第19話 与えられた私室
王宮に住み始めて1週間経ったころ。ベルが注文してくれたドールハウスは、その三日後には届いた。
初めてセインの部屋に運び込まれたとき、その立派な造りに目を丸くさせた。大きさは、私が使い勝手のよさそうなものばかり。家具などは、どれも高級なものだとわかる手触りをしている。
……すごいわ、このドールハウス。とてもじゃないけど、人形用とは思えないほどのものばかり。
下から全体を見上げていると、感嘆の声が漏れそうであった。
セインも学園から帰ってきてすぐに、部屋に運ばれているドールハウスが気になったのか、前で見ていた。
「ドールハウス、もう来たんだね?」
「無理のない程度にと言わせてもらったのですけど、早々に持ってきてくれました。リア様、どうですか? このお部屋、気に入っていただけると、嬉しいのですが」
ベルも女性なのだろう。ドールハウスを見て私以上に目を輝かせている。
……ドールハウスって、女の子なら胸が躍るものね! 可愛いお人形に素敵なドレスを身に纏わせ、お気に入りの設定でよく遊んだわ。
懐かしい想い出が脳裏に思い浮かんだ。そのどれもに優しく微笑んでくれる両親が見守っていたことに胸が痛かった。
このドールハウスの活用方法は、事前にセインとベルと三人で話し合い済みである。昼間、ベルがセインの部屋の掃除や整えているのあいだ、ウロウロとしていると危ないので、邪魔にならないようにドールハウスで過ごすことになった。トイレやお風呂といったものも揃っており、ベルがここで過ごす私をいたく気に入っているようで、ベルを喜ばせるために一定の時間はドールハウスで過ごすことが日課になりそうだ。
大きめの新たな我が家は、どれをとっても一級品の出来であった。家具はどれも木目美しい品で、高級感溢れるもの。カトラリーは、陶器でできた素晴らしい品。フォークやナイフは銀で出来ている。どれもこれも本物が用意されており、使い勝手がよく驚く。
……ベッドなんて、かなりふかふかしているわ! 猫足バスなんて、可愛らしいし……、トイレも、とても使い勝手がいいの。
満足を通り越え、生活しやすい空間を与えられ、セインの部屋で自分の時間を過ごすことができた。
ただ、ひとつ残念に思ったことはあった。ドールハウスを与えられ、ベッドがあるということは、こちらで一人……一匹で眠らないといけなくなる。セインにくっついて眠る日が数日続いただけで、一匹で眠ることを寂しく感じていた。
勉強も終わり、湯あみから帰ってきたセインがドールハウスの前で佇む私に声をかけてくる。
「ふっ、お嬢さん、背中が寂しそうですよ?」
セインが部屋に帰ってきていることも気付かないほど、落胆していたようで声をかけられ振り向く。
ドールハウスがこの部屋に来た日のことであった。
「ちゅう?(そうですか?)」
セインを見上げ首を傾げると、クスクスと笑ながらからかってきた。抗議をしようにも、「ちゅう!」しか発せられないもどかしさに、さらに肩を落とす。
そんな私を見てそっと指を伸ばしてくる。頬に触れるので、擦り寄った。
「夜は、あっちのベッドにおいで。ドールハウスは、リアの私室であって、必ずしも、そこにいないといけない場所じゃないよ? この部屋も自由に使ってくれていいんだから」
目を見開きパチパチと瞬きをする。寂しいなと感じていたことを感じとってくれたのか、心を読めるのか一緒に眠ってもいいという。
頭を人差し指で撫でてもらい、目を細める。こんなちょっとしたふれあいが、とても嬉しく感じるようになった。
「僕が一緒じゃないと寂しいからね。リアにドールハウスで眠ると言われてしまったらどうしようかってお風呂に入っているあいだ、ベルと話していたところだよ」
ちょっと照れたようにベルとのやり取りを教えてくれると、ますます嬉しい。
……セイン殿下も寂しいと思ってくださったのね。とても嬉しいわ!
撫でてくれていた指に抱きつき、スリスリと頬擦りする。こそばゆいような気がしたが、嬉しい気持ちが勝っていた。
「じゃあ、今晩も一緒に寝てくれるってことでいいかな?」
私の行動を見てクスっと笑い、もう片方の手のひらを出してくれる。私はピョンと乗り、目的の場所まで連れて行ってもらう。
いつものように「おやすみ」と声をかけられ、すぐに眠るセイン。
「ちゅちゅう(おやすみなさい)」
眠るセインの頬にそっとキスをし、私も眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます