第20話 脱獄

 昨日、ワクチン接種あるの忘れてました...


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝、―――と言っても、時計も窓もないのでなんとなくだが―――俺達は、緊張とともに目を覚ました。


 今日が、運命の日だ。



 ○


「行こうか」

「...そうだな」

「じゃあ、証を使うぞ。」


 俺が頷いたのを確認すると、アベルは牢の鉄格子についてる鍵穴に手をかざすと、目を閉じて口を開いた。



「――この世にに開けられない物はない、万能の鍵よ

   神の封印をも開く、世界で唯一つの万能の鍵よ

   今、我が手の元に顕現し、我が行く道を塞ぐ扉の鍵を開き給え――」


 空中に、ドアの鍵穴のような物が浮かび上がる。



「――スキル、“神鍵しんけん”――」



 アベルの手に、神々しい光を纏う、半透明の小さな鍵が現れた。


 アベルが目を開き、空中の鍵穴に、神々しいその鍵を差し込み――


「開け...ッ!」


 掛け声とともに、回した――――







「...今ので開いたのか?」

「勿論。ほら」


 そう言うと、アベルが鉄格子を軽く押す。


「マジかよ...」


 俺達を閉じ込めていた鉄格子が、なんの抵抗もなく開いたのだ。

 そして、それを横目で確認したアベルが、誇らしげな顔で口を開く。


「さぁ、行こうじゃないか!!」


 ○


 牢から抜け出した俺たちは、網のように広がっている地下道を全力で駆けていた。


「このまま突っ切るぞ!」

「ああ!」


 看守たちに気づかれる前に、出来るだけ進んでおきたい。そう考え、更にスピードを上げて走っていると――


「アベル!鍵付きの扉だ!!」

「任せろ!――“神鍵”――!!」


 地下牢と地上の建物内を隔てるその扉は、牢獄において最も重要な扉だ。

 そのため、何重にも鍵がかかっているのだが、アベルの“証”の前ではそのすべてが無意味と化す。


「行け!」

「了解!」


 重厚な扉を、走っていた勢いのまま蹴って開く。



「....!?」

「...ッ!脱獄者だ!!」


(見つかったか...!)


 重要な扉なだけあって、その扉の向こう側には、2人の看守がいた。

 扉の両側に座っている。手にもっていたトランプを投げ捨て、槍に持ち換えようとしている。


「ライト!」

「任せろ!」


 だが、俺たちがそんな隙を見逃すはずもない。

 慌てている看守を全力でぶん殴る。


「ぐはっ」


 不利と見たのか、もう一人が槍を手放して、首に掲げてある笛に手を伸ばしている。


「させるかぁ!!」


 一人目の看守が持っていた槍を掴み、看守の首元に向かって突く。

 笛を口につけ、今にもそれを吹きそうな看守だったが、すんでのところで首に槍が突き刺ささった。


 看守は自分の責務を果たそうとして、最後の力を振り絞って笛を吹くが、自分の首を貫通している槍のせいで気道が潰れ、掠れた音しか出てこなかった。


 ○


 看守達が倒されたのを確認すると、今殺したばかりの看守の手にある槍をアベルに投げ渡す。


「ほらよ」

「助かるよ」


 だが、槍を受け取ったアベルの顔は、何故か苦虫を嚙み潰したような物だった。


「...どうした?」

「あぁ...想定はしていたんだが...どうやら魔術が使えないらしい。」

「まぁ、そうなるよなぁ...」


 俺もアベルが来るまで、一人で何度も魔術を使って脱獄しようと試みたのだ。

 しかし、結果はそのすべてが不発。

 体から魔力が無くなっていく感覚はあるのに、魔術は発動しなかった。


 恐らく、俺達の右腕についている鉄の腕輪が原因だろう。

 このような働きをする魔術は、俺の知る限りではこの世界にはない。この腕輪は、証によって生み出されたものだ。


 ...待てよ?魔力は腕輪に吸収されるのに、アベルはなんで証が使えたんだ?

 いや、今はそんな事どうでもいいか。


「そうなると、お前の魔術力は当てに出来ないな。」

「あぁ、申し訳ない...」

「気にすんなって。そもそも、お前の証が無ければここまで来ることすらできなかったんだ。」



 とは言え、それは俺だって同じだ。片腕がないんじゃ重心もブレるし、そもそも今手に持っている槍は両手で扱うものだ。

 先程は奇襲のおかげで何とかなったが、普通に戦ったら一兵卒にすら負けかねない。


「そんな事より、先を急ごう。」


 今の俺達に出来るのは、ただ突っ走るのみ。



 ○




(...もう感づかれたか)


 監獄内が先程より慌ただしくなっていた。兵士の足音や声も頻繁に交わされている。


 焦りながらも、しかし足音を消して慎重に走っていたが、この速さではじき追いつかれる。――そう思って全力で走り出して、もう10分は経った。



(どんだけデカいんだよここ!?)


 未だに、監獄の外に出る事が出来ていない。

 それに、兵士の物と思われる足音がどんどん近づいている気がする。


「おいアベル!このままじゃ追いつかれるぞ!」

「分かってる!もう少しで出れる筈だ!」




 ――その時、俺達の物ではない声が聞こえた。


「早く――!脱獄――許すな――!!」


(...まずい!)

 後ろを振り返るが、暗いせいで何も見えない。

 だが今の声は、間違いなくここの兵士の声だ。そして、こちらに近づいてきている何よりもの証拠でもある。


 もっと早く走れ、とアベルに伝えようと前を向いた。

 だが、――声を出そうとした瞬間、僅かな違和感に気付く。


 俺達が走るその先、微かに光が差している所があった。


「―――アベル!!」

「あぁ、分かってる!」



「――出口だ!」





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日こそもう一本出す...!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る