第7話 L'important, c'est de participer.

 六月の初め、記述模試を終えた私達を待つのは、体育祭であった。名称については色々あるらしいが、我々の学校では体育祭という名称が用いられているため、これを使う。そしてその内容さえも、千差万別であり、我々の学校では、単純にクラス対抗で行うらしい。高校生である以上、学年間で少なからず身体的な差が生まれてしまうと思うのだが、些細な問題なのだろう。面倒なのがこの体育祭も授業の一環であり、単位が出ているということだ。私の出席日数を鑑みれば、この体育祭を休んだところで問題はないのだが、割と自由時間があるため、勉強に時間を回すことができると考え、出席することに決めた。机が無い以上、単語帳を読むなどの暗記か英文の速読くらいしかできないだろうが、何もしないよりはマシだろう。

「おはよう河合!まさか本当に来るとはな」

「天秤に掛け、良いと判断した方を選んだだけだ」

僅差ではあったがな。まぁ、三年の体育祭を休むためと考えれば、得であろう。

「そうか。まぁ、その感じを見るに、運動する気は、これっぽっちもないようだが?」

「ああ」

「ま、俺も少しは参考書持ってきたけど、自分の担当種目は本気でやるつもりだぜ」

「それはお前の自由だが、帰宅後に勉強できる程度の体力は残しておけよ」

「お前も参加する以上、真面目にやったらどうだ?」

「必要ないな」

体力の無駄だろうに。

「いやまぁ「参加することに意義がある」とは言うけど…真面目に参加しないと意味が無いと思うぞ、俺は」

「「L'important, c'est de participer.」か、参加だろうが共有だろうが、どちらにせよ私にはどうでも良いな」

「なんて?」

 この言葉は、1908年に開かれたロンドン大会で、クーベルタン(Coubertin)IOC会長が、エチュルバート・タルボット(Ethelbert Talbot)司教の発言を下敷きに、演説のなかで使ったことで有名になった。「participer」には、「参加する」という意味があるのは勿論だが、「共有する、分かち合う」という意味も含まれている。よって「勝つことではなく、何かを分かち合うことに意義がある」という解釈もできる。

 どちらの意味であったかは私にはわからないが、今の私には「参加」も「共有」も必要ない。それは確かであろう。

「そういや河合って何の競技に出るんだ?」

「全員共通の競技は強制、最低一つ参加しなければならない競技は障害物競走だな」

「へぇ〜河合にしちゃ以外だな。体力使いそうなもんだが…」

「個人競技だからな」

脳の無い獣と馴れ合うなど、ごめん被る。

「まぁ頑張ろうぜ!クラスの奴らは一位取るって言ってやる気満々だしな」

「…くだらない」

私は山村にも聞こえないくらいの小声でそう言った。別に一位を取りたいのであれば、自由にすれば良いと思う。しかしながら、その思惑に私を巻き込むことだけはやめて欲しいものだ。

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