第4話 re:異世界召喚(相棒と行く)


「――将ちゃん! ねぇ目を覚ましてよ将ちゃん!」


「ん……あぁ?」


 あの野郎……ムカツク裕也の声が間近で響き、眠っていた俺の意識が覚醒する。

 とりあえず……殴るか。


「ふんすっ!!」



 ボコッ――



「痛ったぁっ!? ちょっと将ちゃんいきなり何さ!? 寝起きが悪すぎるんじゃない!?」


 羽の生えた姿で俺の周りをブンブン飛び回る裕也。

 いきなり殴ったことに文句があるらしい。


「うるっせぇっ! なーにがメンゴ☆ だよ!? 俺を見殺しにしやが……って?」



 そこでようやく俺は気付く。

 


「ん、んん? あれぇ? 確か俺、死んだんじゃなかったっけか? んんんんん?」



 そう――なぜか俺は生きていた。

 俺の記憶が正しければ、俺はついさっき首を刎ね飛ばされて死んだはずなのだが。



「ゆ、勇者よ。先ほどから何を騒いでいるのだ?」


「ん? あれま皇帝様。無事だったんですね? 皇女様は?」


「皇女? もしやアンジェリカの事か? だが、なぜ貴公が娘の事を知っているのだ?」


「……はい?」



 おかしい。話が全くもって嚙み合わない。

 そうして俺が首をひねっていると――


「――あぁ、ようやく分かった。将ちゃんはこれ、二周目なんだね?」


「ん? 二周目?」



 俺にしか見えない裕也が我が意を得たりと得意げな顔でそんな事を言ってきた。



「そう、二周目。将ちゃん、多分何かの理由で死んじゃったんでしょ? その瞬間、将ちゃんの固有能力である『リトライ』が発動して異世界召喚直後のこの場面まで戻って来たんだと思うよ?」



「俺の固有能力ぅ? あぁ、そういやそんなのあったっけか。だけど、それって一体?」


「ふふん、気になるかい? 気になるだろう? 聞いて驚くがいいよ将ちゃんっ! なんと将ちゃんの固有能力である『リトライ』はゲームでいうコンティニューみたいなものでね。何度死んでもその少し前の時点からやり直すことが出来る能力なんだよっ!」


「死んでもやり直すって……あぁ、なるほど。道理で」


 俺の固有能力『リトライ』。

 その能力はまさに能力名そのまま。

 自分の死んだ周回をなかったことにして、ゲームみたくリトライする能力という事か。



「そりゃ話が繋がらん訳だ。俺にとっちゃ大事件が起きた後って認識なのにだ。この周回ではまだ大事件は起こっていないし、俺と皇帝様は出会ったばかりの状態っと。そう言う事だろ?」


「その通り。さすがは将ちゃん。物分かりがいいねっ!!」


「とはいえ、どうしたもんかね?」



 元気いっぱいの裕也を無視しながら、俺は前回の周回の最期の事を思い返す。

 前回、俺が死んだ原因はクラリスとかいうイカレ女だ。

 アレが何の脈絡もなくこの場に乱入してきたからこそ、俺は死んだ。


 ならばクラリスを倒すなりどうにかすべきなのだが、俺はあの女が操る骸骨達の一体にあっさり殺されるくらい弱い。

 つまり、実力差は歴然であり、あの女を倒すと言うのは現実的じゃない。



「なら逃げるか?」



 あのクラリスとかいう女。俺に対して恨みはないと言っていた。

 ならばさっさと逃げれば生き残れるかもしれないが――


「――いや、ダメだ。それだと仮に俺が助かったとしても皇帝と皇女様が死ぬ。二人を連れ出そうにも説明する事が出来ない。そもそも、そんな時間もない」



 前回、クラリスは俺が皇女様から色々と説明を受けた後でこの場に現れた。

 時間を計っていたわけでもあるまいし、正確な時間は分からないが猶予は一時間程度だろう。

 そんな短い時間で全員を説得し、クラリスから逃げ延びるなど絶対に不可能だ。


 クソ、ダメだ。

 そもそもの話、相手との実力差があり過ぎる上に情報も全然足りていない。

 せめてクラリスの目的やら何やらが分かれば活路が見出せるかもしれないってのに。

 これではとても――


 そう俺が諦めかけていた時だった。



「――大変だ将ちゃん!!」



 突然、俺の傍らに居た裕也が騒ぎ出す。



「どうした裕也? 今、俺は真剣に悩んでるんだ。つまらない事だったらぶっ飛ばすぞ?」


「つまらない事なんかじゃないよ将ちゃんっ。今、俺のダークサイドセンサーに反応があったんだ!!」


「ダークサイドセンサー? あぁ、アレか。病んだ女の場所を感知できるとかいう――」


「さすが話が早いね将ちゃん。でも、少しだけ違うよ? ダークサイドセンサーは病んでる女の子だけじゃなくて闇堕ちした女の子。そういったダークサイド側に居る女の子を探せる万能センサーなのさっ!!」


「はぁ……」


 全く、あまりにもくだらない能力すぎて泣けてくる。

 もはやぶっ飛ばす気すら失せてくるな。


「ここから地下に数百メートル地点。その場所からダークサイド堕ちした女の子の反応をビンビン感じるよ!!」


「あっそ。俺は行かないからお前一人でどうぞご勝手に……いや、待て」



 そこで俺は一旦思いなおす。

 そうだ。前回の周回も裕也がこんなことを叫んでいて、俺はそれにとりあわず皇女様の説明を受けた。それで裕也は一人でどこかに行ったのだ。


 そしてクラリス襲撃の少し前、帰って来た裕也は俺に危険だと警告を発していた。

 何を言っていたのかはその後の出来事が印象的すぎてうろ覚えだが、おそらくこいつは俺よりも先にクラリスと会っていたのだろう。

 それで彼女の事を危険と見て俺に知らせに来てくれたのだ。

 それに――だ。


「なぁ裕也。もう一度だけ確認するが、そのダークサイド堕ちした女ってのは地下に居るんだよな?」


「そうだよ?」



 あの時、この場に現れたクラリスは『地下では世話になった』どうこうと皇帝に言っていた。

 そして現時点で地下に居るというダークサイド堕ちした女。


 ――間違いない。それはクラリスだ。

 つまり、今から動けばクラリスについての『何か』を知ることが出来るかもしれない。

 


「そうと決まれば即行動だな。裕也、案内してくれ」


「もちろんだよ将ちゃんっ! ほら、こっちだよ」


「おうっ!」


 闇堕ち少女であるクラリスの元へと案内する裕也に従い、俺は召喚された広間を出る。



「なっ――。貴公、どこへ行こうと言うのだ!?」


「お父様、何を騒いで……。それにあの方は……まさか勇者様!? そんな、私達を置いて一体どこへ行こうというのです!?」


「悪いな皇帝に皇女様っ! すぐに戻るからどうか見逃してくれ。今は一刻を争うんだ、多分」


 後ろから聞こえる皇帝と皇女様の動揺の声に俺はそう返し、飛ぶ裕也の後を付いていく。

 幸い、周りに居た騎士さん達もどう対処すべきか分からないようで、俺を捕らえる様子はない。このまま無視して突っ切ろう。


「さて……鬼が出るか蛇が出るか。とはいえ、やるしかねぇよな」


 正直、あのサイコ女……クラリスの元へ自分から行くのは正しい事なのか、俺には分からない。

 行けば最後。出会った瞬間に殺されるだけかもしれない。


 だが、あの場でぼーっとしてても時間切れで死ぬだけだし他にすべき事も思いつかなかったからな。

 なら、行くしかないだろう。


 そうして俺は広間を出て、帝城の地下へと進んでいくのだった――


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