“フッ”とエイゾの意識がとんだようになり、一瞬体の全ての力がぬけたようにストン、とひざをつきそうになった。だが次の瞬間にエイゾ本人が意識を取り戻した。

「今お前、悪霊と喧嘩してなかったか?」

「ああ、力の強い悪霊だぞ、モノにすればお前の願いは必ず成就するだろう、期待していいぞ」

「ははっ」

 エイゾは、ひきつったような顏で、めをかっぴらきながら、固い筋肉をむりやりうごかしたように笑う。

「エイゾ、あんたとやりとりしている間に、ある程度の力はたまった、だが正直にいうとな、俺はそれほど、おやじほど力がつよくないから2,3度試す必要がある、でもあんたは、そのたびに何を信じるべきかわかるか?」

「何って、恨む意思か?」

「いや、悪霊の力は強すぎる、あんたは何があってもあんたを信じるんだよ、そうしなきゃ、あんたはあんたの意思をものにできない」

「……」

 一瞬、まるでその一瞬だけだったが、クレンのはいた言葉に男ははっと、憑き物が落ちたかのような表情をみせた。クレンは確信した。この憑き物が落ちればこの男は、これほど狂暴ではないし、これほどぶっ飛んだ行動も起こさなかったのだろうと、男自身の恨みさえも、件の女が男に芽生えさせたと考えれば、何とも皮肉な物語だった。

「いくぞ!」

「いま、だれに……」

 クレンは呼吸を整えると、頭でイメージした。もしクノハの力が本当はでたらめだとしても、クレンはクノハが稼ぐ時間で二度目の力を使う。悪霊の気を少しでもひけるなら、御の字だ。クレンの力は一度目は失敗してもいい、とにかく男とその背後の悪霊との意識を分断し、あるいは混乱させ、その隙をねらって、あわよくば除霊、あわよくば分断すればいいのだ。

「ハアアアア!!」

 クレンは思い切り、陽の気をため、再び悪霊めがけてはなった。

「やっぱり、お前!!!」

 悪霊にささやかれた男が、クレンを疑う。

「お前の悪霊はお前の感覚を乗っ取り、主従関係を変えることを拒む、お前はどうすればいいんだ!!?」

「……自分の意思を信じる……」

(しめた)

 クレンは心地のよい笑顔をみせた。男と悪霊の“結束”ははがれかかっている。一般人には、それが除霊だろうが呪いだろうが、そんなことは区別がつかないだろう、悪霊の“ささやき”さえ封じてしまえば、除霊は行える。

 クレンの放った光は、男の腹部、言い方をかえれば男と一体化している悪霊の腹部に命中しようとした。だが男はその瞬間、すさまじい瞬発力で、右にダッシュした。

「いま、なんで、体が勝手に……」

 男は自分の身体的行動が無意識に行われたことにきづき、唖然としていた。

「くそっ」

 クレンはくやしさを思わずくちにしてしまった。

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