第3話『勝率0%』
「ごきげんよう皇帝様。一度だけお会いしましたが……私の事は分かりますか?」
「――知らん。興味もないな。これから死にゆく者の事など」
「あら残念です。――とはいえ、無理もないでしょうね。皇帝であるあなたにとって、私たちなどただ消費されるだけの物資。いくらでも替えが効く生贄に過ぎなかったのでしょうし」
「生贄……だと?」
「ええ。地下では大変お世話になりました。地下の見張り番をしていた騎士達にはたぁくさんお礼をしてきたので、どうか皇帝様も味わってくださいね♪」
「地下だと? まさか――」
何やら心当たりがあるらしい皇帝様。
もちろん、こちらとしてはまるで全然意味が分からない。
「皇女様も……地下ではたくさん可愛がってくれてありがとうございます。あなたは私の事、覚えてるんじゃないですか? 本当に……あなたはたぁくさん可愛がってくれましたからねぇ。ふ。ふふ。ふふふふふふふふふふふふふ」
「クラリス、なんで……なんであなたがっ。ゆ、勇者様っ。助けてくださいっ!!」
「え、ここで俺?」
いや、こっちは未だに話に付いていけてないんですけど。
とはいえ、頼られたのなら仕方ない。やるとしようか。
「――ああ、任せてくれっ! さっき言った通り、皇女様は俺が守ってみせるっ!」
訳分からずの敵から皇女様を守る。
異世界召喚後の初バトルとして不足はないだろう。
「勇者? あぁ、お兄さんが召喚された勇者とやらですか」
そこで初めて闇堕ち少女の瞳が俺を見据えた。
「……こうして私の邪魔をするという事は、あっさり騙されていいように使われているみたいですね」
「は? 一体何の話をして――」
「お兄さんに直接的な恨みはないんですけど……でも全く恨みがないかと言われたらそうでもないんですよねぇ。だから……殺しますね♪」
「何がなんだか分からんが……まぁいい。大人しく殺されてたまるかってんだよサイコ女。てめぇは俺が――」
ここで倒す。
そう言って決めようとする俺だったが。
「将ちゃん将ちゃん!! 今の殺しますね♪ ってすっごく萌えない!? 可愛らしい笑顔でえげつない事を言うギャップ。これで将ちゃんにも悪堕ち少女の良さが少しは分かったんじゃないかなぁ!?」
またもや空気を微塵も読まず、すぐ隣で騒ぎ始める裕也。
当然、俺はキレる。
「――いやだから黙れよ!? ホントお前裕也さぁ……今すごい大事なところだから!! それと興奮してるお前には悪いがこれっぽっちも萌えねえよ。狂気しか感じなくて普通に怖いだけだったわっ!!」
「な、なんだってぇ!?」
なんだってぇ。じゃねぇんだよっ!!
大事な場面だって言うのにこんなどうでもいい会話させるんじゃねぇっ。
そのせいで――
「な、なんなのだこの勇者は? 思えば最初から様子がおかしかったが……」
「ゆ、勇者様?」
「くすくすくす。お兄さんってばなんだか面白い人ですねー。でもごめんなさい。あなたはここでサクっと殺していきます。そうした方が皇帝や皇女に大きな絶望を与えることが出来ると思うんですよぉ。ふ、ふふ。アハハハハハハハハハハッ」
ほれ見た事か。
皇帝と皇女様がなんだか引いてらっしゃるじゃねぇか。
なぜか唯一、闇堕ち少女に対しては好感触だったみたいだが……どっちにしろ向こうは
「それじゃあ行きますよ、勇者のお兄さん」
そう言って闇堕ち少女は指揮者のようにその手を動かす。
「さぁ、みんな、行きますよ。みんなの恨みは私が預かりました。だから――力を貸してください」
ギャギャギャギャギャギャギャ――
カッカッカッカッカッカッカッ――
闇堕ち少女の周りに展開していた骸骨達がその口を歪めながら、こちらに向かってくる。
その数――見えている範囲内でも十体以上。
その手にはどこかから手に入れたのか、そこら辺の騎士が握っていた剣と同じようなものが握られていた。
「
なぜか頭の中にある魔術式。
俺は腕を動かし、それを即座に構築。
そして――
「くたばれっ!!」
俺は向かってくる骸骨達にアンデッドを浄化する死霊浄化魔法を浴びせた。
手ごたえは十分。これで――
ギャギャギャギャギャギャギャ――
「んなっ!? マジかよ!?」
俺の死霊浄化魔法を喰らった骸骨達。
そいつらはほんの少し動きを鈍くしただけで、浄化されることなく俺に向かってきていた。
「いやいや、勘弁しろし」
アンデッドを浄化する魔法である死霊浄化魔法はアンデッド以外には無力であり、だけどその代わりアンデッドに対しては効果抜群の魔法だ。
それをまともに喰らったというのに結果がこれとは……さすがに泣けてくる。
「アッハハハハッ。なんですか今の~~? もしかしてそれがお兄さんの本気ですか~~? くすくす、その程度の浄化の力でみんなの恨みが晴れる訳がないじゃないですか。お兄さんったらかわいいですねぇ」
「な……なんですか今の低レベルの浄化魔法は。いくらなんでも――」
「仕方あるまいよアンジェリカ。召喚されたばかりの勇者には何もかもが足りんのだ。とはいえ……全く効果が無いというのも
外野さんも好き放題言ってくれるなぁおいっ!!
ってかこんなの無理ゲーだろっ! ゲームでたまにある敗北確定イベントじゃねぇかっ。
「お、おい裕也。お前、俺のサポート役とかなんとか言ってたよな? どうにかなんねぇのか!?」
迫ってくる骸骨達。
俺は後ずさりしながら、俺にしか見えない裕也に助けを求めてみるが――
「え? いや無理だよ? そうだなぁ……将ちゃんに分かるように言うならアレだね。ドラドラ玉のヤ〇チャがベジ〇タに勝てないくらい無理だよ?」
「……ちなみにどの時点のベジ〇タ?」
「そりゃもちろん強くなりきった時点のベジ〇タだね」
「あ、はい。無理すね。ありがとうございました」
それ、奇跡が何千回起きても勝てないくらい無理なやつじゃねぇか。
なんなら逃げる事すら出来ないやつじゃねぇか。
「それじゃあさようなら、お兄さん。地獄でまた会いましょうね……って、別にお兄さんは何も悪い事なんかしてないと思うし地獄になんて来ないんでしょうか? ま、どうでもいいんですけど」
「ちっくしょうがぁっ!!」
迫る骸骨達。
俺は新たに魔術を組んでその手にハンマーを精製し、骸骨達を迎え撃つ。
「ネクロマンサーだかなんだか知らねぇけどなぁ。ようは全部粉々に砕けばいいだけの話だろうがっ!!」
俺は前の世界のままの肉体能力ではとても振り回せない重量のハンマーを振り上げ、骸骨の内の一体を押しつぶす。
ベギャッ――
「よっしゃ次ぃっ!!」
無事に一体は倒せたが、まだまだ動く骸骨達は居る。
幸いと言うべきか、悪堕ち少女はもう俺に興味を無くしたらしく、いつの間にか逃げようとしていた皇帝と皇女様の退路を塞ぎにかかっていた。
「つまり、俺はこいつら軽く潰して皇女様だけ連れて逃げりゃいいって訳だっ!!」
「それはそれでクズじゃない将ちゃん? あのクソ皇帝は助けないの?」
「実力差がある相手にそんな贅沢言ってられるかよ。ゲームでも皇帝やら王様はポンポン死ぬだろうが。なにより……俺はおっさん助けるより女の子助ける方がテンション上がんだよっ!!」
「うーん。それに関しては分からなくもないけど……でも、無理だと思うよ?」
「え?」
俺は骸骨の内の一体を押しつぶしたハンマーを再び担ぎ上げる。
すると――
ガギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ――
不気味な音を立てながら、今さっき俺が潰した骸骨が高速で蘇った。
心なしか、纏っている黒いオーラが大きくなっている気がするけど、それはどうでもいい。
「いや不死身すぎんだろ!? ずるくねぇか!?」
「ふふん、驚いたかい将ちゃん? これぞ闇堕ち少女クラリスちゃんの真骨頂。『
「いや何を得意げに解説してんだよお前はぁ!! 俺のサポート役どうこうの話はどこに行ったぁ!?」
「だから今、こうして敵の情報を将ちゃんと共有してるんじゃないか。あ、ちなみに――」
サクッ――
「あ?」
なぜかいきなり視界が変わった。
俺の目の前で蘇ったばかりの骸骨がその姿を消し、代わりに首がない男の姿と、その隣で『あらら』と気の毒そうにこちらを見つめる裕也の姿があって――
「クラリスちゃんの操る村の人たちは倒される度にすごく強くなっていくんだけど……ごめん、言うのが遅かったね。メンゴ☆」
手を合わせて謝る裕也、
その隣の首なし男は力なく倒れて……そこでようやく俺は気付いた。
(あぁ、なんだ。アレ……俺じゃねぇか)
首を刎ねられた男。
それは他の誰でもない、俺だった。
どうやら知覚する間もなく、俺は蘇った骸骨に首をスパンと刈られていたらしい。
(ちくしょう……やってらん……ねぇ……)
異世界召喚という心躍るイベント。
その後も魔女を倒すだの皇女様と旅をするだのと楽しい事が始まりそうな予感があったっていうのに。
それなのにいきなり終わりとか。
(ちくしょう。裕也の野郎。何がメンゴ☆ だよ。次会ったらぜってぇぶん……なぐって――)
そこで俺の意識は途切れるのだった――
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