第16話

ルマリーザの話によると、敵の数はおそらく五百はいるという。

他の冒険者の力も借りたほうがいいかも知れないと。


「んーほかの冒険者ですか…。彼ら素直に力を貸してくれますかね?」

「そこはジャストンに報酬を用意してもらうよう交渉しよう。最悪俺たちの報酬はいらん。」

「で、協力を取り付けたとしてどうするかだな。」

「そこでだ、私に少し作戦がある。」

「作戦? 」

「私が魔物の拠点へと単独で行こう。私なら顔も割れているし素直に通してくれるだろう。そして魔王軍隊長と話をしている間に君たちは周辺の魔物を殲滅してくれ。」

「んーなるほどな。そしたらよ、部隊を三部隊に分けよーか。」


エドが細かい作戦内容を提示した。

まずは大和部隊、白部隊、エド、ティナ部隊に分かれる。

大和、白部隊は住処の左右に分かれ、魔物を殲滅し拠点を左右から挟撃。

エド、ティナ部隊はルマリーザの援護と、大和、白部隊の挟撃に合わせて攻撃を仕掛ける。

各自情報共有は思念伝達のスキルで行うことにした。


「よし、それでいこう。」

「じゃあまずは、ジャストンへ報酬の交渉と冒険者たちへ協力の依頼だな。」


一行はまずジャストンの元へと向かった。

ジャストンは大和たちを不満そうな表情で迎えた。


「なんだね? 君たちへの話は終わったはずだが? 」

「魔物討伐に際して、他の冒険者の協力が欲しい。そしてそいつらの分の報酬を出してやってくれないか? 俺らの分報酬は出さなくていい。」

「うーむ、わかった。町を守るためだ。冒険者共には報酬を出そう。貴様らには何も出さんからな。」

「それでいい。」


ジャストンとの交渉は無事に終わった。

次に冒険者へ協力を募る為、ギルドへと向かった。

受付に事情を説明し、ギルド内にいる冒険者へ集まってもらった。


「なんだなんだ…? 」

「おい、あいつらって…。」

「ああ、例のシルバーウルフの奴らだ。」


冒険者たちがざわざわとし始める。

その騒ぎをかき消すかのように、大和はこう言った。


「冒険者の皆、聞いてくれ! この町の近くにある森に魔物の拠点がある。そこを攻めようと思っている。協力してくれないか? 」

「もちろん協力していただいた方々には報酬が出ます。」


急な話に一瞬静まる冒険者たち。

そして再びざわざわし始めた。


「悪くない話じゃないか? あいつら強いだろきっと。」

「あの森に魔物の拠点…? 信じられるか? 」

「報酬が出るなら何でもいいだろ。」


様々な意見が飛びあい盛り上がりを見せるギルド内。

そんな中、一つの冒険者グループが前に出て、大和たちへ向けてこう言った。


「おいおい、シルバーウルフ80匹討伐だか何だか知らねーが、いきなり出てきて協力しろだぁ? 強さもわからねーのに気に食わねーなおい。俺らと戦えよ。」

「80匹ってのもなんかインチキしたんじゃねーの? 」

「そうに決まってるぜ。へへへ。」

「クアレス達だ…。」

「めんどくさいやつに絡まれて可哀そうだなあいつら。」


ギルド受付に突っかかってきたやつらが誰なのかを聞いた。

そいつらはクアレス、ウーゴ、ダーニというらしく、報酬のつり上げを求めたり、他の冒険者に悪態をついたりと、たちが悪いで有名な冒険者たちのようだ。


「やっぱこーゆう奴らがいるかー。」

「めんどくさい。」

「無視しましょ無視。」

「ほらどーなんだ? ごちゃごちゃ言ってねーで俺らと戦えよ。」

「なんだぁ? ブルっちまってるのか? だっせーな! おいお前らこんな奴らに構うことないぜぇ! ガハハハ」

「いや、別に無理に協力しろとは言ってない。協力しないのならそれで構わん。」

「そんなこと言って報酬を渡したくないだけだろ? 」


大和たちはクアレスたちを無視して、他の冒険者たちに協力を促す。


「おい、無視してんじゃねーよっ! 」


クアレスが大和を蹴り飛ばした。


「大和さんっ。」

「大和大丈夫か?」

「ああ、大したことない。」

「少しは戦う気になったか? あ? 」

「わかった、お前らがそこまで言うなら戦ってやろう。表に出ろ。白、エドいいか? 」

「まあいいでしょう。ほかの方々にも力を見せておきましょう。」

「やれやれ。早いとこ片付けちまおうぜ。」


大和たちはしぶしぶ勝負を受けるべく、表に出た。

ギルド内いた他の冒険者や、騒ぎを聞きつけた町の人々が集まってきた。


「さぁ、最初は誰からやる? 誰でもいいぜぇ。」

「お前らが選べ、さっさとしろ。」

「んだとぉ? おいダーニ一発わからせてやれやぁ! 」

「おうよ。じぁあそこのでかいのお前にするわ。」

「あーでかいのって俺か? 」


ダーニはエドを対戦相手に選んだ。

エドはだらだらと前に出た。

するとダーニが強烈なタックルを仕掛けてきた。

それに対してエドはひらりと避け、足を引っかけて転ばせた。

ダーニは逆上し再び襲い掛かってくる。


「いやーさ、もう少し頭使えって。」


エドは再びタックルを躱し、同じ方法で転ばせた。

そしてダーニの腕を抑え、関節を極めた。


「いだだだだだだっ」

「どうする? このままいくと外れるぞ? 」

「こ、降参だっ! 」


周囲で見ていた観衆も盛り上がりを見せる。

見事勝利を収めたエドは大和たちとハイタッチをする。


「なにやってんだおめーは! 」

「す、すみません。クアレスさん…。 ぐはっ」


倒されたダーニをクアレスはぶん殴った。


「クアレスさん、次は俺に行かせてくださいよ。」

「ウーゴ、負けたら承知しねぇからな。」

「大丈夫ですよ、あの女みてーなやつをボコボコにしてきますわ。」

「僕ですか。」


ウーゴが選んだのは白だった。

やっちまったなと同情の目をウーゴに向ける大和たち。

ウーゴは白目掛けて、殴りかかってきた。


「遅い。」


白はウーゴの拳を手で払いのけ、首元へ鋭い手刀を放つ。

ウーゴは何が起こっているのかもわからないまま、手刀を受け気絶した。

あまりに一瞬過ぎて、クアレスも口をあんぐりしていた。


「くっ、てめーら調子に乗んじゃねーぞ! おい黒髪勝負だ! 」

「ああ、かかってこい。」


頭に血が上ったクアレスはナイフを取り出し、大和へ襲い掛かってきた。

大和はナイフを振りかざしてきたクアレスの腕をつかみ、ナイフを落とさせる。

そして、逆にナイフを拾い上げ首元へと突き立てた。


「終わりだ。」

「くっ…。」


大和はナイフを捨て白たちへの元へと戻る。

その時、クアレスが大和へ再び襲い掛かってきた。


「死ねぇぇぇぇ! 」

「大和さん! 」


大和は後ろからの攻撃を横に避け、クアレスの後頭部へと強烈な肘打ちをかました。

クアレスは泡を吹いて失神した。

観衆からは大歓声が上がった。


「クアレスさん! 覚えてやがれこの野郎! 」


ダーニは気絶しているクアレスとウーゴを引きずり、よく聞く捨て台詞をはいて逃げて行った。


「ふぅ。終わったな。」

「まったく君たちは流石だな。」

「これで邪魔者は消えたな。」

「さあ、協力を募りましょう。」


すると周りで見ていた冒険者たちがわらわらと集まってきた。


「あんたら強いな! ぜひ協力させてくれ! 」

「俺もだ俺も! 」


続々と協力をしてくれる冒険者たちが増えた。

その数約百名ほどである。


「これだけいればなんとかなりそうですかね。」

「そうだな。向こうより数は少ないが、君たちがいれば大丈夫だろう。」


色々ごたごたしたが、何とか冒険者たちの協力を得た。

冒険者それぞれの特徴を聞き、各部隊へと編制した。

近接戦闘を得意とする者たちを、大和と白の部隊へ。

遠距離攻撃、後方からの援護を得意とするものをエド、ティナ部隊へ。

そしてエドが考えた作戦を話し、皆で共有した。

各冒険者たちの準備がある為、明日作戦実行とした。


「冒険者のみんなありがとう。明日の戦闘に備え今日は解散とする。明朝セイルの正面玄関前集合だ。みんなよろしく頼む。」

「「「おおー!」」」


冒険者たちの士気が上がっている。

大和一行も明日の決戦に備えるため、宿へと戻った。

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