奇襲
しばらくすると男が帰ってきた。生善は何もなかったように取り繕う。
「誰かいたか?」
「何も?いやあ」
「ん?」
「あの女のいっていたこと、一部は本当なのかもしれねえ、あの女は俺に呪ってほしかったのだろうか?」
「……」
生善は取りつかれた男の妄想と、まるで男の妄想に入り込み、男を思うがままに操ることができて喜んでいるかのように、人影をなし、その口元で笑う男の背後の黒い影がみえ、この悪霊が相当に手ごわいものだと感じたのだった。
「どういう事だ」
「いや、今の今まで半分はあんたの能力をうたがっていたのさ、だが、あんたは本当に何かこの世のものではないものたちと親交があるらしい」
男はゆらゆらとゆれ、しだいに生善の目の前に近づいてくる。その足取りは、暗い影のような彼の憑き物、怨霊の上半身の動きに完全に連動していた。
「それなら、あんたは人を呪えるはず、あんたがいう事を聞かないなら、あんたを呪ってでも、あんたの力を使わせてもらうぜ」
(まずい!)
そう思ったとき、男の背後に忍び寄り、小声で秘伝の術を唱えるクレンの姿が見えた。
「ジョウゴラクジョウゴラク、ゴラジョウ」
クレンは、右手の親指と人差し指で輪を作り、左手でその下をささえるようにして、印をつくると、やがてクレンの背中が輝きだした。
(クレン、やはりなまっていなかったか……)
「ハアッ!!」
そう生善が喜んだ、次の瞬間、クレンの喝とともにクレンの手から光がはなたれた。その光は、悪霊へむかっていく。
「これで、安心だ、やはりおまえはできた息子だ」
生善は目をつぶる。その顔は満面の笑みだった。やがてクレンの放った光が、悪霊にの直ぐ傍にきて、悪霊はそれにきづいたようにふりかえる、そして、男の首をつねった。
「いでえ!!」
男は、首の痛みにあたりを見渡し、振り返る。その瞬間、クレンの存在に気づいた。
「ん?なんだこの小僧は……」
クレンは、驚きによって、集中力を失い、悪霊のすぐ前で、クレンの放った光は霧散してしまったのだった。
「小僧、お前どこの……はっ、お前まさかこの男のせがれか?確かに、あの女がいっていたが……お前も魔術が使えるか?」
「クレン、まずい、にげろ!」
生善が叫ぶより早く、男はとびあがって、クレンにおそいかかってきた。クレンは全く躊躇いもなく、右手ににぎった刃物を大きく振り上げ、クレンにむけて振り下ろす、クレンはとっさにその一撃をよけたのだった。
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