クレンは座禅をくみ、一心に念じ始める。片目を開けながら男を観察する。男は悪霊に思考力を奪われており、さほどかしこくない。それにこの程度の体つきなら、持ち前の身体能力でなんとかなるとクレンは見込んだ。

「~ブツブツ、~ブツブツ~」

 だが一方で問題が、あの力がつよく、こざかしい悪霊のほうだ。どうやら宿主の心理に語り掛けることが出来るらしい。であれば、悪霊にはこざかしい真似はきかないだろう。だが男と悪霊の意見や思考を混乱させ、引きはがすことさえできればいい。

 ふと男の背中でバシバシっと家鳴りのような音がなりひびく、それもそのはず、クレンは男の背後に念を送り、陽の気を悪霊にぶつけようとしているから。悪霊が男にささやいている。

「なあ、お前俺に何かしようとしていないか?」

「なぜ?」

「なぜって、さっきからなんか妙な雰囲気が……」

「それなら、今すぐにやればいいことだろう」

「いや、時間がかかることをやろうとしてるんじゃないか、俺の悪霊に何かしたり」

 どうやら悪霊は細かい情報まで、男の心理にささやくことができるようだ。

「俺の?悪霊?主従関係をいまからひっくり返そうとしているんだ、まだお前が悪霊に取りつかれているだけだ、それに、もしお前の悪霊をどうにかできるなら、先ほどのタイミングで俺は何もできなかった事はどう説明できる、俺は十分時間をみて、お前と父親の様子をさぐっていた、俺はそんな莫大な力をもっていない」

「うーん、たしかにあの女、せがれの事はあまり口にしなかったがなあ、なんだろうなあ、気持ちが落ち着かねえというか」

「悪霊に操られているのだ」

 それは紛れもない事実だった。クレンはでたらめを口にしてもいるが真実も含まれる。悪霊は呪いを好むし、呪いを餌にする。それを食べるためだったら、何だってする。

「おまえ、俺とこの男の仲を引き裂こうとしているだろう!!」

 だみ声の、エイゾというの男より幾分か年をとった初老の男の声が、男の口から響いた。その時悪霊は完全に男と折り重なっており、幽霊の見えるクレンにとっては、むしろ本来の男の姿のほうが鈍く薄くなっているくらいだ。悪霊は着物をきて、古い時代の髪型をして、こちらをにらめつける。

「お前、エイゾじゃないな?やはりでてきた、悪霊、エイゾ、中にいるだろう、今から主従契約を結ぶためにこの悪霊をとっちめる、心配するな、術の中でお前は利用される側から利用される側に代わることができるのだから!!」

「エイゾ!!こいつは詐欺師だ!!いう事をきくな!!こいつは悪い奴だ!」

 クレンはクスリとわらった。

「いいやつだ悪いやつだと、一体何をみて判断するという、むしろ悪くなければこの術は使えない、悪霊は自分が主導権を握ろうと、あんたの味方だとあんたに語り掛けるが、悪霊があんたに何かしてやったことなどない、力ある側が、お前に力を見せて初めて、あんたは信用するべきだ!」

「くっ!!」

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