第21話 新聞
セインが使っている机の上を整頓しているベルを見ていたら、今日のだろうか? 新聞が置かれていることに気が付いた。
私は、ドールハウスを抜け出し、机に向けて駆け出す。高さのある机もよじ登って一息。セインが見やすいように置かれている新聞の元まで行く。
新聞の端を持って整えられたばかりの机の上に引きずるようにして広げる。ストンと座って新聞の文字を追うが、人間のときは細かい字でも、ネズミになれば、一文字が顔の半分くらいあり読みにくい。
私が、エリーゼに中庭に呼び出されたのが、1週間くらい前。翌日には、セインが私がいなくなったことが騒ぎになっていると言っていたので、新聞にも私のことが載っているのではないかと、文字を拾っていく。広げた新聞の上をペタペタと音を立てて歩く。
大きな見出しに『侯爵令嬢、神隠しか?』という題名を見つけ、読む。文字をなぞるように新聞の上を行ったり来たりしながら読んでいると、ベルがこっそり見守ってくれていたらしい。
「殿下から、不思議なネズミだと聞いてはいましたが、リア様は文字も読めるのですか?」
ペタンと座り、上を見上げるとニッコリ笑うベルにコクコクと頷く。私からの言葉は通じなくても、セインやベルが言った言葉に体を使って反応することはできる。
「本当に……言葉がわかるのですか? 殿下が一方的に話しかけて、初恋の人がいなくなった寂しさを紛らわしているのかと思っていました。リア様は、本当にネズミ?」
まさか、文字が読めたり、言葉を理解したりできると本当に思っていなかったのだろう。いつもはベルの仕事を邪魔しないように大人しくしているので、コミュニケーションを取ることがなかったので、とても驚いていたようではあったが、セインから話を聞いていたことと1週間ここで過ごしたことで、ベルも気を許してくれているのだろう。戸惑った表情は見せても、気味悪がったり、私を駆除しようとしたりはしないでくれた。
優しくしてくれるベルには感謝しかない。
一方で、ベルの質問には、どう答えていいのかわからない。この呪いがいつまで続くのか、どうすれば解けるのかわからない以上は、寿命が尽きるまでこのままなのだから。迂闊に首を横に振ることもできず、じっと見つめるだけにとどめた。
私が読んでいた記事をサッと目にしたのだろう。
「……このお嬢様の記事なら、後ろに詳しく書かれていますから、開きますか?」
コクコクと頷き、「ありがとう」とお礼をいう。きっと、ベルには『ちゅうちゅう』としか聞こえていないのだろうが、「どういたしまして」と返事が返ってきた。私が何を言いたかったのか、察してくれたようで嬉しくなる。
記事が載っているところを開いてもらうため、その場から机の上に一旦移動した。
「……殿下の初恋の方ですよね? どこにいらっしゃるのでしょうね? 殿下もとても心配されています」
……セイン殿下の侍女だけあって、ベルは、とても優秀ね。さすがと言うべきだわ。セイン殿下のことなら、何でも知っているのでしょうね。
チクリと痛む胸をそっと撫で、ベルの言葉に耳を傾ける。あまりにも仕事ができるベルのことに感心して見つめていると、「ここに載っていますよ!」と記事の場所まで教えてくれる。読むのは私に任せ、ベルは次の仕事をするために部屋から出ていった。
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