決闘
クレンとクノハは意を決してお互いうなづき合図を送る。
(コクリ)
(コクッ)
そしてクノハが、反対側の入り口付近へ飛んでいき、大きなラップ音を立てる。
ラップ音というのは、何の干渉もない状況、場所で鳴り響く音で、一種の心霊現象として言われたりする。
《バキッ、バキバキッ》
「何だ!?」
「ただの家鳴りだろう」
「??お前、なんださっきから、何でも知っているみたいに、何か怪しいぞ」
「そうか、なら確かめてくるといい」
生善にも、クノハの姿はずっと見えており、その姿形の特徴から彼女がクレンのいっていた“公園の霊”であることもわかったし、悪意のない事もみてとれたので、きっとクレンと連携しているだろうことも推察がついた。一方クレンがそこにいるのは気配で理解したのだった。
「見てくるか」
そういって、エイゾという犯人の男は刃物をもって、のそのそとそちらの方に近づいていく。結構体つきはよく、そこそこ筋力がありそうだ。そして、正面からみて左側の入り口にたどり着いた。丁度そのころ、男はそこで足をとめて、胸元を両手でおさえた。
「ぐっ」
「どうした?」
「何かわからんが、胸が苦しい、体も重いし、なんだここは、お前何かしたか?」
「さあ?俺は人を傷つけるような術は使わん、そんなことをすれば破門だ、まあ悪霊の一つや二つくらい、寺をさまよっていても不思議ではないがなあ」
「……」
その頃さらに奥、クレン達の居住場所にクノハはたどり着き、そこで食器をとり、下に思いっきりたたきつけた。
《ガシャン!!》
「何だ!?誰かいるのか!?」
「さあねえ、警察かもねえ」
「!!……見てくるか」
男が奥へいったので、しめしめ、とくちを緩ませながら、生善は動きをまった。男が奥へ行ったのと同時に、クレンが反対側の入り口からこちらに近づいてきた。
「父さん、大丈夫か」
「クレンか、やはりきてくれたか」
「いまほどくよ」
「いや、かなりつよく結んである、無理だ、それよりお前はもう一度かくれて、男を俺が油断させているときに除霊を頼む」
「……」
「大丈夫だ、クレン、ほら、あそこの張り紙をみろ」
そういって目で合図を送った先には、仏像の脇にこんな文字が書かれた紙がはりつけられていた。
「困難な時こそ、根性」
おおよそ寺にふさわしくないような、何の利益もなさそうな言葉だが、これは父親の生善のいつもいっている言葉で、困難な時にこそ、それを乗り越える根性さえ持っていればたいていの状況はなんとかなるというものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます