第11話『協力体制』
「――失敗だ」
「お父様? 一体何を。早く勇者様をあの女から救わなくては――」
「アンジェリカ、もう良い。もう良いのだ」
「しかし――」
「その勇者は我々を疑った。仮にその女をここで滅し、勇者の説得に成功したとしても必ず疑念が残る。本当に帝国は正義なのか……とな。そんな疑念を抱えた勇者などいつ何をしでかすか分からん」
もはや隠す気もないのだろう。
皇帝は俺の事を一瞬、冷たい目で見て。
「幸い、召喚されたばかりの勇者はそれほどの力を有していないと聞く。――構わん、その女もろとも勇者を殺せ」
「了解しました。では――目標追加ぁっ!! 我らが希望となる勇者は悪に堕ちた。ゆえにここで滅ぼすっ! 我らが同胞の命を散らせたあの悪魔を滅するのだぁぁぁっ!!」
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」
正式に帝国軍の敵として認定されたらしい俺。
もう後戻りはできないな。元からするつもりはないけど。
「ふふっ。お兄さん、見限られちゃいましたね?」
「あいつらの人形になるよりマシだろ。正直、あんなクズ共の言う事をハイハイ聞いてる方が嫌だわ」
「なるほど。確かにその通りかもしれませんね。では、お兄さん。存分に暴れてください。村の皆もお兄さんには好感を抱いているようで、協力してくれるみたいです。……あ、村の皆っていうのは――」
「大丈夫だ。そこら辺も大体分かってる」
クラリスの指揮下に居た骸骨達の内、数体が俺の周りについてくれる。
どうやら俺のフォローをしてくれるらしい。
ありがとう。クラリスの村の人たち。
「お兄さんは何でも知ってるんですね」
「なんでもは――」
その時だった。
「――ねぇ将ちゃん。今『なんでもは知らないよ。知ってる事だけ』って言おうとしただろ? ダメだよ。そこは『お前の事ならなんでも知ってる』って感じで言わないと。そんなんじゃ好感度上がらないよ?」
「………………」
「お兄さん?」
「いや、なんでもない」
余計な茶々を入れる裕也に内心ため息をつきつつ、しかし自分も実に下らない事を言おうとしていたなとちょっと反省。
今は――
「今はこいつらをどうにかしないとなぁっ!!」
俺は魔術で作っていた剣で迫る騎士の一人を斬りつける。
しかし――
カァンッ――
普通に盾で防がれた。
そして――
「死ねぇっ!!」
「勇者だっていうのに迷惑かけやがって。大人しく殺されやがれっ!!」
「はぁぁぁっ!!」
繰り出される槍やら剣やら炎の魔術やら。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
当然、剣を振り切ったばかりの俺に避ける術はなく――
ガギャギャギャ――
「なっ。お、お前ら」
そんな俺の盾となるべく、クラリスが使役している骸骨達が身を投げ出して身代わりになってくれた。
「す、すまんっ!!」
骸骨達はしばらくすれば再生する。
しかし、その骸骨達が元は村の人たちだと思うと、やはり守ってもらった事に対して申し訳なさを覚えてしまう。
「けほ、こほっ、ぐぅっ……だ、大丈夫ですか? お兄さん」
「俺は大丈夫……ってクラリス!?」
俺の身を案じてくれるクラリス。
しかし、その身に纏っていた黒いドレスは所々が焦げており、クラリスの身体は数本の矢に射貫かれ、火傷を負ってと散々な有様だった。
「いや俺の事なんかどうでもいいだろ!? お前こそ大丈夫なのかよ?」
「私は大丈夫です。村の皆のおかげ……ですかね。ちょっとした傷なら少ししたら治るんです。ほら」
そう言ってクラリスが指さすのは自身の火傷。
それは端から徐々に綺麗な肌へと変わり、このままいけば数分で完治しそうだった。
「それよりお兄さん、どうしましょう。私たち、このままでは――」
「ああ、このままじゃ確実に負ける。クラリスとしては今すぐ奴らに復讐したい所だろうが――」
せめてクラリスが前回の周回の時くらい強ければ。
そうであれば簡単にこの状況はひっくり返っていただろうに、今のクラリスは何かが足りないのか不明だが、とにかく前回の周回で俺が見たクラリスには遠く及ばない。
今のクラリスと俺の実力では、眼前に居る皇帝と皇女に一泡吹かせることなんて出来ない。このまま抵抗しても殺されるか、殺されるよりも面倒な目に遭うだけ。
なので、俺としてはクラリスには俺と一緒に逃げて欲しい。
だが、彼女の抱いた憎しみは底なしの闇だ。
皇帝と皇女相手に引くなど、嫌かもしれない。
そう思ったのだが――
「大丈夫ですよお兄さん。私、こんな所で死ぬつもりはありません」
予想外に明るい声でそう返してくれた。
「確かに、ここであのクズどもを見逃すのは正直イヤです。でも、ここで抗っても殺されるか、またいたぶられるだけ。またあのクズどもに弄ばれるくらいなら死んだ方がマシです。だから――」
「そうか。そうだな。なら決まりだ。逃げて、逃げて、そうして強くなっていつか――」
「必ず村の皆の仇は取ります。最低でも皇帝と皇女だけはゼッタイに殺してやるんです。それがみんなの願いだから――」
いつか必ず皇帝と皇女を殺す。
無論、理想はクラリスの村の件に関わったやつら全員への復讐だ。
だが、帝国軍の全員がその対象なのかも不明だし、仮に帝国軍全部に復讐するにしても今は力が足りな過ぎる。
そのための力を付けなければならない。
だからこの場は退く。
「そうと決まれば……おい裕也」
「ん? なんだい将ちゃん?」
「お前、俺のサポート役なんだろ? なら頼む。ここから俺のクラリスを逃がしてくれ。無理ならなんか逃げる為の作戦とか立てろ」
ダークサイド少女やら悪堕ち少女の登場でよく暴走する裕也だが、こいつは頭がいい。
俺がない頭を捻って作戦をこねくりだすより、最初からこいつに作戦を立てて貰った方がマシだろう。
「もう、将ちゃんったら無茶ぶりするなぁ。けど……分かったよっ! こんな所で将ちゃんとクラリスちゃんを死なせる訳にはいかないからねっ! よーし。それなら――」
と、そこで裕也は言葉を途切れさせる。
そして。
「やばいよ将ちゃん!?」
なんか知らんがいきなり慌てだした。
「ど、どうした?」
「どうしたもこうしたもないよっ! 新たなダークサイド少女の気配を感知したんだよっ。それも……速くておおきいっ! これはクラリスちゃんを遥かに超えるダークサイド少女の気配。それがこの場所めがけて凄い勢いで迫って――」
と、そこでまた口を閉ざす裕也。
俺は騎士たちの攻撃をいなし、防御に集中しながら裕也の次の言葉を待った。
「あ、止まった。まだ遠いのに。こっちに向かってきている訳じゃなかった? たまたま? そんな事もあるのかもしれないけど……」
「おぉい裕也ぁ!? さっきから何をぶつぶつ言ってんだよ!? 作戦っ作戦はよぅっ!!」
「訳の分からない事をぶつぶつ言ってるのはお兄さんじゃないですか。一体、どうしてしまったんですか? 逃げるんじゃなかったんですか!?」
裕也はなぜかその動きを止めて役立たず。
俺もそんな裕也に頼ろうとしていたから役立たず。なんとか騎士の攻撃をいなせる程度。ただ、後ろの魔術師の魔術やら弓隊の矢やらがさっきから飛んできているから、いつ大けがをしてもおかしくない状況。
裕也の事が認識できないクラリスは、俺が意味不明な行動を取っている事に動揺してやはり何の行動も起こしていない。
結果、彼女の傷は増えていくばかり。
正に絶体絶命。
このままこの周回もBADENDで終わってしまうのか。
そう俺が諦めかけた時だった――
『ふふっ。随分面白い事になっているわね。覗きに来て正解だったわ』
そんな謎の声が聞こえた。
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