第28話 ブリーフィングと戦いと 上






 幸人ゆきとは光の案内で教室へ行き、そこで、羽柴はしば秀実ひでみと池田せんりの二人と合流した。


「さ、真田様! 聞いたっすよ。昨日、あの本願寺ほんがんじをやっつけたんすよね」

 秀実ひでみが、興奮して言う。


「えっと、色々あって。それよりもその情報、何処で?」

「学校のネット掲示板っすよ! 誰かが難易度が高いクエストを達成したら、その情報が掲載されるっす。本願寺逮捕のクエストは、皆、怖がって受けなかったんすよ。凄いっす!」

「そういえば、治安維持局の人がクエストがどうとか言ってたな。じゃあ、あれで、クエストをクリアーした事になってるのか」

「それよりも幸人。当然、本願寺や徳川さんからは、何か情報を引き出したんでしょうね?」


 ひかりが、話に割って入る。すると、幸人の額に、薄く汗が浮かぶ。


「ああ、それなんだけど……特に重要な情報は得られなくて。あ、そういえば徳川さんは戦えないっぽかったから、戦闘向きじゃない能力の持ち主なんじゃないかな? 多分、チーム織田のバックアッパーだと思うけど」

「は? そんな事はみんな知ってるわよ。危険な思いをするのなら、次からは、何か報酬を持って帰りなさい。幸人の命は軽くないんだから!」


 と、光は幸人の胸をポスっ、と叩く。そして「バカ……」と、小さく呟いた。

 ガラリと、教室の扉が開き、担任の女教師が入って来た。途端に、教室の生徒達が静まりかえる。


「全員集まったな、ひよっこども! 今日から、待ちに待った対抗戦が始まるぞ。授業が休みで嬉しいか? だが、そう思っていられるのも今の内だ。さあ、すぐに闘技場へ移動しろ!」


 女教師が声を張る。すると教室の生徒達が、ぞろぞろと移動を開始した。



 ★



 移動中、廊下で、光が幸人の耳元に口を寄せる。


「ねえ幸人。第一回戦の相手はナーロッパ能力者のチームよ。ちゃんと、ナーロッパの魔法について、予習してきた?」

「勿論」

「へえ。じゃあ、せんりちゃんのアースアーマーの効果について、あたしに説明してみなさい」


 光に言われ、幸人は記憶を紐解いた。


 ★


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 資料№3

 ナーロッパの魔法について。


 ナーロッパにおける魔法は、冒険者であっても素養が無ければ習得できない。素養があれば、固有属性に即した魔法を覚える事が出来る。


 魔法は、基本的には一人一属性まで。魔法をいくつ習得しているかは、使い手の練度によってまちまちである。同じ魔法でもランクによって、威力、効果が増減する。

 ランクは、SからFまで。

 最高のSランク魔法は、人間では習得不可能とまで言われる。実際にはSランク魔法の使い手も数名いるが、極めて希少である。

 また、無属性魔法は精霊の力を借りず、術者の魔力のみで行使する。したがって、威力や性能では属性魔法に劣る。


 火属性

 ファイアーボール(攻撃魔法)

 ファイアウェポン(属性武器を出す)

 ファイアー (ただ火を出す)

 ファイアサーバント(火の精霊を召喚)

 ファイアウォール(火のバリアー)

 ファイアエンチャント(攻撃力上昇)


 水属性

 ウォータービーム(攻撃魔法)

 ウォーターウェポン(属性武器を出す)

 ウォーター (ただ水を出す)

 ウォーターサーバント(水の精霊を召喚)

 ウォーターヒール(回復魔法・怪我、病気・状態異常)

 ウォーターエンチャント(持続回復魔法)


 風属性

 エアカッター(攻撃魔法)

 エアウェポン(属性武器を出す)

 エアー (ただ風を吹かす)

 エアリアルサーバント(風の精霊を召喚)

 エアウィング(飛行する)

 エアーエンチャント(素早さ上昇)


 土属性

 アースバレット(攻撃魔法)

 アースウェポン(属性武器を出す)

 アース (ただ土や砂を出す)

 アースサーバント(地の精霊を召喚)

 アースアーマー(鉱石の鎧を纏う)

 アースエンチャント(防御力上昇)


 光属性

 ライトアロー(攻撃魔法)

 ライトウェポン(属性武器を出す)

 ライト (光を発生させる)

 ライトサーバント(光の精霊を召喚)

 ライトヒール(悪霊浄化及び回復魔法・怪我、病気)

 ライトエンチャント(全パラメータ上昇)


 闇属性

 ダークアロー(攻撃魔法)

 ダークウェポン(属性武器を出す)

 ダーク (闇を発生させる)

 ダークサーバント(闇の精霊を召喚)

 ダークドレイン(生命力を吸い取る)

 ダークエンチャント(ドレイン効果付与)


 無属性

 マジックミサイル(攻撃魔法)

 マジックウェポン(無属性武器を出す)

 マジックバリアー(魔法障壁を発生)

 マジック・アストラル(幽体離脱する)

 マジック・オブ・カース(対象を呪う)

 マジックソング(自身及び味方を強化)

 マジックヒール(回復魔法・怪我、状態異常)

 マジックブレス(魔法の効果時間を延長)



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ★


 幸人は資料を思い出し、光に微笑を向ける。


「確か、アースアーマーの効果は『地属性の鎧を纏う』だったね。でもどうして、この魔法が僕等の切り札になるのかな?」

「ふふ。甘いわね。アースアーマーはね、鎧を纏うとはいうけれど、その鎧が凄いのよ。あれは最早……いいえ、見てのお楽しみ。って事にした方が面白いわね」


 光は幸人に言って、軽くウインクをした。



 ★ ★ ★



 幸人ゆきとたちは闘技場に整列して、開会の挨拶を聞いた。

 優勝候補の武田たけだが宣誓の言葉を述べ、各チームは、それぞれの待機エリアへと移動する。幸人たちも、待機エリアで作戦会議を始めた。


「あたし達の強みは速さ。それと、全員がアタッカーとして機能する事よ」

 光が言う。


「全員がアタッカー? 池田さんはバックアッパーだよね」

 幸人が疑問を口にする。


「ええ。あくまでも肩書は、ね。でも、アースアーマーを纏ったせんりちゃんは、チーム最大のアタッカーになるの。そうよね?」


 と、光は池田せんりに視線をやる。せんりは少し緊張した面持ちで、苦笑いを返す。


「光さんを差し置いて最大と言えるかは疑問ですけど、頑張ります!」


 せんりは明るく言う。その顔からは、前日までの暗さみたいな物が、消えていた。


「それから、全員がアタッカーたり得る理由はね、幸人。貴方よ」


 光に言われ、幸人は少々首を傾げる。


「幸人って、異常に悪知恵がはたら……頭が切れるじゃない? 本来バックアッパーが果たすべき分析や司令塔の役割を、幸人がこなせるのよ」

「光。言いかけたら最後まで言いなよ。悪知恵……ね。成程」

「まあ、気にしないで。そういう訳で、幸人にはチームの参謀役を務めて貰うわ。あたし達は幸人のアイデアに従って戦う。みんな良いわね?」


 光の声に、秀実とせんりが頷いた。


 ★


 一分後、幸人は、せんりが集めて来た資料を前に、作戦を練っていた。

 トーナメント参加チームは全部で三二。本日中に三回戦までを行い、ベスト四が決まる。それから一日の休みを挟んで、明後日に、準決勝と決勝戦が行われる。その様子は、テレビで日本中に放送されるらしい。


 資料には、一回戦で当たるチーム上杉の情報が書き記されていた。その情報は、せんりが、アースサーバントの魔法を使って集めた物だ。


 チーム上杉は弓矢に特化した、射手アーチャーたちのチーム。しかも、全員がナーロッパ能力者。

 チームリーダーの上杉うえすぎ兼鋼けんこうは、剣、刀、双剣、盾使用術のスキルランクがB。剣士としてチームの切り札の役割を果たす。

 続くメンバーは、サブリーダーの直江なおえ兼倉かねくらを筆頭に、全員が弓、砲術スキルに優れている。特に直江兼倉は【速射】というチートスキルを持っているらしい。武装は【エルヴンボウ】。マジックアイテムだ。つまり、チーム明智と同じで、全員がアタッカーとして機能するチームである。


 対するチーム明智の戦力は、

 幸人が、近接戦闘主体のメインアタッカー。

 光が、攻めて良し、守って良しのオールラウンダー。

 秀実が、援護向きの支援型アタッカー。

 せんりは、詠唱時間に難がある物の、その魔法はチームの切り札として機能する。


「これは、始まった瞬間にぶっ放し合いになるね。光には、まずはチームの防御を担当してもらって、それから……」


 幸人は作戦を決め、光たちに伝え終える。それからやがて、呼び出しのアナウンスが流れる。


「いよいよね……」


 光が言い、仲間達の顔に緊張が浮かぶ。


「ああ。相手は優勝候補らしいけど、攻めて攻めて攻め勝つよ。怖気づいたら負け。それが、僕らだ」


 幸人はそう言って、手を差し出す。そこへ光と秀実とせんりも手を重ねる。


「ビビるな攻めろ!」

「おおおおおっ!」


 四人は、頷き合って掛け声を上げた。



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