第24話 明智光の戦術論 下




 ★ ★ ★



 時計の針が、午後一時を回った。

 幸人ゆきとひかりは一度帰宅して、今度は修練場へと集まった。そこには既に、羽柴はしば秀実ひでみと池田せんりの姿があった。


「集まったわね。明日から対抗戦が始まるから、今日中に作戦を練ったり、連携の練習をしておきましょう」

 光が皆に声をかける。


「はいっす。頑張るっす」

「うん。まずは明かせる範囲で良いから、各々の能力を再確認しよう」


 秀実と幸人は明るく言い、せんりは静かに、闘志をたぎらせている。


「そうね。じゃあ、まずは全員の実力を見たいから、まとめてかかって来なさい……」


 光が言い放つ、その傍らに、水が集まって来た。水は、開け放たれた窓からどんどん集まり、大きな塊を形成する。やがて水の塊は渦を巻き、大きな龍へと形を変える。


「行くわよ!」

 言い放ち、光が腕を振る。すると龍が身をくねらせながら、幸人たちへと襲い掛かった!



 ★



 五分後、秀実と幸人は床に這いつくばって息を荒げ、せんりは水のロープで縛られて藻掻いていた。


「光さん……強過ぎっす。ちょっと勝てる気がしないっす」

「ああ。驚いた。光が味方で良かったよ」

 秀実と幸人が言う。


「いいえ。あたしも驚いてるわよ。特に幸人。貴方の速さと鋭さはこのチームの強力な武器になる。でも、やっぱり素手では限界があるわね。水や気体の攻撃に対処できないのは仕方ないとして、攻撃力に不安が残る。後で武器を捜しに行きましょう」

 光は涼しい顔で言い、今度は秀実に視線を向ける。

「それから秀実ちゃん、流石ね。貴女の衝撃波の速さにはあたしも対処できなかった。多分、チーム織田でさえ対処できないでしょうね。ただ、火力不足は否めないし、能力使用後のインターバルの長さも気になる。接近戦対策も考える必要があるわね。せんりちゃんについては、最も怖い能力を持っているから最初に無力化させて貰った。詠唱時間の長さが気になるけど、それはせんりちゃんの責任じゃない。切り札を守りきれなかった幸人と秀実ちゃんの問題よ」


 光は、せんりを縛る水のロープを解除する。するとせんりも床に這いつくばり、暫く息を荒げた。


「でも、見えてきたわね。あたし達の強みは『継戦能力の高さ』よ。秀実ちゃんから幸人、あたしと、順番に攻めて攻めて相手を圧倒し続ける。そして、切り札にはせんりちゃんの魔法が機能する。怖気づいたら負け。それだけは覚えておいて」


 光は言い終わり、やっと微笑を浮かべた。



 ★



 チーム明智の面々は、模擬戦を終えて購買部へと向かった。


「購買部が日曜も営業してて、助かったっす」

 言いながら、秀実が購買部の扉を開ける。


 購買部に置かれた品々を見て、幸人の顔に驚きが浮かんだ。


「こ、これは……ちょっとここ、法律どうなってるの?」


 幸人は思わず言う。部屋の中に、銃火器の類が陳列ちんれつされていたからだ。

 購買部の壁やガラスケースの中に、拳銃に狙撃銃に重機関銃まで、ありとあらゆる兵器が所狭しと並べられている。流石に戦車は置かれていないが、小型のロケットランチャーや、手榴弾てりゅうだんまでもが置かれていた。


「カウンセラーシティではね、通常兵器であれば武装が許可されているのよ。戦闘向きじゃない能力者の護身用って配慮も兼ねて、ね。まあ、歩く大量破壊兵器みたいな連中がゴロゴロしてるから、多少武装してもたかが知れてるけど。ただ、能力との相性が良ければ切り札にもなり得るし、弱点を補ってもくれる」


 光の説明を聞き、幸人は少しだけ腑に落ちた。実際、織田おだひかりのように規格外の能力の持ち主に対しては、通常兵器はあまり役に立たないだろう。それに、光から聞いた話によると、カウンセラーシティでは非能力者も生活しているらしい。非能力者にしてみれば、何の武装も無しに大量破壊兵器みたいな連中と生活するのは無理。と、いう事なのだろう。


「成程ね。ただ、僕は重火器の類はあまり好きじゃないんだよね」

 幸人は少し、顔を曇らせる。


「そういうと思った。ついて来なさい」

 光は、幸人たちを購買部の奥へと促した。


 購買部の奥には、刀剣や弓矢等、異世界御用達の兵器も多数、置かれていた。


「ねえ」

 光が、カウンターの購買部員に声をかける。


「はい」

「マジックアイテムはどれ? 魔力を必要とせず、シャングリラ能力者でも扱える物が良いんだけど」

「だったら、今はこの四つですね」


 購買部員の女子生徒は、カウンターに、四つの武器を並べた。

 一つは、ぴこぴこハンマーぐらいの大きさのハンマー。次に大型の両手剣。次に、長い金属製の棒。最後に、一五センチぐらいの、細い針状の物体。


「まず、ハンマーは『豊臣とよとみのハンマー』です。凄く頑丈で、羽のようにに軽いです。それでいて、同じ大きさの金属製ハンマーと同等の威力を発揮します。大剣は『オークバスター』。オークやオーガ、ゴブリンに対して攻撃力が倍になります。長い棒は『基幹棒きかんぼうボクサツ君』。とにかく頑丈で、魔法や超能力でも破壊できません。針状の武器は『昏倒こんとうの針』です。これで刺された人が眠くなります。魔力がある人が使えば刺した相手を一瞬で昏倒こんとうさせられますが、なくても多少は眠くなります」


 説明を聞き終わり、光は小さく溜息を吐く。


「なんかどれもショボいわね」

「一般人でも使えるマジックアイテムですから」


 光と購買部員の少女が言い合う横で、秀実ひでみが『豊臣とよとみのハンマー』に手を伸ばす。


「自分、これが良いっす。軽いし、接近された時の護身用になりますし」

「でも秀実ちゃん、それで良いの? 普通の金槌持ってるのと変わらないわよ」

 光は言う。


「良いんす。対抗戦ではアバターを使うけど、それでも、銃は持ちたくないっすから」

「そう。秀実ちゃんのそういうところ、好きよ。で、幸人は当然、棒にするんでしょ?」

「うん。当然、ね」


 言いながら、幸人は棒を手にして軽く回してみる。

 棒の長さは一九〇センチぐらい。金属的な見た目の割には軽く、とても幸人の手に馴染んだ。その背中で、ゴソリと、リュックが動く。


『ご、ご主人しゃま。カレンも何か欲しいでしゅ』

 カレンが、リュックから幸人に囁く。


 幸人は暫し思案して、針状の武器を手に取る。針は一五センチ程度だ。妖精のカレンでも扱えそうな大きさではある。


「これも欲しいな」

 幸人は言う。


「そんな物持って何するの?」

 光は疑問を口にする。


「たまに寝つきが悪い時があるからね。今夜も、しっかり寝ておきたいんだ」


 幸人はそんな風に誤魔化して、昏倒の針を購入する事にした。


「で、せんりちゃんは何が欲しいっすか?」

 秀実が言う。


「私はマシンガンにします」

「マシンガン? 確かにせんりちゃんは攻撃魔法を持たないけど、どうして?」

 光が問う。


「私は詠唱中は役立たずですから」

「な、成程。でも、池田さんは役立たずじゃないと思うよ? 薬学、医療のスキルもあるし」

 幸人はせんりに言う。


「マシンガンにします。二挺にちょう買います! 絶対、マシンガンです!」

 言い張る池田せんりの眼は、軽く血走っていた。


 こうして、幸人たちはそれぞれ、武器と防具を購入した。

 ちなみに、購買部では、通貨ではなくポイントを使用して売買が行われる。ポイントは、主に決闘の勝敗やクエストの遂行、対抗戦のような学校主催の戦闘クエストにより、加算される仕組みになっている。

 幸人の所持ポイントは四八〇〇〇、光の所持ポイントは八〇〇〇〇ポイント程だった。購買部の支払いは全て光が行ったが、その時の合計は、七〇〇〇ポイント程度だった。


「光さん、恩に着ますっす」

「さんはいらない。光。昨日も言ったでしょ」

「だって、恐れ多いっす」


 光と秀実が言い合う横で、せんりが、ほの暗い微笑を浮かべている。

 せんりを見て、幸人に小さな不安が過る。そんな幸人の視線に気付き、せんりは慌てて視線を逸らした。



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