第49話 迷宮防衛戦線 上
地下迷宮の広大な空洞には大岩がゴロゴロしている。その大岩の影に、冒険者たちが潜んで長安を包囲していた。
「他の連中はどうした? あんた一人って訳じゃないだろ?」
長安は言う。
「さあな。言うと思うか? それよりも
「はっ。政府の片棒を担いで、俺達をカウンセラーシティに縛り付けている奴が教師面か?」
「私は私なりに信念があって、教師の道を選んだ。政府の思惑や政治的な話なんぞ知るか」
「だったら、ごちゃごちゃ邪魔しに来てるんじゃねえぞ」
「それが教師に向かって言う言葉か? 長安。お前を捕獲する緊急クエストが出たんだ。放ってはおけない。取り返しが付かない事になる前に、私と戻ろう」
「くだらねえ。あんたは俺よりも弱い。そして俺達には力が全て。異世界に転移した時からそうだろ? 弱いあんたをどうして教師と認めるんだ? ナーロッパ能力者さんよお」
長安に言われ、
暫しの沈黙を破るように、岩陰から、
「ねえ。話が逸れたみたいだから、ボクが代わりに話すよ」
言いながら、
「ねえ。
家理亜は問う。
「ああ。一人でもぶっ壊せるさ。相手がただの国や人間ならな。けど、どうせ邪魔するんだろ? 正義ずらした能力者連中がよ。だったら、お前らの相手を用意してやる必要がある」
「ふうん。それでダークボールを盗んだのか。で、長安君は結局、どうしたいのさ? モンスターを解き放って世界を滅ぼしたいの?」
「そんな事してどうする。俺が欲しいのは自由。それだけだ」
「つまり、自由に好き勝手やる権力が欲しいのかな? 目的は破壊じゃなくて、力による支配とか、統治とか、既得権益って訳だね。もしも上手くいったら、皆を支配して、言う事を聞かせてどんな世界を作るの?」
「あ? 何を言ってるんだ」
「あれ。もしかして、何も考えていなかったの? なんのビジョンも無しに、ただ、支配者の椅子に座りたいだけなの?」
「……何がおかしい?」
「だっておかしいじゃないか。キミたち不良にだって、不良なりのプライドとか矜持があると思ってたのに。統治? 既得権益だって? おまけに、なんのビジョンも信念もない。それじゃあ、キミたちが一番嫌ってる汚い大人達と一緒じゃないか。あはは。長安君。キミも結局はそっち側だったんだね。くっだらない!」
「そろそろ黙れよ。徳川。殺すぞ」
長安の目に、鋭い物が宿る。
「徳川。そこまでだ。
凪子先生が、ずい、と踏み出して、長刀を構える。
「俺を殺さず捉えるつもりか? 舐めやがって。やってみろよ」
長安は言いながら、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「させるかよ!」
岩陰から、
だが……。
ドスリと、矢が、地面に突き刺さる。その瞬間に、貫かれた筈の長安が、煙のように消えてしまった。
「こっちだよ。間抜け」
直江の側の岩陰から、
「う。やば。うおおお!」
直江は対抗して、魔法矢を高速連射する。しかし、投げられたパチンコ玉が多過ぎた。二つの鉄球が魔法矢の迎撃を抜け、直江の目の前の岩にぶち当たる。
ドゴオオオオンッ!
轟音を響かせて、パチンコ玉が爆発する。爆炎で、直江兼倉の姿は見当たらなくなった。
それと前後して、長安の背後には
「やっ!」
と、
ふいに、才華は危険を察知して、素早く後方に飛ぶ。
その瞬間、長安がいた地点が、ドオオオン! と、爆炎を上げる。
「皆、聴いてほしいの。多分、これは幻術の類なの。本願寺は変身能力者の力を借りて
才華が叫ぶ。そこに、ふわりとパチンコ玉が降り注ぐ。
「え……?」
才華の顔が青ざめる。
爆炎と閃光。そして、仲間たちの叫び声。それを嘲笑うかのように、少し離れた岩の上に、長安が駆け上がる。
やがて、じわじわと煙が晴れる。すると、そこには傘ぐらいの大きさの、円形の盾があった。才華は盾に守られて、ほぼ無傷だった。
「なんだと……?」
呟いた
ふわりと、盾が変形して、魚の形へと戻る。魚は、真っ暗な天井へと泳いでいった。
「くそ。本体は何処に居やがるんだよ?」
その瞬間、ドオオオン! と、斎藤の足元が爆炎を上げる。
「さ、斎藤君!」
才華が顔を青くして振り返る。
「心配するな。俺に超能力は効かねえ……」
炎の中から声がして、斎藤がゆらりと歩み出る。
斎藤は、爆発の直撃を受けても全くの無傷だった。【魔法耐性S】のスキルが機能したのだ。だが、その斎藤でさえ、三好長安の本当の居場所を察知できずにいる。
「だったらなんだ? 斉藤。やろうと思えば大陸ぐらいならぶっ飛ばせる爆弾なんだぜ? このダンジョンを崩落させれば、お前は助からねえ」
斎藤の背後から声がする。斎藤は、咄嗟に裏拳を振り抜くが、その攻撃もまた、空を切る。またしても、三好長安の幻がかき消えただけだった。
長安の幻は、広場の至る所に、一斉に現れた。
「本物どーれだ?」
沢山の長安が、ニヤケ顔を浮かべる。
そして一斉に、戦いが始まる。
だが、冒険者たちがどれだけ攻撃を仕掛けても、本物の
それだけではない。
幻影の長安の攻撃には、たまに本物の爆弾攻撃が混ざっているのだ。
「これは……流石に気持ち悪いな。増えるのが女ならともかく、むっさい野郎じゃテンション下がるぜ」
斎藤が、冷や汗と共に愚痴る。
「今頃ビビっても遅いぜ。お前らは全員死ぬ。誰も生かして返さねえ」
長安が勝ち誇る。
「いいや。
ふいに、家理亜が言い放つ。
次の瞬間、大勢いた三好長安の姿が、一斉にかき消えた。たった一つの本体だけを残して……。
「な……にが?」
長安は状況を呑み込めず、困惑する。
「長安! いつの間にか私の姿が無かった事に、気が付かなかったのか?」
長安が目をやると、凪子先生は、とある女子生徒を肩に担いでいた。
「こいつの超能力の発動条件は、幻覚を見せる相手を目視しておく事。なんだろ? 目隠しをして縛り上げれば、能力を封じる事が出来る」
凪子先生が不敵に髪をかき上げる。
「どうして、そいつの居場所が分かった? 幻術で身を隠していた筈だ」
「忘れたのか? 私には【敵性生物感知】のスキルがある。ナーロッパ能力者だからと侮ったお前の負けだ! 潔く投降しろ」
「ふざ、けるな……」
「長安!」
「ふざけるなよおおおっ!」
長安は怒声を放ち、手をポケットへと突っ込んだ。
刹那──。
真上から、
「ぐ、あっ……!」
長安がよろめいた隙に、緋碧の魚は形状を網状に変化させ、一瞬で、長安を包み込んで拘束してしまった。
「どうやら、頭脳戦ではこちらに軍配が上がったみたいだね……」
穏やかで、冷徹な声が響く。
長安の真上、空洞の暗がりから、
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