第1話『祝・異世界召喚(相棒は去る)』


「――将ちゃん! ねぇ目を覚ましてよ将ちゃん!」


「ん……あぁ?」


 鬱陶うっとうしい裕也の声が間近で響き、眠っていた俺の意識が覚醒する。


「ここは……」


 目を覚ましたら、俺は見慣れぬ場所に居た。

 西洋式の大きなお屋敷の中だろうか。なんだかゲームにある王の間みたいなものをイメージしてしまう。

 そして、おそらくそのイメージはそう大きく間違っていないのだろう。

 なにせ、周りには時代錯誤も甚だしい西洋の鎧を纏った騎士たちが居て、俺の正面には派手な玉座に座っている髭面ひげづらのおっさんが居るし。アレぜってぇ王様か何かですわ。そんな雰囲気がプンプンする。


「あ~~。これってもしかしなくてもそう言う事か?」


 頭をぽりぽりと搔きながら、俺は今自分が置かれた現状を整理する。

 記憶が確かなら、俺は裕也と一緒に流れ星っぽい何かに押しつぶされて死んだはずだ。

 そうして次の瞬間には前時代的なこの光景である。


 極めつけは俺の足元にある複雑な召喚陣っぽい何かだ。

 これはもうアレしかないだろう。



「これは……いせか――」

「やったね将ちゃん! これ本当に異世界召喚だよ!! うわぁ。すげぇすげぇ。俺なんだかすごくテンション上がっちゃうよ!!」



「いや言わせろよ」



 声に出して実感を得ようとしてみたのだが、どうやら俺にはそれすら許されないらしい。

 一緒に召喚されてきたらしい裕也へと目を向けて――



「むっ。これは……凄いよ将ちゃん! 俺、自分のステータスを見てみたんだけどさ。なんと将ちゃんのサポートをする為の能力が盛りだくさんなんだよやったねっ!」



 はしゃぎまくっている裕也。

 異世界に飛ばされたというのに全く動じていない。しかし、今はそんな事どうでもいい。

 問題は――


「お前……小さくね?」


 俺の悪友である裕也。

 目覚めてから声だけ聞こえて姿が見えないと思ったのだが、奴は俺のすぐ傍に居た。

 それでも俺がこいつの発見に遅れた理由は単純なもの。


 裕也こいつの体が小さくなっていたからだ。


 白髪の爽やかイケメン風の裕也だが、今は手のひらに乗れるくらいのサイズになってしまっていた。

 こいつにお似合いの真っ黒な羽を背中から生やしており、それで飛んでいる。



「そうなんだよっ。俺ってばこの世界では妖精って種族になってるみたいでさ。基本、将ちゃんにしか見えないし触れられない存在になってるみたい」



 え、妖精?

 この顔だけ爽やかで心の中がドロッドロの真っ黒クロスケのこいつが妖精? フェアリー? えっと、何の冗談すか?


 などとどうでもいい事で面食らっていると――



「――そろそろよいか? 貴公が混乱しているのは理解するが、そろそろ話を進めたいのだが」


 目の前でふんぞり返ってる髭面ひげづらの王様っぽい男が俺へと話しかけてきた。


 

「あ、サーセン。えぇっと……これ、どういう状況か聞いていいすか?」


「どういう状況か……か。良いだろう。――アンジェリカ、この者にこれまでの経緯を説明せよ」


「かしこまりましたわ、お父様。――それでは勇者様、あなた様を召喚した経緯について説明させて頂きます」


「ああ、たの――」



 とんとん拍子に話が進み、横から出て来た綺麗な赤髪の王女様(多分)の話を素直に俺が聞こうとしたその時だった。




「――大変だ将ちゃん!!」


 突然、俺の傍らに居る裕也が騒ぎ出す。



「ど、どうした!?」


「今、俺のダークサイドセンサーに反応があったんだ!!」


「な、なんだって!? ……ん? ダークサイドセンサー? なにそれ?」


「ダークサイドセンサーは俺のサポート能力の一つだよ! 闇堕ちした女の子や病んでる女の子みたいな、そんなダークサイド入りした女の子を感知できる俺の高性能センサーさっ!!」


「……は、はぁ」


「ここから地下に数百メートル地点。その場所からダークサイド堕ちした女の子の反応をビンビン感じるよ!!」


「そ、そうか」


「こうしちゃいられないよ将ちゃんっ!! 早くこの子の所に行かないと!!」


「おう、頑張れよ」


「うんっ! 俺頑張るよ……じゃないよっ!? 言ったでしょ将ちゃん。俺は基本的に将ちゃんにしか触れられない存在になってるし、俺の声は将ちゃんにしか届かないんだっ! 俺が行ってもダークサイド堕ちした女の子を傍から眺めるしかなくてアレ結構ありだね!? でもせっかくだから将ちゃんも行こうよ!!」


 いや行かねえよ。

 全く……大変だというから何かと思えば下らない事で騒ぎ出しやがって。



「あの……勇者様。先ほどから一人で何をぶつぶつと言っているのですか?」


「へ? あ、あー。すんません。ちょっと……ね? ははは」




 裕也の言う通り、こいつの姿は俺にしか見えていないらしい。

 おかげで王女様から変な奴だと思われてしまった。


 俺はしばらく話しかけてくんなという意味を込めて裕也に『しっしっ――』とどっかいけとジェスチャーを送る。


「なっ――将ちゃん……。俺は将ちゃんに闇を抱えた女の子の良さを知ってほしいと心の底から願ってるだけなのに……。ふんだっ。もう知らないっ! 将ちゃんのバカーーッ!!」



 そう叫んで裕也がどこかに飛んでいく。

 おそらくだがダークサイドセンサーとやらが示す場所に居るとかいう女の元へと行ったのだろうが……まぁ今のあいつは誰にも見えないし触れられない幽霊みたいな存在らしいし、放っておいていいか。


「――勇者様?」


「あ? ああ。すんません。ちょいと突然の出来事に戸惑ってました。改めて俺を召喚した経緯についてとか教えてもらえますか?」


「もちろんですわ。まずは――」


 そうして俺は王女様から召喚した経緯について教えてもらうのだった。


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