第22話 眠りと目覚め

あぁ、なんて愚かだったんだろう。

自分の欲に負け、何も考えずに、扉を開けてしまった。


俺のせいで、アベルが死ぬ事になった。


すまない、すまない、すまない、すまない。


時を遡りたい。やり直したい。過去に戻りたい。

強く、強くそう思った。



...俺は、これからどうすればいい?



アベルが死んでしまった今、もう俺には脱獄の手段は残っていない。

このまま、またあそこにブチ込まれるくらいならもういっそ―――



...............

............

.........

......

...


あぁ...そうだな。俺も、アベルの後を追おう。

アイツみたいに、誇り高く死のう―――



そう、自暴自棄な思考をする。


ライトはアベルとの約束さえ忘れて、今すぐにでも自らの命を絶とうと槍の矛先を自らの首に向ける。



―――が、それがライトの首を貫くことはなかった。




「クソが!!これ以上ここで死なれたら俺様の出世に関わるんだよ!!死ぬなら牢の中で死ね!!“ウィンド”!」



猛烈な風が、ライトを襲った。

ライトはまるで木っ端のように吹き飛ばされる。


――軍の重要施設である監獄島。

彼はそこで隊長という役目を背負っているのだ。心身共に弱っている囚人を吹き飛ばすくらい造作もない。



吹き飛ばされた先にあった石の壁に激突し、ライトは意識を失った。






俺は、硬く冷たい床――石の床の上で目を覚ました。

もうすっかり慣れてしまった感覚だ。


(もう、ここで起きる事はないだろうと思っていたのにな)


起きたばかりの脳を働かせ、現状を理解する。


(この後、どうすっかなぁ...)


「はぁ...」


思わず、深いため息を漏らす。


全て失敗した。

脱獄も、自決も。


この後、俺はここで精神を削られて行って、絶望の底で死んでいくのか――

そう考えると、俺は暗澹たる気持ちになる。



「――脱獄はどうだった?」


突然、話しかけられる。

ハッとして前を見るが、そこには誰もいなかった。


となるとこの声の出どころは――隣の牢?

どういうことだ?今更話しかけて来るなんて――


「おいおい、無視すんなよ。つれねぇなあ。」

「...なんの用だ」


無視する意味もないので、無気力なまま聞き返す。


「はっ。ひでぇ声だな。脱獄は失敗か」

「俺がここにいるという事は、そういう事だ。」

「――もう一人の奴はどうした?」

「...死んだよ。俺のせいでな」

「ふーん...」


そいつは興味なさげに言うと、何か考えているのか、黙り込む。

そして、意を決した――と言うには、そいつの声はまだ興味なさげだったが――

のか、再び話しかけて来る。


「なぁ。お前、なんでここの囚人共が静かなのか知っているか?」


確かに、言われてみればおかしい。

ここに来てから聞こえるのは、精々が呻き声くらいだ。


「なんでだ?」

「それはな――こいつらは全員、魔力切れを常に起こしているからだ。」

「――は?」


魔力切れ。

それは、魔術について学んだ事のある人間なら誰もが聞いたことのある言葉だ。


通常、魔術を使い過ぎたら、頭痛や吐き気がしてくる。

それは、体から魔力が減りすぎているからだ。

頭痛や吐き気は、つまるところ魔力が底つかないために脳が送る警告である。


そして、その警告を無視して魔術を使うと起こるのが“魔力切れ”だ。

魔力切れを起こすと、脳の許容範囲を超えた痛みで失神、あるいはこの時点でも死に至る可能性がある。


だが、魔力切れで最も危険なのはその後だ。

魔力切れになったら、底をついた魔力を回復させようと、体が勝手に周囲の魔力を吸収し始めるのだ。その過剰な吸収の負荷に体が耐え切れず、体の魔力回路が壊れる。

そして、体内に吸収されたものの、行き所をなくした魔力が体内で暴れまわり、文字通り内臓がグチャグチャになるのだ。



だから、魔力切れと死はイコールだ。



そんな魔力切れを常に起こしている、だと?


「...どういう事だ?」

「俺達の腕についてる腕輪には、魔力を吸収する能力があるだろ?」

「あぁ、そうだな。」

「その腕輪のおかげで、魔力の過剰吸収でも死なないのさ。」


そういう事か――

つまり、魔術回路が壊れた後の行き場のない魔力が、腕輪に吸収されるって事か。




「――で?」



尚更、意味が分からない。



「そんな事をして何になる?」


俺のその問いに、しかしその囚人は可笑しそうにこう言った。




「――魔力切れしている間は狂えるんだよ。楽になれるぞ?」



――ああ...そういう事か。



このまま絶望で擦り切れるくらいなら。

狂ってしまった方が、良いのかもしれない―――







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.........

...





目を覚ました。

久しぶりに起きた気がする。


あぁ、何も、変わってない。


自分に、時を戻す力があればなぁ。


...いや。時を戻したところで、こんな自分に何が出来るというのだろうか。



――眠るか。



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...



目を覚ました。


冤罪でここ来てから、どれくらい経ったのだろうか。

せめて外が見れればなぁ...



『いつまで、そうしているつもりだ?』


うるさいなぁ。いいじゃないか。

特にやる事がある訳じゃないんだし。




―――あ、あんな所に蝶が居る。

山が青々しい緑で覆われてるし、もう春なのかな?


『分かってるだろう。このままでは駄目だと。』


雪が降って来タ。やっぱリこの季節は寒いよなァ。



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...............

.........

...


目を覚ました。


今日も学園に行くために、ベッドから出ようとする。


それにしても、昨日のヒロとの戦いはよかったなぁ。


みんなも凄く褒めてくれたし、父さんも俺の事を認めてくれた!!


“流石は剣聖の息子だ”とか“現剣聖を超えられるぞ!”って言葉は正しかったんだなぁ


今日モ父さんが雇ってくれた剣術の先生、エルさんト訓練すルぞ!


―――あァ。でも、モう少シ眠っていたいナァ


幸セダナァ。






目を覚ました

でも、もう少しだけ寝よう。



目を覚ました

あと少しだけ寝よう。



目を覚ました

久しぶりの睡眠だったから、まだ眠いなぁ。

もう少しだけ寝よう。



目を覚ました

寝よう。



目を覚ました

眠いナぁ。



目を覚ました



目を覚ました




目を覚ました

目を覚ました、目を覚ました。

目を覚ました。目を覚ました、目を覚ました、

目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました目を覚ました




何度も、何度も、何度も。

そして、再び眠りにつく―――――――――――――



































『目を覚ませ!!!!!!!』
















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.....................

...............

.........

...









あぁ。分かってるさ。いい加減、起きなきゃいけないってことくらい。















ライトは目を開けた。


―――以前のライトを知っている者が仮にここに居たとしても、彼がライトであると気付くことは出来ないだろう。


それほどまでに、以前の彼とは違っていた。



以前のライトの、目の底にあった熱い何かを感じることは出来ない。


ライトの目は、完全に壊れている人間の、茫洋とした目だった。



それでも、ライトは―――――












――――目を、覚ました。






―――牢の外から聞こえる、戦闘音によって。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


食べ物とか飲み物は魔力で補填されるって感じです。(無理やり設定)


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