第21話 チーム明智、始動! 下





 幸人は既視感デジャヴを感じていた。

 ずっと前に、これと似たような経験をした事がある。何故かそんな気がする。

 虐めっ子に絡まれる女の子。沸き上がる義憤。握りしめた拳と、少女の呻き声……。


 それなのに、羽柴はしば秀実ひでみは必死に幸人を押しとどめている。押し留められている間にも、小太りの少女は罵られ、頬を引っ叩かれて尊厳を踏みにじられている。


(だ、だめっす。だめっすよ!)

 秀実が小声で言う。


「どうして?」

 幸人は問う。


 秀実ひでみは幸人の耳元に口を寄せる。


「あの二人組、頭のネジが飛んでるって有名なんす。二人のバックには本願寺ほんがんじっていうヤバい奴がいるから、目を付けられたら面倒な事になるっす。しかも二人ともシャングリラ能力者っすよ。ケバい化粧してる方は『見ただけで相手を動けなくする能力』があって、金髪の方は『瞬間移動テレポーテーション能力』を持ってるっす。二人同時に倒さないと、まず勝てないっすよ」

「何を言ってるのさ。話をして引き下がって貰うだけだよ」


「駄目よ」

 ひかりも幸人に言う。


「……何故?」

「ここにはね、頭のおかしな人が多いのよ。あたし達は、精神が未熟な内に大きな力を手にして、やりたい放題できるようになった。やろうと思えばできてしまうの。その誘惑に勝てる人が何人いると思う? 普通の感覚や、心が壊れてしまった人は少なくない。あの二人はその典型ね。まず、話し合いにはならないわ。なにより、もしもあの二人が幸人を襲撃した人だったとしたら?」

「じゃあ、あのを見捨てるのか?」

「そうは言ってないわ。本願寺と繋がってる連中と事を構えるのはリスクが大きすぎる。やるからには絶対に顔を見られないようにする必要がある。奇襲をかけるしか選択肢がないの」

「二人とも、落ち着くっす。助けるにしても作戦を練らなきゃっす……」


 秀実が割って入る。だが、幸人はやっと状況を理解した。


 例えば、幸人ゆきとが植え込みから飛び出して止めに入ったとする。その瞬間に見られて、動きを止められてアウト。顔も覚えられるだろう。では仮に、ひかりが植え込みの陰から水を操って二人を攻撃したとする。すると「見る」能力の女は制圧できるだろうが、瞬間移動をする女には逃げられる可能性が高い。そして逃げられたら、いつ、どのタイミングで背後から奇襲を受けるかわからない状況になる。と、いう事だ。

 だとしたら……。

 幸人はこの事態を収める最善手に頭を巡らせる。


「ねえ。何か言いなよ。の子豚ちゃん。あんた、んじゃない?」

 言いながら、金髪の少女はハサミを取り出した。

「その人間みたいな髪型、ウザいわね。もっと可愛くしてあげる。ほんと、な子豚ちゃんね」


 金髪少女はハサミを小太りな少女の髪の毛に当てる。そしてゆっくりと、ハサミが閉じられようとした、その瞬間、


「うわあああっ! 許さんっす」


 植え込みの陰から飛び出したのは、羽柴はしば秀実ひでみだった。

 幸人の集中力が極限まで高まる。その目に映る全てが、スローモーションだった。


 ぐっと、秀実が両手をかざす。

 ゆるりと、小柄な不良少女の首が動き、こちらを向きかける。その瞬間、小柄な少女が何かの衝撃を受け、ドン。と、後方へと吹っ飛ぶ。隣にいた金髪少女もまた、全く同じタイミングで後方へと吹っ飛んだ。


 二人の不良少女が落下するよりも早く、光が持つペットボトルが破裂する。中の水が、細いロープへと姿を変えながら伸びる。水のロープは刹那の間に二人の不良少女を縛り上げてしまう。そして、二人の不良少女が、地面に落下する。


 その直後、幸人が二人の不良少女の後頭部に手を伸ばし、地面に顔面を押し付ける。

 二人の不良少女は、呼吸も、振り向く事も出来ず、脚をばたばたやって藻掻いた。


 何もかも、ほんの一瞬の出来事だった。


「……どっちが瞬間移動を使う人かは知らないけど、縛られたり固定されたりしている時は、能力が使えないみたいだね」


 酷く穏やかで、それでいて冷徹な幸人の声が、不良少女たちの耳に届く。


「ところで、僕は優しくない人が嫌いなんだ。見かけたら、殺してやりたくなるぐらいにね。君達は優しくないから、殺しちゃおうかな。ねえ。どう思う?」


 幸人が金髪の不良少女の耳元で囁く。すると金髪は、地面に顔をくっつけたまま「ううう」と、恐怖の呻き声を上げる。


「ふうん。自分は誰かを踏みにじるくせに、自分が踏みにじられるのは嫌なのか。ますます気に入らないね。良いかい? 今度君達が道を外れる行いをしていたら、次は迷わずこの頭を粉々に砕くよ。いいね?」


 幸人は、ぐっと手に力を込める。すると金髪少女の腰の辺りから、液体が染み出して地面へと広がった。

 怖すぎて失禁したのだ。


「聞こえたのかあああっ!」


 幸人が鋭い怒鳴り声を上げる。すると二人の不良少女はビクリとして、頭を「うんうん」と、動かした。


「じゃあ、これからは人に優しくしようね。約束だよ……」


 言い残し、後頭部の手が、そっと離れる。


 暫しの沈黙。


 やがて、二人の不良少女を縛ってたロープがただの水に変わり、地面へと染み込む。

 静寂の中、不良少女達はゆるりと身を起こし、恐る恐る振り返る。だが、そこには誰もいなかった。不良少女が虐めていた、小太りの少女の姿も消えていた。



 ★ ★ ★



 一分後、幸人ゆきとひかり秀実ひでみは、中庭で爆笑していた。


「あはは。あんなに怖がらなくても良いのに。幸人、やり過ぎよ」

「だって、なんか楽しくなって。僕、もしかするとちょっとだけ、悪い事が好きなのかも?」

「凄かったっす。真田様も光様も、凄かったっす。自分、尊敬するっす!」

「秀実ちゃんも凄かったわよ。まさか、真っ先に飛び出すなんて」

「だよね。結局は、秀実ちゃんが一番無鉄砲だったね。あんなに僕を止めてたのに」

「だ、だって我慢できなかったんすよ。あんなに酷い事言って……。あんな事、人様に言っちゃいけないんす」


 三人は盛り上がる。小太りの少女はオロオロと、幸人たちの様子を見守っている。


「ところで、貴女はなんで虐められていたの?」

 光が、小太りの女の子に声をかける。


「そ、その、私は、その、あの……」

 突然声をかけられて、小太りの女の子は声を詰まらせる。


「お、落ち着くっす。自分はあんたさんの味方っす。ほら、ゆっくり息をして。辛かったすね。悔しかったすよね……」


 と、秀実は小太りの少女の頭を撫でる。すると小太りの少女は、しくしく泣き出してしまった。

 暫く話が出来そうにないと見るや、光は、金縁眼鏡アナライザーを装着して小太りの少女のステータスを確認する。


「え、ちょ、嘘……」


 光が驚きを浮かべ、呟く。幸人も金縁眼鏡をかけて、小太りの女の子を見てみた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 名前 池田いけだせんり 年齢16 レベル28

 職業 魔導士  固有属性 土

 HP 64  MP 128

 筋力  19

 耐久値 31

 早さ  23

 知性  77

 精神  62

 運   51

 魅力  67


 スキル 

 医療、薬学 C

 杖、小型杖使用術 E

 ?     D


 魔法 

 アースウェポン(地属性武器を出す)C

 アースアーマー(地属性鎧を纏う)B

 アースサーバント(地属性精霊を召喚)D


 備考

 身長152 体重?

 小学生の時に子役タレントとして活躍した。中学に入る頃には売れなくなり、引退。ストレスから過食症になり、体重が激増した。ナーロッパ転移後は過酷な冒険の日々で多少体重が落ちた。が、クラスメイトからは見下されて「子豚ちゃん」と仇名されている。

 一歳上の兄がいたが、三年前に本願寺に刺されて他界している。池田せんりは本願寺を仇と狙い、対抗戦の本願寺ほんがんじチームに潜入しようとした。しかし、兄との関係を悟られて殺されかかった。真田幸人、明智光、羽柴秀実の三人に助けられる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 幸人はアナライザーを外す。それと同時に、光が池田せんりの手を握る。


「ね、ねえせんりちゃん」

「は、はい……」

「対抗戦、あたしたちのチームに入らない?」

「え? でも、私、そんなに強くないですし、本願寺ほんがんじに目を付けられてしまったので、迷惑をかけてしまいます」

「知ってる。でも、せんりちゃんのスキルや魔法は、このチームにとってどうしても必要な物が揃っているの。本願寺と事を構えるリスクを考慮して、尚、ね。ねえ、駄目かな?」


 光に言われ、池田せんり暫し、思案する。そして……。


「わかりました。お役に立てるかはわかりませんが、あなたたちに受けた恩に報います」

 せんりは言った。


「やった。ありがとう! これでやっと、四人揃ったわ。チーム真田の始動ね!」


 浮かれる光の肩に、幸人がそっと手を置く。


「いや、チーム明智だよ。光が一番頑張ったんだから。それと池田さん。恩に報いるとか、そういうのはナシにしよう。僕らはもう、仲間なんだからね」


 と、幸人は池田せんりと握手を交わす。羽柴はしば秀実ひでみもせんりと握手を交わし、四人は笑い合った。




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