第8話 日常から解放され、人間は自由になる。
スポーツ(sports)の語源は「deoportare」というラテン語が由来である。「離れる」という意味を持つ「de」と、「運ぶ」という意味を持つ「portare」という二つの単語が組み合わさった単語であり、「運ぶ」ことを日々の労働と捉えており、「日常生活の中で単調な仕事をしている自分を解き放ち、自由になる」という意味となる。他にも「遠く運ぶ」を語源とした説もあるのだが、私は前者であると考えている。いずれにせよ、体育祭という催しにおいて、生徒が無駄にはしゃぐのは、当然のことなのかもしれない。
「河合…やっぱお前、実はやる気あるんじゃねーの?」
私は徒競走を終え、テントに帰ってきて第一声、山村がそのような事を言った。
「無いな」
「いやいや、そんな奴が七人中三位を取りますかって話だよ」
疲れない程度に走った結果なのだが、どうやら良いらしい。私にとって、徒競走の結果など、どうでも良いのだが。
「ただの結果だろう。私は勉強に戻る」
「了解。俺も単語帳見ながら応援しようかな!」
果たしてそれで効果があるのだろうか。
「クラス対抗だからなぁ。先輩に負けるのは、まぁ仕方がないが、同学年に負けるのは悔しいところがあるな」
「まぁ、河合が割と好成績なおかげで、八クラス中、そこまで低く無い順位にはなりそうだなぁ」
「でもやっぱ、一位は無理かなぁ…。ま、体育祭は始まったばかりだし、ここからってとこだな!」
「いい加減黙って勉強したらどうだ?」
黙って単語を覚えていたが、流石に耳障りであった。そしてこいつは、やはりというべきか、体育祭を楽しもうとしているらしい。権利として自由ではあるが、くだらないの一言に尽きる。
「お、徒競走終わって、次は借り物競走だから、行ってくるわ!」
返事をするのも憚られる。正直どうでも良いのだ。私の所属するクラスが、どこのクラスに勝とうが負けようが、私に降りかかる害悪に変動はない。
借り物競争が終わり、私が出場した障害物競走も今し方終わった。確か障害物競争の次は昼休憩であったと記憶している。そして、私は出場する競技は、午後にある全員リレーのみとなった。しばらくは勉強に集中できそうだ。
「…なぁ、やっぱお前、相当にやる気あるんじゃねーの?」
「何故そう思う?」
「いやそら、障害物競争一位だからだよ」
「やる気は無い。考えるに、恐らく計算問題で躓いた者が多かったのだろう」
「計算問題?」
「「2024を素因数分解しろ」だったか。こんな簡単な問題を即答できないとは、やはりこの学校はそこまで偏差値の高い高校ではないようだ」
「えーと…2で割れて…2で割れて、2で割れて…253って何で割れるんだ…?」
「「2025-1」か「1001判定」のどちらかを使え」
この二つが即座に出てこないあたり、こいつはもう少し勉強した方が良いらしい。
「あー!なるほどな。そうかそういうやり方か!」
「これくらい一瞬で出せ」
「いや河合。走ってる最中にこの問題をパッと出されて即答できる人間はそこまでいないと思うぞ」
「そうか」
どうでも良いな。それに、この程度、難関中学を受験する小学生は知っているであろうし、まして高校生にもなってこの程度のことすらできないとは、笑えない。
「さて、昼飯も食った事だし、午後も頑張りますか!」
…はぁ、くだらない。
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