくれる訳ない。

そう考えると、俺はこの後どうなるのだろうか...


そんな事を考えながら、ライトは戦闘音のする方へゆっくりと歩いていくのだった。



そんな事を考えている内に、扉の前に着いた。向こう側から、激しい戦闘音が聞こえる。あの時の裏口のような扉ではなく、大量の物資や兵士が出入り出来るよう、巨大で頑丈な造りのものだ。



何も考えずに、扉を開ける。まるで、あの時のように。

ただ、あの時とは違い、ライトの隣には誰もいなかった。それを分かっていて、ライトは警戒せずに扉を開けたのだろう。


――久しぶりの外だ。


ライトは一年ぶりの日の光に目を細めながら、思いっきり息を吸う。


(...空気ってこんなに美味かったんだな。)


そんな益体のないことを考え、目の前で繰り広げられている戦いに目を向ける。


何か話しているようだが、言葉は耳に入らなかった。


―――それは、あの日、アベルを死に追い詰めた、あの男が居たからだ。

そいつを見た瞬間、とっさに魔術を放った。ありったの、魔力を込めて。


「――“ウィンド”――」



ライトはに知る由もない話だが、エイベルが魔術を消せなかったのは、ライトが魔術に込めた魔力量が多すぎたからだ。


魔術師殺しとまで言われ、どんな魔術も消すことが出来たエイベルに対し、初級魔術に魔力を込めまくって放っただけ。それなのに、エイベルはなんの抵抗も出来ずに吹き飛ばされたのだ。


――それほどまでに、ライトの魔力量は成長していたのだ。




突然現れた、隻腕の少年。

その少年によって、場が一瞬で凍り付いた。


エイベルを吹き飛ばしたという事は、王国側の人間ではないのだろう。

けど、私たちの陣営でもない。


考えられるのは―――脱獄兵?

確かに、王国側が戦闘に多くの人員を割いている今を突くのが最もいいタイミングだろう。だが、エイベルはただの脱獄者如きにやられるような男ではなかった筈だ。


考えれば考えるほど、あの少年の事が分からなくなってくる。




―――いや、今は考えるのをやめよう。

敵は指揮官を失って未だに混乱している。突くなら今だ!!



「エイベルが消えた今、我々を阻む者はいない!総員突撃!」


兵士たちはその言葉を聞き、直ぐに頭を切り替えた。


「りょ、了解!行け行け!」

「魔術師は適当になんか撃て!撃てば当たるぞ!」

「敵は隙だらけだ!突っ込めぇ!」


敵も腐っても訓練された兵士だ。すぐに立ち直って防御の姿勢に入る。

だが、エイベルという優秀な指揮官であり、強力な魔術師でもある男を失った敵に先ほどまでの士気や勢いはなかった。


そして、王国の兵士はどんどんその数を減らして行き、遂には最後の一人が倒されたのだった。



―――先程少年がいた所に目を向けても、そこにはもう誰もいなかった。




あの男を吹き飛ばした後、俺はとある場所に来ていた。

ここは、あの日アベルが死んだ場所。


「なぁ、アベル」


俺は、誰もいない虚空に語りかける。


「俺は、この先どうすればいいんだろうなぁ。」


――なんとなく空を見上げた。晴天だ。久しぶりの晴れ、綺麗な空気、そして自由。

それでも、俺の心には、未だに厚い雲がかかっている。


「お前との約束は、もう果たせないかもしれない――」




そこは、正に地獄だった。

太陽は全く差さず、カビと何かが腐ったような匂い。頑丈な鉄格子で覆われ、中は固い石畳だけ。そこで、長い間過ごしていたのだろう。


囚人たちは、皆虚ろな目をしていた。



「―――解放してやれ」


私が思わずそう言うと、側近の男が驚いたように目を見開く。


「良いのですか?敵国の、それも大罪人ですよ?」

「あぁ、分かってる。それでもだ。」

「...分かりました。あなたそこまで言うならば。」

「そうしてくれ。あと、捕虜になっている我が国の兵士達も早く解放しよう」


......兄上の、情報も聞かなければ。


...............

............

.........

......

...



「...ご報告、します」

「あぁ...頼む。」


捕虜の解放とともに、私は一つ頼み事をしていた。


―――それは、兄上に関する情報を集めてもらう事だ。

エイベルのあの言葉、悲しそうな顔をしている側近、今の状況から見ても、兄上がもう生きていなことは簡単に察せる。


本当なら、報告なんて聞きたくない。今すぐ、耳を塞いで蹲ってしまいたい。

でも、聞かなきゃだ。私が尊敬する兄上の、最期を。


「合衆王国第一王子、アベル殿下の――――御逝去を、確認しました。

殿下は最期、敵に恥辱を受けることを拒み、誇り高く自決なさったそうです。」




―――あぁ...兄上。やっぱり、約束は守ってくれなかったのですね。




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このスペースに何か書かないと落ち着かない。(文字数稼ぎ)


カクヨムコンテストの規定文字数まで後5万文字ちょい...


うん、無理だな!

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