第20話 私の日常
セインがベルと一緒になり、私の生活基盤を揃えてくれる。それも、あっという間であった。
ネズミではあるが、女の子ということで、お世話については、セインが遠慮をしてくれることもある。そういう場合は、ベルが世話をやいてくれた。
セインと暮らすならと、ベルがドールハウス以外でも、生活に必要なものをいろいろと用意してくれた。トイレのお世話だけでなく、猫足バスタブにお湯を入れ、もこもこと泡立てた石鹸を使って、指で体を優しく洗ってくれたりと、王女様にも負けないくらい至れり尽くせりである。
数日後には、ベルが用意してくれたタオルで小さく切り分けてくれた石鹸を使い体を洗ったり、ドールハウスに備え付けのトイレへ行ったりと不思議な行動をするネズミを呆れたようにベルは見守ってくれていた。チョロチョロと動きまわる私をベルはとても可愛がってくれる。
セインが学園へ行っているあいだのお世話は、ベルが全てしてくれる。かいがいしくお世話をされると、なんだかむず痒く、とても大切にされていることが嬉しい。
朝食と夕食は、セインとこの部屋で一緒に摂っている。机には、私専用の食卓も用意されており、セインの給仕をベルが、私の給仕をセインがしてくれるというあべこべな感じで食事を摂っていた。
小さなカトラリーには、セインが切り分けてくれた食べ物が並び、どれもこれも頬が落ちるのではないかというほど、美味しかった。
「リアは食べている姿も可愛らしいね?」
「本当ですね。上手にナイフとフォークも……あぁ、パンを齧っている姿も……」
二人に観察されながら食べるので、実は少しだけ恥ずかしかったりする。令嬢らしく、テーブルマナーには気を付けて使い慣れない体で一生懸命食べている姿は、二人にとって微笑ましい日常のようだ。
昼食は、ベルが用意してくれるのだが、あまり多くを必要としない私はクッキー1枚を所望すると、クスクスと笑って差し入れてくれた。
「リア様は、とてもお利巧なのですね。お風呂もおトイレもご自身でされるだなんて……私、何もすることがございませんわ!」
はぁとため息をつき、ベルがセインの部屋を綺麗に整えていく。その後ろ姿を見ながら、とても働き者だと感心していた。王太子ともなれば、たくさんの侍従がいるものなのだが、セインの周りに侍っているのは、侍女のベルしか見たことがなかった。私がいるから、もしかしたら、他の侍従は遠ざけてくれているのかもしれないが、不便さを感じている様子は、セインにもなかった。
朝を過ごすのは、ドールハウスの中。とても人形の家だとは思えないほど、充実した作りで、初めて入ったときは驚いたものだ。
……いつ入っても、本当に私の部屋みたい!
ドールハウスの壁面の1ヵ所を開け閉めすることで、中の様子が見られるようになっている。お風呂はセインのいない昼間に入ることにしているが、トイレは予測できない。ドールハウスの中でも、壁面を外しても見えない場所にわざわざ壁を作ってくれている。ただし、処理はしないといけない。ベルだけが、その場所を綺麗にできるよう秘密の扉を作ってくれ、いつも清潔にしてくれている。
壁面はあけてくれているので、部屋の中を見渡せるようにおいてくれてある。夜はセインと一緒に過ごすことが多いから、朝にベルが部屋を整えているあいだだけ大人しくドールハウスの中で過ごすことにしていた。
働きもののベルは、ネズミの私よりよく動く。毎日ベルの様子を見ているのがとてもおもしろかった。
……我が家の侍女もよく働くけど……ベルは、それ以上ね。
「リア様が来てから、この部屋で一人過ごす時間もなくなり楽しいですわ!」
ときには、私が見ているのに気付いてベルは優しく微笑んだ。
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