第5話 優先順位

 五月中旬、定期試験の一つである中間試験の全日程が先日終了した。全日制の高校では、3学期制ならば年5回、2学期制ならば年4回の考査が行われるのが普通であり、我々の高等学校は後者である。私にとってこの定期考査は別段悪いものではない。午後の時間が自由に使えるため、自分の勉強に使える。ちょうど五月の終わりに模試を控えている私や山村からすれば、有難い話だ。最も、山村は自身の成績に不安を抱いているのか知らないが、少しばかり定期試験の対策に時間を割いているようだが。事前に山村には「留年しない点を取れば良い」といっておいたのだが、無駄だったようだ。

 勿論、内申点を軽視していると言うわけではない。一般入試においても、内申点を点数とする大学も存在するし、一部国立大学の合格判定の基準において、試験の総合得点が同点である場合、調査書の優劣で決めると言うことがある。また推薦入試には内申点が必須である。医学部志望ならば、地域枠にも内申点が必要になるため、内申点が高いに越したことはない。山村には、一部学費が免除となる場合がある地域枠が向いているかもしれないが、結局学力が必要なことに変わりはない。それに、私が行く大学に行きたいらしい。私がいくであろう大学には地域枠というものがないため、山村は必死で勉強する必要がある。にも関わらず、無駄なことをする山村に、私は呆れているのだ。はぁ…くだらない。

 この学校は、定期試験を行なった次の週には廊下に結果が掲示されているらしい。私は興味がないので見てはいないが。

「河合、お前、中間の結果見たか?」

「いや。必要ないだろう」

中には結果は個人にしか通達されない学校もあるらしいが、この学校は全校生徒の結果が掲示される。競争意識を強くするためなのかは知らないが、最近ではプライバシーの問題として話題に上がっているらしい。

「まぁ、お前らしいな。因みに言っておくと、河合は一位満点、俺は三位だったぜ。さすが河合だな!」

「くだらないことを言っていないで、間違えたところでも見直したらどうだ?」

「くだらないって…」

「学校の教師が作った試験で点数が取れても意味がない。まぁ数学と理科、それに英語は少しは受験を意識した問題もあったが、それでもあんな問題できて当然。社会と国語に関しては無価値だ。授業で扱った文章の読解など、何の意味も無い」

勿論、有名な文章の問題が出る場合もある。例に挙げれば、梶井基次郎の小説が題材として挙がったり、星の王子様も確かあった。だが、結局は初見の文章に対する対応が無ければ、いつかは詰むだろう。それを考えれば、どれだけ無意味か、解るだろう。

「まぁなぁ」

「それに、お前には模試が控えているだろう。さっさと勉強しろ」

「わかったよ。というか、この前受けた模試の結果っていつ分かるんだ?」

「六月入ってすぐにwebで確認できる」

「了解。んじゃ、記述の対策でもしましょうかね」

それにしても、山村より定期試験の成績が上の者がいるのか。山村も高校一年生という括りで見れば、上位であると言うのに。まぁ、勉強をすることに優劣は存在しない。結果に優劣がつく以上、競争意識を感じざるを得ないだろうが、実行することが大切なのだ。少なくとも私はそう思う。

「あ、そうそう」

「…まだ何かあるのか」

「いやさ、お前入学式の代表挨拶蹴ったじゃん?」

「だから?」

私は少し呆れている。早く勉強に手をつけろと、心の中では思っているのだが、それを口にすることすら馬鹿らしく思えてきた。

「だから、代表挨拶したやつが1位じゃないって、ちょっと話題になってたぜ」

「何故?」

別に関係ないだろう。一ヶ月と言う時間で、人は大きく変わることができる。その間に追い抜いていようが、不思議なことではないだろう。

「何でも、その2位の…何だっけか、ちょっと名前は忘れたが、その人が割と裕福な家庭の、所謂お嬢様で、そっちが話題と言った方が正しいかな。まぁ、河合は関係ないだろうよ」

「そうか」

どうでも良いな。まぁ親の収入と子供の学力には相関があるが、その背景には多くの理由があるし、それに該当しない者もいる。私の家庭は裕福な方なのだろう。だが、正直どうでも良い。養育費を払ってくれるという契約をした以上、私の懸念は親が死亡した場合だ。奨学金という制度がある以上、私が学ぶことに支障は出ないだろうと予想はしているが、未来はわからない。残念ながら、私は悪魔ではないからな。

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