憑き物。

「この憑き物、この男を相手にしているこの状態の私一人じゃどうにもできない、こんな時に、クレンがいてくれたら……」 

 そういいかけて生善は大きく首をふった。

「いかんいかん、あの子には、自由な道を選ばせてやらなければ、それが妻の願いでもある……」

 一方クレンとセイヤはその頃ようやく、急いで寺にかけつけた頃だった。噂をかけつけた野次馬や、警察があたりを取り囲んでいる。警察はまだかけつけたばかりで状況を掴めていない様子で、責任者か何かが話し合いをしている。

 セイヤは、クレンの様子をみると、クレンはこぶしをにぎりしめ、歯ぎしりをしていた。まるで何もできない事に怒りを抱えているように。それをみてセイヤは彼の肩をポンとたたいた。

「なあ、お前、こんな時には何でもしてやりたいんだろ?」

「……」

「お前は柔道もやってるし、退魔師の特殊な力だってある、警察が何かするまえに、こっそりと偵察にいくか?」

「けど……」

「大丈夫、お前が身内が危機の時何もできないくやしさはしっているさ、本当にあぶないなら、逃げてこればいいから、俺が時間かせぐから、裏口から入って様子をみてこい」

 そういうとセイヤは、人込みの中にはいっていった。そして大声で叫んだ。

「ああ!!!腹が痛い!!!誰かにけられた!!乱闘さわぎだ!!」

「!?」

「どこだ、何だなんだ?」

「ギャー!!!」

 セイヤがひときわ大きな声で叫んだ。狂人か、何ごとかと混乱して彼が注目される間に、クレンは普通の人はとおらないけものみちの裏口を通り、中へ、本堂の裏手へ侵入した。そこで、こっそり眼だけだして本堂を覗いた。

「~♪」

 クレンはそこで奇妙な光景をめにした。確かに父親が仏像の前、縄で縛られ身動きがとれなくなっている。そしてその正面に長めの刃物を持った男があぐらをかいている。だがその男の背後で、あわただしくうごく見覚えのある少女の姿を確認したのだ。

「ク、クノハ、あいつ何やって……」

 そういいながら、クレンは彼の、犯人の背中の黒いモヤを確認した。

「まさか、憑き物が……」

 と同時に、クノハは、そのつきものを手でつついて、わらったり、怒ったりしていた。

「ちょ、バカ、あいつ何やって!!」

「ああん?」

 少し大きな声をだしたところで、犯人が真横―こちら側―にめをむけそうになったのですぐに顏をかくした。

「鼠でしょう……今朝罠にかかっていましたから」

 そういいながら、生善は、口元をにやりとゆがめ頭の中でこんな事を考えた。

「クレン、きてくれたか」

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