第10話 方針

前回の話、別にいらなくね?って思った。

長ったらしい説明しやがってよ。


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現実はいつも非情だ。

死ぬ気で戦って、認めて貰えて。自分にもあの強さが手に入ると思って喜んでいられたのも束の間。“無詠唱魔術にを使うには、魔術に対する深い理解が必要”、つまり、魔術などやろうとしてみた事すらない俺には、無詠唱を使うのは事実上不可能ということだ。



「そんなぁ...」


期待してた分、落差も激しい。

だが、そんな落ち込んだ俺にエルが声を掛ける。


「...何もそんなに落ち込む事はないだろう?」


「だって、無詠唱魔術が使えないんだろ?」


「...君、話聞いてた?詠唱ありの魔術の感覚を覚えて、その後に無詠唱を使えるようにするって言ったじゃないか。だから、今すぐには無理でもいつかは使えるようになるよ?」


「...ガチ?」




「うん。だから、今の君に必要なのは、既存の魔術の練習だ。」


「魔術、かあ...」


あまりいい気はしない。

いや、無詠唱魔術を使いたくて教えを頼み込んだんだから今更なんだけどさ。

今までの剣を捨てて、魔術に浮気してしまったような気持ちだ。


しかし、そんな俺の考えを予測していたのか、エルが言葉を続ける。



「...とは言え、君のいままで努力の証である剣術を捨てるのは勿体ない。だから、君には僕と同じように魔術と剣術、両方を使う戦い方を教えよう。」


「両方使う?」


「そう、両方!君は、僕の戦い方に惹かれたんだろう?だったら、どっちも完璧に使えるようにならないと!」



...............

.........

......

...








朝、俺はいつも通り太陽が昇り始めた頃に目を覚ました。

窓を開けると、刺すような冷たさを孕んだ朝の空気を感じた。


顔を洗い、動きやすい服に着替えながら思案する。



あの日、俺とエルの特訓が始まった日から、今日でちょうど3週間経った。学園にはたまにしか行かず、毎日スラム街の小さな広場で朝から日が暮れるまで必死に訓練をしている。

魔術、そして剣術を組み合わせた、全く新らしい戦い方。それは革新的で、とても実用的だった。幸いなことに、俺には魔術の才がある程度あったらしい。俺は、今までに無いほどの充実感と成長を実感ていた。



...............

.........

......

...


そして、あの広場に行く準備を終え、屋敷を出る為に門を潜ろうとすると。何故かそこには馬車が止まっていた。


「こんな時間に来客...?」


疑問に思って馬車に近づくと、御者がこちらに気づいたらしく、馬車の小窓を開けて一言、二言言うと馬車の扉が開いた。


そして、そこにいたのはーーーーー




ーーーーーラウラ・S・クラーク。俺の、婚約者だった。



「お久しぶりですね、ライトさん?」




突然だが、貴族の婚姻は政略結婚がほとんどだ。宮廷のドロドロした争いとか、思惑とか、ともかく大人の事情というやつが絡んでくる。

ラウラは、公爵家の娘だ。つまり、我が家より一つ上の階級であり、しかも王家の血筋を引いている。そんなお偉いさんの家がなんで剣だけが取り柄の我が家と婚約を結んだのかと言うと。


まあ、おそらく手綱を握っておきたかったのだろう。父さんはある意味成り上がりの貴族。その上本人自身が剣聖という大きな戦力を持っているとなれば、放置するのは危険ーーーたぶんそんな感じだ。


そして、俺に気に入って貰って制御できるよう、家から何か言い含められているのだろう。よく俺の事を気にかけているような態度を取る。



ともかく、そんな彼女がこんな朝っぱらから押しかけてくるということは、絶対ろくな要件じゃない。



「最近、学園にあまり来れていないようですが...」


ほらな。





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まだ余裕のある本日1本目。

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