第12話 眩しい朝、新しい生活、逃走
空腹を水飲み場の水で耐え、少し高い場所……私からしたらだが、周りを見渡せる場所で現在地の確認をしていく。
静かな朝の街は初めて見るもの。昨夜の真っ暗闇から一変、街は朝日を浴び、キラキラと光り輝いているように見える。
今は、まだ、日が昇ったばかりなので、人通りも少ないが、このまま、ここにいたら、馬車に踏みつぶされたり、猫に追いかけまわされたりするかもしれない。人が活動する時間帯は私にとって、とても危険であることが予想された。
屋敷へ戻ることを最優先に考えてみたものの、今の私では、何ヶ月もかかりそうな旅を考え、どこかで食糧の調達をすることを考えた。
……水と食料確保は必須ね。どうやって持ち運ぶかも含め、考えないといけないわ。旅をするにも、いつも準備をしてもらっていたから、その大変さも知らなかったわ。
たくさん飲んだ水で膨れたお腹を見た。触れば伝わってくる水の揺れに反省をする。
……ちょっと、飲みすぎたみたいね。
ため息をつきながら、視線を上げると、学園から1番近い王宮が目についた。人間であったときも、高い城門だと思っていたが、この小さな体になれば、さらに高く、全く上が見えない。
……高いわねぇ。まずは、お城を目指しましょう。屋敷へ戻るまでに、空腹をなんとかしなきゃ。お城に行けば、私が食べられるものが、何かあるかもしれないわ!
近いとはいえ、ネズミの体。道の隅を警戒しながら、城を目指していった。空腹に耐えながら、必死に駆け、太陽が真ん中に来るころ、城門前まで辿り着く。
……いつもなら、馬車で通るところだけど。今日は、こっそり通ります。
そっと門兵の横を通りすぎる。チラチラと門兵を見ながら、気付かれないかとヒヤヒヤした。門兵からしたら、小さな私は検問対象外であるし気にもされておらず、眼中にもないだろう。コソコソっと城門を抜け、王宮へと駆けて行く。
……馬車であっと言う間についてしまうのに、王宮まで私の足だと本当に遠いわ!
城門から王宮へ向かうにも距離がある。馬車で5分とかからないはずが、王宮の入口すら見えてこない。
太陽の位置を確認したら、ちょうど学園の授業が終わるころだろう。
……学園では、私がいなくなったことで騒ぎになっていたりしているのかしら? こんな時期に、なんてことに。それに……こんな姿、情けなくて。いくら今の私がネズミだったとしても、心まではネズミではないのよ。辛くないはずはないの。
今頃、学園にいるはずの私が、盗賊のようにコソコソと王宮へ食糧を盗みにいくことになるとは思いもよらず、情けなくなってきた。
それでも背に腹は代えられない。お腹が減りすぎて、それも気持ちが沈む要素なのだろう。ほんのり香る昼食の匂いにつられ、食堂があるところへと急いだ。
駆けて行くと、王宮の外廊下に着いたようだ。やっとの思いで、王宮に着いたことに少々安堵する。すみの方をとにかく目立たないように食材を扱うであろう調理場を探して駆けていく。前を見て、コソコソと……。
「キャーっ! ネズミ、ネズミよ! 誰か、誰か来て! 駆除、手伝ってちょうだい! 早くっ! 逃げちゃうわ!」
突然のメイドの金切り声に驚き、振り返った。すぐに数名のメイドたちが、私を駆除しようと集まってくる。
……大変っ! 見つかってしまったわ! 早く、逃げなきゃっ!
ほうきやはたきを持った数名のメイドが目を吊り上げ、私を追いかけ回る。時々、ほうきやはたきが真後ろの廊下をたたき、風が来るのを感じ、冷や汗が止まらない。捕まったら、命はないだろう。慌てて、あちこちをジグザグと逃げ回る。必死に駆けているため、王宮のどこを走っているのか、もうわからない。
とにかく命の危機であることだけはわかったので、メイドから逃げきることだけを考えた。
だから、前を見ていなかった。とにかく前へ前へと必死に逃げていたから。
「待てぇー!」の声に怯え、さらに早く逃げようとしていたら、ドンっと何かにぶつかった。
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