失敗
母にそうして大事に育てられたクレンは徐々に才能を発揮し、能力を伸ばしていった。もちろん厳しい修行と訓練のたまものだ。それからクレンは思った。チャンスを与えられる人間になりたいと。だが退魔師の仕事は“裁き”の仕事、なかなかそうした機会も得られず、もやもやしていたのだった。そんな事を思い出すと、ぼんやりとした景色の中で、だれかがもう一度チャンスをくれといっているような気がした。意識は遠のき、悪霊にのっとられかけていたが、クレンは厳しい修行の日々を思い出していた。山での特訓や、断食や、読経や、滝行など、小さな体には響いた。そうして過去の記憶をひねり出しているとだんだんと腹部が温かくなっていくのを感じた。
「クレン、お父さんとお母さんはいつも意見があうわけじゃないけれど、お父さんが困難を超えるときには根性だといっているでしょう、根性をいれるには腹部に力をいれるのよ、丹田にね」
すると、目の前のくらがりが少しずつひらけていく。目の前の景色が目に入った。
「目の前に悪霊がいる、ハッ、クノハ!!もう一度チャンスを……カノン……」
クレンの目の前にある光景は、捉えられた父、その前にいる男、男についている悪霊、悪霊が手を伸ばして自分にとりついていること、その背後にある、父が大事にしている骨董品の鏡。こぎれいにしてある本堂。
「そうか!」
クレンは、クノハにいった。
「クノハ、お前にチャンスをやろう、お前は悪霊じゃないのだろう、だからクノハ、俺がお前に何かできる事はないか?」
「クレン!!私に力をかして、唱えるだけでいいの“ツクモツクレモ、九十九霊に力を貸す”」
「わかった、その前に俺が気を引く、いいか?この状態じゃ中途半端な気しか練られなかったんだ、あとはお前に頼んだ」
「クノハ……」
クレンは影につつまれた顔半分をひねり、左側をむいて、まだはっきりと見える右の目でクノハを見つめた。
「信じていいんだよな?」
クノハは、力なくしゃべった。
「私は、あなたを見つけてからあなたの気の温かさを見ていた、そして今日、確かに私はあなたに恩ができた、あなたは優しい人、私にはそんなあなたを騙すことができない」
「チャンスはあとたった一度だ、悪霊だったらお前ごとはらうぞ」
クノハはなきながら、涙をふいてえみをうかべ。
「はい」
と答えた。
次の瞬間、クレンは腹部の丹田にため込んでいた、力を徐々に解放し、右手に集めやがて左手でささえると標準を悪霊と男に合わせた。
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