第6話 水源を巡って争う者達、なんてくだらない。
殆どの学生にとって、教育は学歴のためにあると私は思う。科学を先に進める学者という存在、それ以外の求道的存在になる者にとって、学生という身分で受け得る教育は、それはそれは価値あるものなのかもしれない。しかし、ただ幸せになりたいと思い、ただ富裕になりたいと思い、ただ良い企業に入りたいと思う浅はかな人間が殆どだろう。その中で優秀な者は、シグナリング理論に基づいて行動するだろうし、そうした方が良いとも思う。学校教育が全くの無価値であるとは言えないが、数学を学ぶ理由が「受験科目にあるから」という回答をする者が多い現状、学歴の取得のためと言っても過言ではないだろう。
定期試験が終わったからであろうか、放課後の学校は少しばかり騒がしく思えた。期間中は部活動は禁止されているため、抑圧から解放されて嬉しいのだろうか。私には理解できないな。
「河合、すまんが今日先生に呼ばれてて、職員室に行かなきゃいけないんだけど…」
「そうか」
「…待っててくんない?」
「必要ない。先に帰る」
「ですよね」
何故私が待つ必要があるのだろうか。勝手に一人で帰れば良いだろう。くだらない。
この学校の部活動は別に強制というわけではないため、少なからず教室や廊下に人が残っている。最もなぜか今日の廊下は、私の視界には一人しかいない。人を避けながら歩くということを行う必要がないというのは気が楽だ。
「…あなたが河合冥仁さんですか?」
…よりによって唯一の人間が、私の妨げになるとは思いもよらなかったな。
「そうですが」
「ご存じかと思いますが、私は入学式で代表挨拶を務めた
知らないが、前に来た会話すらままならない獣よりかは礼儀を弁えているらしい。
「何か御用でしょうか」
「突然ですが、あなたを私のライバルと認定しました」
意味がわからないが、あまり私に直接干渉することではないようだ。
「そうですか。どうぞご自由に」
「待ちなさい。ちゃんと私のライバルとしての自覚はお有りで?」
…他人にどう思われようと知ったことではないが、面倒になるのなら話は別だ。
「自覚というと?」
「だから、テストで私に勝ったでしょう?嬉しいでしょうね、私より上で。相当努力したのでしょうね。そしてその努力を評して、私と戦う権利をあなたにあげようかなぁと思いまして」
全く意味がわからない。彼女は私に権利を与えようとしているのか?理解に苦しむな。
「お断りします。そのような権利、私は欲したいと思いませんので」
「この私のライバルですよ!価値は低くはありません」
「価値というのはその人間にとって大きく変わります。あなたのライバルというものに、私は何の価値も見出せません」
「ふざけないでください!この私から一位を奪っておいて!」
奪う?私は奪った記憶などないのだが。
「奪った記憶がありませんので何とも言えませんが、ではあなたが私と同じ点数を取れば良いのでは?」
「そ…それは…」
「あなたは先程、私にライバルになるようにおっしゃいました。元々「ライバル」というのは、ラテン語で「小川」を意味する「rivus」の派生語である「rivalis」が由来であり、これが「同じ川を巡って争う人々」から「一つしかない物を求めて争う人々」という意味へと発展し、今の意味を持ちます」
「それがなによ!」
「試験における一位というものは、もし同点であった場合、両者共にその地位に君臨することができます。要は、学力試験というフィールドにおいて、ライバルという存在など必要ないのです」
「で、でも、競争相手は自身の能力を上げる良い関係です!」
「多くの人間にとってそうかもしれませんが、私にとってはそうではありません。回りくどい言い方はやめましょう。くだらない話に付き合うつもりはありませんので、先に行かせていただいてもよろしいでしょうか」
「…く…くだらない…」
「ええ、ですので、先に行かせていただいてもよろしいでしょうか」」
「…」
沈黙は是也。5分ばかりのロスか。まぁ乗車時間には十分間に合うだろうし、問題は無いか。
世の中にはいろいろな生き物がいるものだ。人間の皮を被った獣が、些か多すぎる気がするが。
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