第12話『乱入』
『ふふっ。随分面白い事になっているわね。覗きに来て正解だったわ』
響く女性の声。
「誰だ!?」
「誰ですか!?」
揃って周囲を見渡す俺とクラリス。
しかし、周りは帝国の騎士とそれが守護する存在である皇帝の皇女のみ。
先ほど響いた女の声。その主は見当たらない。
いや、そもそも誰も先ほどの声が聞こえていないようであり。
「クラリス。聞こえたか?」
「その様子だとお兄さんも聞こえたみたいですね。これは一体……何か心当たりは?」
「もちろんない」
俺とクラリスにのみ聞こえる第三者の声。
それは不思議と頭の中にすっと入って来て――
『当然よ。あなた達二人の頭に直接語り掛けているんだから。本体の私は未だ遠くに居るわ』
再び響く声。
それは、俺とクラリスの頭に直接語り掛けているらしい。
『村の生き残りが居た事にも驚いたけれど、それ以上に驚いたのは勇者の立ち位置ね。今までの勇者は帝国のいいように扱われるだけの存在だったっていうのに、まさかその帝国に刃向かっているだなんて。あなた達、とても面白い存在ね。気に入ったわ』
「――そりゃどうもっとぉっ!」
「誰かは知りませんが、要件があるのなら早めにお願いしたいですねっ!!」
確かに。
迫る騎士達や遠距離攻撃をしかけてくる奴らの相手をしながら落ち着いて話など出来る訳がない。
なので、要件があるのなら早めに本題に入って欲しいし、仮に助けてくれるのなら早めにお願いしたい所なのだが――
『ふふっ。それもそうね。なら――これでどう?』
そうして俺とクラリスの足元からドロドロとした黒い
「なっ。これは――」
「一体――」
俺とクラリスを包むようにして、その黒い泥のような何かは展開される。
すると当然、迫る騎士は「邪魔だ」と泥へと剣を突き刺す。
しかし――
ぬぷんっ――
「な、なんだこれは!? ぬ、抜けんっ!!」
俺達を包むように展開されようとしている泥に攻撃を加えた騎士。
しかし、その剣は内に居る俺達には届かず、泥に埋まって抜けなくなってしまった。
そうこうしている内に黒い泥は俺達を完全に包み――
「なーんも見えねえ」
「ですね」
俺とクラリスの視界は闇に包まれた。
先ほどまで騒がしかった喧騒も嘘のように聞こえなくなっており、とても静かだ。
『その中に居れば安全よ。少なくとも帝国にソレを破れるほどの術者は居ないはず』
再び聞こえる正体不明の女の声。
『さて――これでゆっくり話が出来るわね』
「お前は……一体誰だ? なんで帝国軍と敵対してる俺達に力を貸してくれる?」
頭に直接響く声。
これが誰なのかは分からないが、今まさに帝国軍と敵対している俺達の味方をするなど百害あって一利ない行動のはず。
それなのになぜ俺達に力を貸すのか。
そんな俺の問いに。
『面白そうだったからよ』
あっさり答える女の声。
それはあまりにもな答えであり、俺とクラリスは絶句した。
『そもそも、最近の帝国はつまらないもの。果てに今代の皇帝は私の事を始末しようとしていたらしいし? それなら敵対しているあなた達に力を貸した方が面白そうじゃない?』
「いや、面白そうってそんな理由で――」
「待ってくださいお兄さん。今、今代の皇帝が始末しようとしていたと言いましたよね? それってまさか――」
『ああ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね』
そう言って。
「私の名はルスリア。ルスリア・ヴァナルガンド。世間知らずの勇者さんに分かるようにいえば……そうね。この世界において魔女やら魔王やらと呼ばれている存在よ」
正体不明の女の声はそう名乗りを上げるのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます