第37話 シャングリラ能力者の王 上



 ★ ★ ★



 チーム織田の試合から一◯分後。

 幸人は選手控室で、資料を前に頭を悩ませていた。まだ、チーム織田の戦いの余韻が、背中にまとわりついている気がした。


 否、今考えるべきは織田の事ではない。一時間後に戦う、チーム北条の対策を練らなければ……。

 幸人は頭を振り、資料へと目を落とした。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 資料№4

 シャングリラ帰還者の超能力について。


 シャングリラからの帰還者に関しては、あまりその能力が明らかになっていない。国や学校は能力の申請を推奨しているが、黙秘する者が多い。申請しても正確な能力や、その限界を誤魔化している場合が多い。


 シャングリラ能力は一人につき一能力とされる。そのかわり、能力自体は至極強力である。ナーロッパ帰還者のスキルや魔法と似た能力である場合、その限界値は超能力者の方が高い傾向にある。簡単に言うと、攻撃的な超能力を持つ者は、全員が、世界を滅ぼす力を持っている。と、考えて差し支えない。



 申請があった能力について。


 念動力

 透視能力

 飛行

 パイロキネシス

 テレパシー(使い手が病死)

 物体召喚

 バリアー

 予知夢

 液体の操作

 電気を発生させる

 ドッペルゲンガー

 記憶を消す(使い手が入院中)

 衝撃波を飛ばす

 コピーを作る

 壁抜け

 幻覚を見せる

 触れた物の性能を上げる



 未申請だが目撃証言があり、実在すると思われる能力。


 テレポーテーション

 触れたものの大きさを変える

 魅了

 サイコメトリー

 見た相手の動きを止める。

 身体強化



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 幸人は資料を読み終わり、思わず呼吸を止めた。

 、だって? しかも、使い手が入院中? これは一体、どういう事だ。試合が終わったらすぐにでも、病院に面会に行って事情を聞く必要がある……!

 幸人が考えを巡らせていると、テーブルに珈琲が置かれた。


「随分と怖い顔ですね……」

 池田せんりが、珈琲を置いて言う。


「あ。池田さん、ありがとう」


 幸人が言うと、せんりはクスリと微笑した。


「私の事は、せんりって、呼び捨てで良いですよ」

「あ、でも、なんか馴れ馴れしくないかな……」

「だって真田さん、さっき、私のパンツ見たでしょ?」


 せんりはモジモジと、顔を赤らめて言う。

 さっき? もしかして、チーム風魔との試合の時の事を言っているのかな? だとしたら、ああ、見たよ。鋼鉄タングステン製の巨大なパンツをね! 見たけど、その直後にもっと凄い光景を目にして、エロい感動なんて一瞬で吹き飛んだけどね!

 とは言えず、幸人は苦笑いを返すに留めた。


「もう。本当ならお仕置きですよ? でも、特別に許してあげます。真田さんは本願寺を捕まえてくれましたし。私、凄く感謝してるんです」

「そ、そう……。許してくれてありがとう」


 幸人はせんりに許されて、心底、胸を撫で下ろす。そこに、ドアをノックする音が響く。

 せんりがドアから顔を出す。訪ねて来たのは霧隠きりがくれ才華さいかだった。


「霧隠さん、どうしたの?」

「その、チーム明智のお役に立ちたくて、その……」


 せんりは才華さいかと言葉を交わす。才華は、部屋に通されて椅子に腰かけた。幸人は、資料を置いて才華の顔に目をやる。


「まだ恩義とかつぐないとか、そんな事を考えているのかな?」

「そ、それはその……。でも、真田様には感謝しているんです」

「その、真田様ってやめない?」

「じゃあ、真田……さん」

「さん? 僕と霧隠さんは対等だよ」

「真田……君?」

「うん。それで、どうしたの?」

「その、私は情報を集めるのが得意で、その、これを……」


 才華は、一枚の紙を差し出した。

 幸人は、才華さいかが差し出した資料を目にして顔色を変える。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 霧隠才華の資料 No.1


 チーム北条の構成及び能力について。

 チーム北条は、リーダーの北条ほうじょう康氏やすうじ以外、全員が女子生徒で構成されます。全員が、シャングリラ能力者です。


 リーダー。北条ほうじょう康氏やすうじ

 北条廉氏はとても女子生徒から人気があります。風魔小次郎も、北条康氏とは仲が良いです。

 康氏やすうじは決闘を行わず、超能力を使った目撃証言もないです。にもかかわらず、チームメンバーは異常なまでの忠誠を誓っています。【魅了】能力を持っている可能性が疑われます。

 武装は主に銃火器の類です。


 サブリーダー。松田まつだ憲子のりこ

 主な武装は軽機関銃です。

 能力・松田憲子の銃撃は何故か弾切れせず、銃身が焼ける事もないです。二挺のサブマシンガンを無限連射します。二週間ほど前、上杉うえすぎ謙鋼けんこうと決闘して負かした事があるそうです。


 メンバー。安藤あんどう良江よしえ

 主な武装は機関銃です。

 能力・触れた物の性能を上昇させます。銃火器の場合は弾丸の威力が増し、連射速度や飛距離、精度が上昇します。触れてから一時間程は効果が持続するようです。


 メンバー。上田うえだ朝子あさこ

 主な武装は軍用散弾銃です。

 能力・バリアーを張ります。バリアーは球、又はドーム状で、チームを丸々守れるぐらいの大きさにできます。一度バリアーを張られてしまうと物理攻撃、魔法攻撃は効かなくなります。それでいて、向こうからの攻撃はバリアーをすり抜けるという、反則的な能力です。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 資料には、才華の字で、チーム北条の情報が書き連ねられていた。


 幸人は資料を読みながら、戦いをイメージしてみる。

 チーム北条が、バリアーでガチガチに守った状態で、一方的に高火力の銃弾を無限に打ち込んで来る。そんな戦法が予想された。


 ひかりの水の剣は対抗できるだろうか? 否、無理だ。

 せんりのアースアーマーで、バリアーを破壊できるだろうか? 否、無理だ……。

 曲がりなりにも、シャングリラ能力によるバリアーだ。上杉のランクSライトウェポンでさえ、切れない可能性が高い。


 異常なまでに完成された戦法だ。誰が相手でもこの戦法だけで勝ち抜く。そんな哲学すら感じられる。

 もしかしたら、チーム北条には、秀実ひでみの、最速の衝撃波も通じないかもしれない。バリアーは、攻撃に対処する為に張る物だ。対処が遅かったら話にならない。そして、このチームには、織田も勝てないだろう。能力の相性が悪すぎる──。

 流石の幸人も、勝算を見い出せずにいた。


「あの、やっぱり、勝つのは難しそうですか?」

 霧隠きりがくれ才華さいかが、沈んだ声で言う。


「いいや。情報をくれて凄く助かったよ。君の資料がなければ、僕等の負けは確定していただろう」


 幸人はそう言って、ぐっと、才華さいかの手を握る。すると、才華は顔を赤らめて微笑する。


「お、お役に立てて良かったの。まだ、他に出来る事があったら何でも言ってください。私、真田様……真田君の役に立ちたいんです」

「あ、ありがとう。でも、僕らは君に何もお返し出来ないよ?」

「い、良いの。私が役に立ちたいんですから」

「そう。それなら……」


 幸人は椅子から腰を上げ、才華に手招きした。


 ★


 三分後。

 幸人は控室にひかり秀実ひでみを呼び戻し、部屋にはチーム明智の面々が揃った。


「皆に提案があるんだけど」

 幸人が口を開く。


「何よ? こっちは情報収集に必死だったっていうのに。チーム北条の情報がろくに集まらなくて大変な状況なのよ。解ってる?」

 光は不満気に言う。


 そこで、幸人は才華から貰った資料を、テーブルに差し出した。すると光は資料に目を落とし、顔色を変える。


「……凄い! あたし達が聞き込みをしてみても、ろくに情報が集まらなかったのに」

「霧隠さんが情報を提供してくれたんだ」


 幸人が言う。すると、仲間達の目が、一斉に才華へと集まる。


「あ、その、あの……」

 才華は赤面して言葉に詰まる。


「で、提案の内容なんだけど、霧隠さんを、チームにスカウトしたいんだよね」

「あ。それ、良いっすね。チーム明智には情報力が不足してるっす。短時間でこれだけの情報を集められる人は貴重っす」

「私も賛成です。霧隠さんの存在は、私達の切り札になるかもしれません」

「そうね。あたしとしても、是非欲しい人材だわ。でも、もしチームに入れるとなると、霧隠さんは補欠という扱いになると思うんだけど……それでも力を貸してくれる?」


 幸人の提案に、仲間達は口々に賛同する。そして、光の不安気な問いかけに、才華の表情がぱあっと、明るくなる。


「その、私なんかで良いんですか? 補欠でも構いません。これで少しでも、償い……お役に立てるなら!」


「じゃあ、決まりだね。霧隠さんは今から僕達の仲間だ!」

「わあ。よろしくっす。さっきは変な縛り方してゴメンっす」

「才華さん、これ、私が作ったポーションです。いっぱいあげますね!」

「よろしくね、才華ちゃん。あたしの事は光って呼んでね」

「はい。ありがとうございます。頑張ります!」


 才華はぺこりとお辞儀をして、顔を上げる。

 目に、薄く涙が滲んでいた。

 こうして、チーム明智に霧隠才華が加わった。




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