第21話 チーム明智、始動! 下
幸人は
ずっと前に、これと似たような経験をした事がある。何故かそんな気がする。
虐めっ子に絡まれる女の子。沸き上がる義憤。握りしめた拳と、少女の呻き声……。
それなのに、
(だ、だめっす。だめっすよ!)
秀実が小声で言う。
「どうして?」
幸人は問う。
「あの二人組、頭のネジが飛んでるって有名なんす。二人のバックには
「何を言ってるのさ。話をして引き下がって貰うだけだよ」
「駄目よ」
「……何故?」
「ここにはね、頭のおかしな人が多いのよ。あたし達は、精神が未熟な内に大きな力を手にして、やりたい放題できるようになった。やろうと思えばできてしまうの。その誘惑に勝てる人が何人いると思う? 普通の感覚や、心が壊れてしまった人は少なくない。あの二人はその典型ね。まず、話し合いにはならないわ。なにより、もしもあの二人が幸人を襲撃した人だったとしたら?」
「じゃあ、あの
「そうは言ってないわ。本願寺と繋がってる連中と事を構えるのはリスクが大きすぎる。やるからには絶対に顔を見られないようにする必要がある。奇襲をかけるしか選択肢がないの」
「二人とも、落ち着くっす。助けるにしても作戦を練らなきゃっす……」
秀実が割って入る。だが、幸人はやっと状況を理解した。
例えば、
だとしたら……。
幸人はこの事態を収める最善手に頭を巡らせる。
「ねえ。何か言いなよ。役立たずの子豚ちゃん。あんた、生まれてこない方が良かったんじゃない?」
言いながら、金髪の少女はハサミを取り出した。
「その人間みたいな髪型、ウザいわね。もっと可愛くしてあげる。ほんと、駄目な子豚ちゃんね」
金髪少女はハサミを小太りな少女の髪の毛に当てる。そしてゆっくりと、ハサミが閉じられようとした、その瞬間、
「うわあああっ! 許さんっす」
植え込みの陰から飛び出したのは、
幸人の集中力が極限まで高まる。その目に映る全てが、スローモーションだった。
ぐっと、秀実が両手をかざす。
ゆるりと、小柄な不良少女の首が動き、こちらを向きかける。その瞬間、小柄な少女が何かの衝撃を受け、ドン。と、後方へと吹っ飛ぶ。隣にいた金髪少女もまた、全く同じタイミングで後方へと吹っ飛んだ。
二人の不良少女が落下するよりも早く、光が持つペットボトルが破裂する。中の水が、細いロープへと姿を変えながら伸びる。水のロープは刹那の間に二人の不良少女を縛り上げてしまう。そして、二人の不良少女が、地面に落下する。
その直後、幸人が二人の不良少女の後頭部に手を伸ばし、地面に顔面を押し付ける。
二人の不良少女は、呼吸も、振り向く事も出来ず、脚をばたばたやって藻掻いた。
何もかも、ほんの一瞬の出来事だった。
「……どっちが瞬間移動を使う人かは知らないけど、縛られたり固定されたりしている時は、能力が使えないみたいだね」
酷く穏やかで、それでいて冷徹な幸人の声が、不良少女たちの耳に届く。
「ところで、僕は優しくない人が嫌いなんだ。見かけたら、殺してやりたくなるぐらいにね。君達は優しくないから、殺しちゃおうかな。ねえ。どう思う?」
幸人が金髪の不良少女の耳元で囁く。すると金髪は、地面に顔をくっつけたまま「ううう」と、恐怖の呻き声を上げる。
「ふうん。自分は誰かを踏みにじるくせに、自分が踏みにじられるのは嫌なのか。ますます気に入らないね。良いかい? 今度君達が道を外れる行いをしていたら、次は迷わずこの頭を粉々に砕くよ。いいね?」
幸人は、ぐっと手に力を込める。すると金髪少女の腰の辺りから、液体が染み出して地面へと広がった。
怖すぎて失禁したのだ。
「聞こえたのかあああっ!」
幸人が鋭い怒鳴り声を上げる。すると二人の不良少女はビクリとして、頭を「うんうん」と、動かした。
「じゃあ、これからは人に優しくしようね。約束だよ……」
言い残し、後頭部の手が、そっと離れる。
暫しの沈黙。
やがて、二人の不良少女を縛ってたロープがただの水に変わり、地面へと染み込む。
静寂の中、不良少女達はゆるりと身を起こし、恐る恐る振り返る。だが、そこには誰もいなかった。不良少女が虐めていた、小太りの少女の姿も消えていた。
★ ★ ★
一分後、
「あはは。あんなに怖がらなくても良いのに。幸人、やり過ぎよ」
「だって、なんか楽しくなって。僕、もしかするとちょっとだけ、悪い事が好きなのかも?」
「凄かったっす。真田様も光様も、凄かったっす。自分、尊敬するっす!」
「秀実ちゃんも凄かったわよ。まさか、真っ先に飛び出すなんて」
「だよね。結局は、秀実ちゃんが一番無鉄砲だったね。あんなに僕を止めてたのに」
「だ、だって我慢できなかったんすよ。あんなに酷い事言って……。あんな事、人様に言っちゃいけないんす」
三人は盛り上がる。小太りの少女はオロオロと、幸人たちの様子を見守っている。
「ところで、貴女はなんで虐められていたの?」
光が、小太りの女の子に声をかける。
「そ、その、私は、その、あの……」
突然声をかけられて、小太りの女の子は声を詰まらせる。
「お、落ち着くっす。自分はあんたさんの味方っす。ほら、ゆっくり息をして。辛かったすね。悔しかったすよね……」
と、秀実は小太りの少女の頭を撫でる。すると小太りの少女は、しくしく泣き出してしまった。
暫く話が出来そうにないと見るや、光は、
「え、ちょ、嘘……」
光が驚きを浮かべ、呟く。幸人も金縁眼鏡をかけて、小太りの女の子を見てみた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前
職業 魔導士 固有属性 土
HP 64 MP 128
筋力 19
耐久値 31
早さ 23
知性 77
精神 62
運 51
魅力 67
スキル
医療、薬学 C
杖、小型杖使用術 E
? D
魔法
アースウェポン(地属性武器を出す)C
アースアーマー(地属性鎧を纏う)B
アースサーバント(地属性精霊を召喚)D
備考
身長152 体重?
小学生の時に子役タレントとして活躍した。中学に入る頃には売れなくなり、引退。ストレスから過食症になり、体重が激増した。ナーロッパ転移後は過酷な冒険の日々で多少体重が落ちた。が、クラスメイトからは見下されて「子豚ちゃん」と仇名されている。
一歳上の兄がいたが、三年前に本願寺に刺されて他界している。池田せんりは本願寺を仇と狙い、対抗戦の
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幸人はアナライザーを外す。それと同時に、光が池田せんりの手を握る。
「ね、ねえせんりちゃん」
「は、はい……」
「対抗戦、あたしたちのチームに入らない?」
「え? でも、私、そんなに強くないですし、
「知ってる。でも、せんりちゃんのスキルや魔法は、このチームにとってどうしても必要な物が揃っているの。本願寺と事を構えるリスクを考慮して、尚、ね。ねえ、駄目かな?」
光に言われ、池田せんり暫し、思案する。そして……。
「わかりました。お役に立てるかはわかりませんが、あなたたちに受けた恩に報います」
せんりは言った。
「やった。ありがとう! これでやっと、四人揃ったわ。チーム真田の始動ね!」
浮かれる光の肩に、幸人がそっと手を置く。
「いや、チーム明智だよ。光が一番頑張ったんだから。それと池田さん。恩に報いるとか、そういうのはナシにしよう。僕らはもう、仲間なんだからね」
と、幸人は池田せんりと握手を交わす。
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