第23話 王女


いつも読んでくださっている方、本当にありがとうございます。

これからどんどん面白い展開になっていきますので、最後までお付き合いしていただけたら幸いです。


前の話、今までの倍くらい長かった...

学校休んでも(サボりではない)書いた甲斐があるってもんですよ!


今回はヒロイン視点になります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




(どうか無事でいてください、兄さん!!)


合衆王国第2王女、サラ・ブリセーニョは焦っていた。

それは、自分の兄である第一王子アベル・ブリセーニョが王国の捕虜となって、もうもう1年も経ってしまったからだ。


最初は、直ぐに奪還にむけて艦隊を差し向けるつもりだったが、王国が騙して占領した土地、バハマでの戦闘が激化したために、艦隊の出動が遅れてしまったのだ。


合衆王国の海将を納得させるのも大変だったのも理由の一つだ。

王子が捕虜となってから半年も経過している今、第一王子の生存は絶望的だろう、と言われた。


私も、そんな事は分かってる。

でも、頭で理解するのと、納得出来るかどうかは別だ。もしかしたら、まだ生きているかもしれない――


そう思って、必死に説得した。

本当なら王国本土まで兄さんを救出しに行きたかったが、それほどの航続距離を持つ船は今の合衆王国には少なく、また、そんな貴重な戦力を使い捨てのような作戦に参加させる訳には行かなかったらしい。


そのため、妥協案として海将から提案されたのが、中継基地としての役割と監獄としての役割を持つバミューダ諸島。通称、監獄島。


作戦の内容はこうだ。

少数精鋭の艦隊で監獄島に攻め込み、上陸。そこに第一王子が居たらそのまま救出。いなかったとしても、捕虜となっている合衆王国の指揮官などを救出。また、敵からも捕虜を取り、第一王子に関する情報を得る。そして、最後には監獄島の施設を破壊してから撤退、というものだ。


奪還作戦、と名がついているものの、誰もが兄上の生存を諦めている。

その事が、何よりも歯痒く、悔しかった。



(兄さん――!!)







サラにとって、兄は誰よりも大切な人間だった。

小さい頃の記憶はもうない。それでも、兄からの愛情だけは覚えている。

いつも優しく、どんな我儘を言っても許してくれる。そんな兄だった。


そして、最後に会った時も、『絶対に帰ってくる』と約束してくれたのだ。


(絶対生きててよ!)





胸の中にある焦りを抑えつつ、目と耳を研ぎ澄ませて船に揺られる事数分。

見張りの海兵が声を張り上げた。


「見えました!!あれが監獄島です!!」

「――私も見えた!もっと速度を上げて!」

「了解!!」


この作戦で最も重要なのは速度だ。王国本土艦隊や征伐艦隊が来る前に片づけなければ、精鋭とは言えこんな少数の艦隊など一瞬で壊滅させられてしまう。


「敵要塞から一個魔術中隊の展開を確認!!」

「確認した!!魔術障壁展開せよ!」

「了解、障壁展開せよ!繰り返す!障壁展開せよ!」

「障壁展開了解!展開開始します!!」


艦長や魔術長が声を張り上げる。そして、それを聞いた旗士が友軍艦に向けて旗信号を掲げる。


そして、それを確認した各艦の魔術兵が詠唱を開始。しばらくすると、艦隊の前方に半透明の薄い膜が出現した。


「敵魔術中隊の魔術攻撃を確認!!ヘルファイアです!」

「構うな!突っ込めぇ!」


ヘルファイア。それは、個人では絶対に扱うことの出来ない一斉詠唱魔術の一つだ。


そして、一斉詠唱魔術とは本来1人では出せないような威力の魔術でも大勢で一斉に詠唱することで放つことを可能にする魔術。


陸での戦闘とは全然違う。

正に圧巻だ。

海戦に関しては全くの素人である私は、歯をただ見ている事しか出来なかった。


「敵ヘルファイア、障壁に着弾します!」

「総員、衝撃に備えろ!」


空気が震えた。

敵の魔術が障壁に激突したのだ。

障壁に大きな衝撃が走るが、障壁自体は全くの無傷だった。


が、広範囲の火炎魔術を防ぎきるには、頑丈さを上げるために一点集中化された障壁は小さすぎた。


大きく広がった火が、先頭を走っていた小型帆船を襲う。


風が布の繊維の間を通り過ぎないよう、帆に油が塗られていたのが良くなかったのだろう。帆に火がかった瞬間、物凄い速さで炎上し始めた。


燃えたのは帆だけで、船自体に火は移っていない。だが、帆のない船などただの浮遊物だ。すぐに船速が遅くなっていくのが分かる。


あの船に速度を合わせたら、艦隊の速度が遅くなってしまう。



敵は、それを見越してあの魔術を放ってきたのだ。

あの船を捨てるか、それともあの船と一緒に速度を落とすか。普通なら、少しは悩むはず。そうやって時間を稼ぐつもりなのだろう。



――だが、生憎こちらに余裕なんてものはないのだ。


艦長はすぐに決断した。


「小型帆船はここに置いていく!帰りに回収するからボートに乗り移れと伝えろ!」

「了解!」

「こちらも反撃するぞ!!」

「了解!各艦の魔術兵に伝えろ!こっちもヘルファイアだ!!」

「了解!全魔術兵、一斉詠唱開始せよ!魔術種、ヘルファイア!」







そうしてしばらく、魔術の応酬が繰り広げられた。

そして、その間にも艦隊は進み続けている。

もう、要塞はすぐ近くだ。


「王女様!!お願いします!」

「分かってる!」


これまでは距離があり過ぎ使えなかったけど、この距離なら大丈夫!

もう要塞は目と鼻の先。この距離じゃ敵も大規模な魔術を使えないのか、さっきから個人個人で魔術を放ってきている。


「私は最強の魔術師アベルの、妹よ――!」


個人の魔術なら、私はここの誰にも負けない!!


大きく息を吸い、目を閉じて全神経を集中する。


「炎の精霊よ、我らに暖かさと文明を齎した偉大なる炎の精霊よ、

 我が魔力を依り代とし、今ここに顕現したまへ。


 その高貴な炎は石で石すらも溶かす。

 敵に痛みを与えることすらなく、だだ一瞬で灰と化せ――」




「――“青き不死鳥ノーブル・フェニックス”!!――」




高貴さを纏う美しく青い不死鳥が、敵の要塞を襲う。



一瞬、要塞から断末魔の声が聞こえた。

が、その後の反応はない。


つまり――


「――敵要塞からの反撃なし!敵一個魔術中隊壊滅を確認!」

「確認した!!上陸部隊は上陸せよ!!」

「了解!!上陸開始!上陸開始!!」




―――さぁ。ここからが本番だ!




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

って事で、ヒロイン初登場です。

ハーレムものみたいにどんどん登場させたりはしないので御安心を!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る