召喚された異世界で親友と始める闇堕ちヒロイン攻略生活~強大な力を持つ闇堕ちヒロインに何度か殺されるけど蘇るから別にいい……のか?~

@smallwolf

プロローグ


「ねぇ、しょうちゃん」


 それはとある日の放課後の出来事。

 大事な話があると言って、飛鳥井あすかい裕也ゆうやは俺を校舎裏へと連れ出していた。


「どうした裕也? また下らない相談か?」


「失敬な!! 俺が親友である将ちゃんに下らない相談なんかしたことが今まであったかい!?」


「そうか。今までのアレ、お前にとっては下らない相談じゃなかったんだな。後、親友じゃねぇよ。100歩譲って腐れ縁で繋がってるだけの知り合いだ」


「またまた~~。将ちゃんってば素直じゃないんだから~~」


「御託はいいから早く要件を言えってんだよ。早く終わらせて飯行こうぜ飯。お前の奢りで」


「仕方ないなぁ。それじゃさっそく本題だけど――」



 そう言って裕也は真剣な表情で。



「ダークサイド系の女の子って……すごく可愛くない?」



 いつものように、果てしなくどうでもいい事を言い出すのだった。



「あー、うん。ソダナー。可愛い可愛い」


 どうせそんな話だろうと予想していた俺は話を早く終わらせるべく、適当に話を合わせる。

 俺は裕也の晩飯を奢ってくれるという口車に乗って来ただけ。

 だからこそ適当に流そうとしたのだが――


「だよね!? いやぁ、将ちゃんにも遂にダークサイドの女の子……闇堕ち少女達の良さが理解できたのかぁ。俺は嬉しいよ!!」


「……そ、そうか」


「いやぁ、いいよねぇ闇堕ち少女。無垢で潔白な女の子が酷い目に遭って絶望してさ。それで達観した大人の女性になるんだよ。そのギャップがいいよね!?」


「そ、ソダネ」


「あ、そうだ将ちゃんエロゲ!! この前俺が貸した『フレイヤ・ディスクリプション』はもうやったのかい? あの敵役の女の子もすっごく可愛くない!? 無垢な女の子が故郷を魔術師達に焼かれちゃったり酷い目に遭ってさ。それで色々と壊れちゃって人間なんてこの世に存在する価値ないって思うようになるあの過程……いいよねぇ。外見は普通の女の子なのに並みの大人なんかより達観しちゃっててさ。そのギャップが凄く良いって……そう思わない!?」


「そ………………ソダネ」


「だよねぇ!! いやぁ、将ちゃんも遂に分かってくれたかーー。やっぱり、女の子はみんな闇堕ちするべきだよね? ちなみにあのエロゲー、続編で闇堕ちする少女を救うっていうルートもあるんだけどさ。なんと闇堕ちする前に主人公が女の子を救っちゃうんだよ」


「ほーん」


「いやー、製作会社は分かってない。分かってないよねぇ。闇堕ち少女は闇堕ちしてるからこそ魅力的なんだよ。だから酷い目に遭う前に助け出すなんてナンセンス!! 女の子が酷い目に遭って遭って遭いまくって、それで闇堕ちした上で助けるルートになるのかと思ったらそうじゃないんだもん。俺はガッカリだよ!」


「ソダナー」


「だよねー。俺なら目の前で女の子が酷い目に遭ってても無視して、影から闇堕ちするまで見守るもん。将ちゃんだってそうするだろ?」


「ソ……んな訳ねぇだろ!? そこは普通に助けろよ!? 馬鹿なのお前!?」



 ――ダメだった。

 今度こそはスルーしきるつもりだったのに、さすがに聞き捨てならなくて結局いつものように突っ込んでしまった。




「え……将ちゃん正気? しょうちゃんだけに」


「いや上手くねぇから!? むしろそのセリフ俺が言いてえわっ!! 相変わらずお前の女の趣味は悪いどころか醜悪でしかねぇんだよ! サイコパス過ぎて怖いわ!!」


「えぇ? そうかなぁ? まだ時代が俺に追い付いてないだけでいつかきっと闇堕ち少女ブーム……来るよ?」


「来てたまるか、んな暗黒時代! そんな時代が来たら世の女性の皆様方は男性不信になること待ったなしだわっ!!」


 飛鳥井あすかい裕也ゆうや

 こいつは学年トップの成績を誇り、運動神経も抜群な超優良物件男子だ。

 コミュ力も俺なんぞより遥かに高く、男女問わず友達が多い。


 しかし、天は二物を与えずと言えばいいのか。こいつには決定的な欠点がある。

 それこそが女の趣味が徹底的に悪い事だ。

 

「えぇ……そうかなぁ。ほら、例えば親から捨てられて周りからも冷たい目で見られてさ。それで自分も含めて世の中ゴミばっかりって達観しちゃう女の子とか可愛くない?

 後はそうだなぁ……。あ、このパターンはどうかな!? 大好きな両親に裏切られてさ。それで今まで抱いてた愛情が全部憎しみへと変わっちゃう女の子! 大好きだからこそ相手を苦しませたいって達観しちゃう女の子とか……可愛いよねぇ」


「可愛くねぇよ怖ぇよ頭湧いてんだろお前……」



 相変わらず女の趣味が悪い裕也。もう普通に恐怖でしかない。

 こいつの本性を学校の皆が知ったら卒倒するだろうが……こいつも自分の女の趣味が周りと違い過ぎる事を理解しているのだろう。その本性は幼馴染である俺にしか明かしていない。


 できれば俺もこいつのそんな本性なんて知りたくなかったし、一々こんな話を俺にぶちまけないで欲しいのだが……こいつも自分の趣味を吐き出す先が欲しかったのだろう。あらゆるえさで俺を連れ出し、大事な話と称してこの手の話をしたがるのだ。


「そっかー。残念。でも……俺は諦めないよ! なんたって将ちゃん……すめらぎ将一しょういちは俺の唯一の親友だもん。そんな将ちゃんとは俺の一番好きな物を分かち合いたいんだよ!!」


「うん、それだけ聞けばいいセリフだな。分かち合いたいものが最悪過ぎる事にさえ目をつぶればだけど」



 その後も裕也の可愛い女の子談義は続いた。

 闇堕ちする女の子も可愛いけど最初からダークサイドに特化してる女の子もどこか達観してて可愛いよねなど、こいつはとにかく女が闇に染まった姿が好みらしい。え? なにそれ怖い。


 そうしてどれくらいの時が経っただろうか。

 裕也は話の途中から取り出していた水筒に口をつけ――


「あ、もう空だ。仕方ない。将ちゃん、話の続きはファミレスでいいかな?」


「おぉ、いいぞ。すぐ行こうさっさと行こう。何を頼んでも恨むなよ?」


「もちろんだよ! あ、お金の事なら心配しないで。いつも通りFXでかなり儲けてるから。なんなら前に行った高級レストランにでも行く? ドレスコードがあるから途中で適当に着替えないといけないけどさ」


「いや……アレはもういい。だってお前、周りとか気にせず喋り倒すんだもんよ。ファミレスならともかく、ああいう場所でそれやられるとこっちが辛いわ」


 高級レストランで周りに落ち着いた大人達が居る中、こいつはそんなのお構いなしでダークサイドの女の子がどうの凌辱された女の子が可愛いだの騒ぐのだ。

 付き合わされるこちらとしては食事どころじゃないし、あの時はせっかくの旨い飯も味が全然分からないしで散々だった。

 

「そう? それなら普通にファミレス行こっか」


「おう」


 そうして俺と裕也の二人は置きっぱなしだったカバンを取りに教室へと戻ったのだが――


「あれ? 将ちゃん? なんか明るくない?」


「あぁ、明るい? 何言ってんだお前。今はもう夕方で明るいって言う程じゃ――」


 そこまで言って俺も気づいた。

 教室内には俺と裕也しか既におらず、電気も付いていない。

 ならば教室は夕焼けで赤く染まっているのが普通なのに、なぜか真昼間のように明るいのだ。



「あ、見てみて将ちゃん流れ星だよ! 綺麗だねぇ。あの星に悪堕ち少女が乗ってて、俺達に突撃~~とかしてくれないかなぁ」


「はぁ? いやいやお前、遂に頭だけじゃなくて目もおかしくなったか? いくらなんでも流れ星がこんな時間に見える訳が……んん?」


 裕也の方を振り返りながらそう言う俺だが、奴が向いている方向をちらりと見て俺は言葉を途切れさせる。


 それは窓の外。

 明るい光が空から落ちてきており、それは裕也の言う通り正に流れ星というべきものだった。

 普通の流れ星と違ってなんだか異様にでかいしメッチャ光っている流れ星。



「あ、そうだ。ねぇ知ってる将ちゃん? 流れ星が落ちる前に三回願い事を言えれば願い事が叶うらしいよ! よーしっ。俺頑張るぞぉっ! 

 将ちゃんが悪堕ち少女の魅力に気づきますように将ちゃんが悪堕ち少女の魅力に気づきますように将ちゃんが悪堕ち少女の魅力に気づきますように!! やった言えたよ将ちゃん!! これで悪堕ち少女の魅力に気づいてくれたかな?」


「いやいやいやいやおかしいだろ何もかもが」


 そんな悠長に喋ってるのになんで未だに流れ星が落ちきっていないんだとか、そもそもこんなに光り輝いている流れ星なんてあるわけねぇだろとかツッコミが追い付かない。

 なにより――


「なぁ、あの流れ星もしかしなくてもこっちに向かってきてねぇ?」



 もはや明るすぎてきちんと直視できないが、流れ星に見えるソレはこちらに向かってきているように見えた。


「え? あ、ほんとだ。やったね将ちゃん! きっと俺達アレだよ。これからあの流れ星に押しつぶされちゃってなんやかんや異世界転生しちゃってさ。それで悪役の女の子と敵対する勇者として召喚されちゃったりするんだ!!」


 流れ星がこっちに向かってきていることに気付いて大はしゃぎする裕也。

 なお、こっちに向かってきている流れ星の勢いは凄まじく、どう見ても今から避ける事は無理だし、校舎ごと俺達を消滅☆させる事間違いなしだ。


「あー、うん。最後まで幸せそうだな。お前」


「そりゃそうだよ! 現実に悪堕ち少女ってなかなか居なくてさあ。悪ぶってる女の子とは何回か付き合ってみたけどアレはなんか違うんだよねぇ」


「そすか」



 人生最後の瞬間だというのにあいも変わらず楽しそうな裕也。

 そんな裕也を見てるからだろうか。

 もうすぐ流れ星に圧殺されて訳も分からないまま死ぬというのに俺は落ち着いていた。


 そうしてもう間近に迫る流れ星。



「それじゃあ……またね、将ちゃん」


「おう」



 ――ドゴォンッ


 そうして。

 俺達は迫ってくる流れ星に押しつぶされ、多分圧殺したのだった――


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