悪霊
ただ、たしかに男が襲い掛かってきたのだが、憑き物は完全に人型の黒い影、悪霊の姿をあらさし、男と折り重なるように覆いかぶさっていた。
(力の強い悪霊だ、男の意思に干渉している!)
クレンは、襲われながらもそんなことを考えていた。
「おい、ちょっとあんた、意識をもて!!あんたすでに取りつかれているぞ!!」
「……ああ?なんだ、このクソガキが、お前はただいう事を聞けばいいんだよ、やるのか、やらないのか……返答しだいでは……」
男は刃物をなめ、ニヤリと笑う。
「……俺はもう……」
そう言いかけた時、生善が大きく横に首をふった。大体の意味を察する。
「ああ、やってもいいが、少し準備がいる、あんたが襲い掛かっている状態じゃできねえだろう」
男はきょとんとしながら
「それもそうだな」
とこちらをむいて胡坐をかいた。
(まいった……こまったことになった)
クノハがゆらゆらと近づいてくる。台所で何があったのか、体中調味料や何やらでよごし、とほほというような表情で浮きながら近づいてきた。
「クレンさん、状況は、あっ……」
彼女も、エイゾという男の背中に宿る邪悪な気配の、これまでにない大きさをみて、つぶやいた。
「これは、予想以上の強敵ですね」
「ああ、作戦を練るしかない……」
「何だあ??」
男が大声をあげる。
「少し時間をくれ、いま座禅を組んで集中力を高めるところだ」
「ああ」
男は思考力が鈍っているようで、あまり疑うことをしらなかった。その部分は、こちらに有利に働いているようだ。
「今度は逆をやろう、クノハ」
「どういう事です?」
「僕の力はにぶっている、だがあと2回もつかえばなんとかなるだろう、それまでに君にも、君の自称する力をつかってもらいたい、もしそれが使えなくとも、君は神通力でなんとか、彼と彼の背中の悪霊を一瞬でいい、引きはがしてもらいたいんだ」
「わかりました……」
その他様々な話し合いを終えると、クレンは、男にいった。
「準備がととのった、俺と向き合いすわってくれ」
「ああ、だがいっとくが、俺を騙したら……」
「静かにしろ」
「ちっ……わかったよ」
作戦はまず、クレンの力を使い、先ほどの逆で、クレンがまず自分のまだ完全ではない力で、敵の気をひく、その間にクノハが、敵二人を分断する。クレンはクノハがそこまでしなくても大丈夫だとおもっていた。もし何かあれば、自分が普段から鍛えている武術、柔道で、一度男を打ち倒せばいいのだと。そうすれば、きっとさすがに悪霊による男の支配も弱まるだろう。
男が、クレンをみながら、話しかけてきた。
「なあ、お前、俺を騙そうとしてないか?」
クレンは頭をかいた。悪霊が男にささやきかけているのが見えたのだ。
「どうしてそう思うんだ?」
「どうしてって、勘で」
「お前の背中には悪霊がついている、お前を洗脳しようとしている」
「じゃあ、いいじゃないか、そいつも呪いに使えば」
「事はそう簡単じゃない、お前が従える側にならなければならない、いま、お前は悪霊に支配されている状態なのだ、それを逆転させるために今から魔術を行う」
クレンは今考えた口からでたらめを口にして、その場をしのいだ。彼が体全体を流れる“陽の気”を腹部に集める時間を。
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